第一章 ボトムアップ

第2話 日曜日夜11時

 それは、真奈美がPM宣告を受ける3ヶ月ほど前のこと。

 1月中旬の日曜日、夜11時を過ぎた頃だった。


 ベット脇の会社支給スマホのバイブが鳴り響く。

 真奈美は布団から顔と手だけを出すと、スマホに手を伸ばした。


(こんな時間にメールが来るなんて……)


 すると、背後から素肌の背中に触れる温もりを感じて、驚いて振り向いた。


「ごめん、起こしちゃった?」

「いやいや、大丈夫。メール、会社から?」

「そうみたい……珍しいわ。何かあったのかしら」

「日曜のこんな時間に働いている人がいるの?」


 彼は慎ましやかな真奈美の両胸をそれぞれ両手で包み込みながら質問する。

 肌から肌へ、直接触れ合う温もりが真奈美の体を突き抜ける。


「もう……」


 真奈美はいたずらな彼に半ば呆れつつ半ば愛おしく思いつつ、彼の頬に手を当てながら、さっきの質問に答えた。


「私の上司、週七日24時間働いていると言われても不思議じゃないほど仕事が好きらしいのよね……」


 案の定……メールの送り主は、真奈美の上司、山田チーフだった。


『明日、朝一番に落合CTOから、酒井さんに相談があるみたい。明日朝早いけど、8時にCTO室に行ってくれるかな』


 真奈美はその文面を見て驚いた。


 落合CTOにはこれまでも肝心な場所で何度か助けてもらった経緯があるので全く接点がなかったわけではない。

 とはいえ、相手はCTO常務執行役員兼開発本部長、いわば白馬機工の技術トップの役員だ。

 まだ課長になって1年も立っていない若造の真奈美は、そんな天井界の人物から名指しで呼び出されるような経験はしたことがなかった。


「CTO?偉い人から呼び出されたもんだ」

「そうみたい……ちょっとドキドキする」

「大丈夫。真奈美なら問題ないよ」


 そうして彼の両手が真奈美を抱き寄せる。

 真奈美はゆっくりと目を閉じると、彼の素肌の温もりを直接感じながら、その温もりに溺れていった。

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