460話 出席者たち




「場所に関してはもう心配いらないよ。開催時間も、昼から夕方にかけての時間になりそうだ。残る問題は……出席者だね」


 リーダーはやや声のトーンを落としてそう言った。


 出席者。

 そう、国としてのもてなしを含むことになったせいで、なんか出席者が増えたらしい。国側の人も入れたいということだろうか。


 タリクファール公ご本人やオルヴィータはもちろん出席できないが、ここで「出席したい!」と名乗りを上げた人がいるようです。


 姫騎士ロズヴィータ。

 事情を知った彼女が猛烈に参加したがっているそうだ。マジか。


 ダインが苦いものを食べたような顔になった。



「あれも環位だろォが……まさか兜を着けたまま参加する気じゃあるめェな?」

「そのことだけど、彼女は護衛という名目で参加するようだよ。主体はパル・アヴィータとなるようだ」

「!」


 パル・アヴィータ!

 アディ!


 アディが参加するのか!

 俺は思わず立ち上がった。またアディに会えるとは思わなかったぞ、うれしい!


 リーダーは、そわそわする俺を微笑みながら眺めていた。



「名目上の主賓がパル・アヴィータであれば、国とは関係ないと言い張れるからね。歌姫である彼女を、宴に招待したとして何ら問題ないだろう?」

「ほお、じゃあパル・アヴィータの歌を聴けるかもしれねえんだな。そいつは楽しみだ」

「チッ……ロズの奴、ちゃっかりしてやがらァ」


 ダインは実に不満そうだが、俺はご主人と同じで楽しみだ。もてなす側だから、あんまり話せないかもしれないけど。


 ノーヴェが考え込むような顔になった。



「……なんだか、ますます『決闘』から遠くなってる気がするよ。不満はないけど」

「ここで、さらに知らせなくてはいけないことがあるんだ。……実は、『西の果て』側の協力者もこのに参加することになったんだよ」

「いまさら一人二人増えても問題ないだろ。どこのだれが来るんだ?」


 『西の果て』側の協力者?

 急に新しい人が出てきたな。協力者って、なんかあんまりいい響きじゃないんだけど。他の太陽の民だろうか。



「──皇国ハルディラの商人、ラウハーヴァという人物だ」


 ゴトッ。


 俺が取り落とした湯呑みの音が響いた。


 幸い中身は飲み干して空だったし、分厚い絨毯に護られて割れずに済んだ。


 危ない危ない、ふぅ。


 ……いや、何だって?

 ハルディラの商人ラウハーヴァ?


 聞き間違いじゃないよな。そんな国のそんな名前の商人はひとりしかいないだろう。


 ベサミィの様子から、この街に来てるかもとは思ってたけど、本当に来てたとは。そして『西の果て』一行の協力者だったとは。


 正直、めっちゃびっくりした。



「なんだァ坊主、そいつを知ってんのかァ?」


 速攻でダインにバレたので、俺はごそごそと羊肉ジャーキー……は見当たらないので、テーブルに乗ってた普通のジャーキーを一本手に取って掲げた。


 あのめちゃうまジャーキーをくれた人です。



「何!?あれを売ってる商人なのかァ?」

「おや、そうだったのかい。まだ取り扱っているだろうか」


 売ってるかも。俺もまた欲しい。

 心配から一転して、みんなは興味津々になった。


 こっそりご主人の顔を伺ったが、特に変化はなかった。ラウハーヴァは『権能』を持ってると公言していたし、俺たちは並々ならぬ因縁というか契約を結んだ仲なのですがね……。


 しかし、ジャーキーより重要なことがある。


 それは、商人ラウハーヴァは、皇子でもあるってことだ。王族です。第七とか言ってた気がする。


 つまり、今回の件に皇国ハルディラも関係してくるかも……ってことだ。ラウハーヴァは商人として来るだけかもしれないけどな。


 またややこしいことになっちまったぜ。


 でも、意外というか不思議だ。


 北の端っこのほうの国ハルディラの商人が、『西の果て』というはるかに離れた場所の人たちと協力するなんて。商人と協力というからには、商売上の付き合いってことなんだろうけど。


 移動とかどうやってるんだ?

 端っこと端っこだぞ?


 わからん。首を捻ったが、答えは見つかりそうになかった。


 ラウハーヴァは加護とか『権能』とかあるらしいし、なんか加護パワーでゴリ押してんのかな。加護ある人って、ゴリ押しがすごいからな……と、俺はご主人を眺めながらそう考えた。


 思えば、ベサミィ、大戦士ベハムーサも加護ゴリ押し系という気がする。



「……この商人の介在によって、『西の果て』一行はミドレシアでの療養が実現したようなんだ。つまり、今回の件に無関係とは言いがたい立場なんだよ。実際、今日の話し合いで『西の果て』側の交渉人として現れたのは、商人ラウハーヴァの従者シシルという人だった」


 おお、あの黒髪の有能そうな人か。

 もう一度会えるとは。


 もしかしたら、ベサミィの雇い主というのもラウハーヴァのことかもしれないから、ベサミィも護衛として来るんじゃないか?


 なんだよ、もう。

 こんなのお祭りじゃん。俺の知ってる人ばっかり来るなんて、すごいことだ。なんかすごくドキドキしてきた。


 でも、アキはちょっと不満そうな顔になっていた。



「また他人が増えるのか。『闘い』の場をこれ以上汚されたくはないのだが」

「アキ、これはアキにとってもいい話だよ」

「何故だ」

「本当に気がついていないのかい?珍しいね」

「だから何の話だ」


 本気で驚くリーダーに、アキは少しイライラしたように返事した。


 気がつくって何にだろうか。



「この『闘い』は、『西の果て』の人々にとって、かなり不利なんだ。故郷とは全く異なる土地で、自国の食事を用意するわけだからね。彼らがこの冬の時期にどうやって満足のいく食材を準備するんだい?」

「……この街は食材の種類は豊富だ」

「そうは言っても限りがあるよ。料理という面で、あまりにもアキに有利だ。そこで、いつもやりとりしているその商人が、彼らを食材などの面で支援してくれるという話になったんだよ。これで対等な闘いが行えるというわけだ。……アキ、君だって真っ当な勝負を望んでいるだろう?」

「…………」


 アキは黙り込み、やがて不承不承うなずいた。


 ラウハーヴァのおかげで、相手側の食材問題が解決したってことか。……いや、なんで食材を揃えられるんだ。商人ってもしかして世界最強なのか?加護ゴリ押しなのか?


 アキは良くも悪くも公平だ。相手が不利だからって喜んだりしないタイプ。


 でも勝負内容で頭がいっぱになり、相手側の不利について思い至らなかったみたいだ。たしかに、アキにしては珍しいかも。


 アキは決まりが悪そうにリーダーから目を逸らした。



「……確かに、俺の視野が狭かった」

「『怒りは景色を消す』と言うからね、わかっているよ」


 リーダーはやさしい声でそう言った。


 そっか。

 やっぱりアキは、ヴィルカンのために想像よりかなり、相当、怒ってたんだなあ。本人も自覚してないくらいに。


 なんにせよ、宴というか歓迎会……いや決闘、じゃなく『もてなし合戦』は、俺の知り合いが大集合することが決定して、いよいよ盛り上がってきた。


 アディに姫騎士に、ラウハーヴァにシシルに、もしかしたらベサミィも。もうめちゃくちゃだ。


 どうなっちゃうんだ。

 楽しみすぎて寝付けないかも。




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