411話 脱獄と再会
ドゴーーーン!
強い揺れを感じて目が覚めた。
ここ、どこだ。
この冷たい石壁は、奴隷部屋……?
今までの全部が夢だった?
ちがう。
俺はアウル。これはご主人からもらった名前。
そうだ、旅の途中でみんなと一緒に攫われて、地下牢に閉じ込められたんだ。
ドカーーーン!
また揺れた。
遮音されてるはずだから、魔物でも暴れない限り音が聞こえることはないはずなのに。
何かあったのかな。
起き上がると、すでに身支度を整えているアディが目に入った。
そうだ、俺はアディと同じ牢だったな。
相変わらず薄暗くて時間がわからない。
「お目覚めですか、アウル様。すぐに支度なさったほうがよろしいかと。お迎えにいらしたようですから」
お迎え……?
えっと、なんだったっけ。
ご主人が、知り合いの強い奴を呼ぶとか何とか言ってたな……。ということは、もう夜明けなのか。
よく寝たおかげで、頭はスッキリしてる。
でも朝方だからか、冷え込んでるな。
のろのろと、身の回りを片付けて収納した。
それから水を飲んで、ドライフルーツを食べて、準備万端です。
ドドーーーン……!
また揺れた。
いったいなんだ?外で何が起きてるんだ。いや、知りたくない。
ぜったい、なんかヤバいと思う……。
急に脱獄したくなくなってきた。
「では、遮音の障壁を壊しますね」
無情にもアディは歌い始めた。アディが遮音の障壁を壊すことは、昨日あらかじめ打ち合わせていた。
歌、というより、それは音合わせのようなかんじだった。高さを変えて、何かを探っているみたい。
声がある高さに到達したとき、耳障りなギシギシという音が混ざった。
む、共振する高さを探してたのか。
アディは一旦歌うのをやめ、深呼吸する。
ヤバいの来る!
俺は咄嗟に両手で耳を塞いだ。
アディは両手を大きく広げて、歌った。
ピシピシと、障壁にヒビが入ったような音が響いてる。耳を塞いでるのに。それに、障壁とはいっても実体はない。それなのに、割れていくような音がしている。
アディがグッと力を入れると、ふっと体が軽くなったように感じた。
遮音の障壁が消えた。
ほんとにやっちゃったぞ……!
とんでもないな。
これが、歌姫パル・アヴィータの真骨頂ってわけか。
「みんなー!起きろーーー!……うわ、ほんとに障壁が消えてる……!」
ノーヴェの声が聞こえてきた。
あとからみんなの声も聞こえてきて、地下牢はにわかに騒がしくなった。みんなの牢の障壁も壊れたようだ。
やった、みんなだ。
みんなの声だ!
俺はうれしくて鉄格子を掴んでちょっとピョンピョンした。
ポメとの視覚共有で姿は確認してたし、文字でのやりとりはあったけど、声を聞けるのがこんなにうれしいなんてな。
しばらく騒がしかった。
……で、ここからどうするんだっけ。
「なんだなんだ、騒がしいな」
懐かしい声がした。
通路の向こうから、ご主人が堂々と歩いてきているのが見えた。
ご主人!ご主人がいる!
うおーー!
なんという頼もしい姿だろうか。
「お、アウルは元気そうだな。よしよし、鍵をかっぱらってきたから、今開けてやるぞ」
ご主人は鍵の束をガチャガチャやって、扉を開けてくれた。
俺はアディに先に出てもらうことにした。
俺に押されて、アディは「あらまあ、お先に失礼しますわね」と扉をくぐる。
俺もその後に続いた。
スゥゥゥ………。
自由だーーーー!
すごい開放感。
思いっきり伸びをした。
ご主人に挨拶しようとしたけど、素早くみんなの牢の鍵も開けているところだった。
よくここまで来られたよなあ……。
ドオーーーーン!
また揺れた。
みんなは一斉に廊下に出てきて、抱き合って無事を確かめていた。特にドロアがすごくて、泣きながらヴィルカンにすがりついて離れなかった。ヴィルカンは怪我してたみたいだけど、かなり元気そうだな。
俺?
今はジマシセにぎゅうぎゅうのもみくちゃにされていますが……。この2人、パーティーメンバーよりも俺を心配してたらしい。うれしいような、むずむずした気持ちになった。
他の人たちにも髪をぐちゃぐちゃにされた。
俺もぐちゃぐちゃにし返したかったが、身長が足りなかった。
みんな元気でよかったぜ。
生きてるって素晴らしい。
「みんな、落ち着いて」
リーダーのひと声で、騒ぎはおさまった。
そう、牢からは出られたものの、まだ敵の本拠地の中なんだ。ここからが大変だぞ。
リーダーは狭い廊下の中で、ひとりひとりの顔を見ながら話し始めた。
「今から、ここを脱出する。できる限り目立たないよう地上に出て、安全を確保しながら馬車を取り返し、敵を捕縛する──これが理想的だけど、そううまくいくとは限らない。最も重要なのは、各人の命だ。生きて乗り切ることを一番に考えてほしい。これは傭兵のみんなにもお願いしたい」
リーダーは、最後はイドリ団長に向けて語った。
「案ずるな。みすみす死ぬ気はない。今は蛮勇を示す場面でもない。……わかっているな、ヴィルカン」
イドリ団長はヴィルカンに目を向けた。
ヴィルカンは頭をかきながら、恥ずかしそうな顔をしている。
どういうことかな。
ヴィルカン、がんばりすぎて怪我しちゃったのか。
「わかっている。次はない」
「ならばよし。詳細はここを乗り切ってから、後ほど聞かせてもらうとしよう。我々傭兵の任務は、現在どういうわけか出払っている敵を捕縛することだ。できるだけ自害も止めろ」
「そいつは、なかなか難しい仕事だねぇ」
「大丈夫、大丈夫!数は多いが、俺の知り合いが適度に疲弊させてくれてるから、お前らは適当に殴って気絶させりゃいいさ」
アノンがアゴを擦りながら考え込むのを見て、ご主人が明るい声で言った。
ドカーーン!!
また揺れて、一瞬みんな無言になる。
その知り合い、何者ですか。
襲撃者たちよりヤバいのでは?
リーダーは、何事もなかったかのように微笑を浮かべたまま話を続けた。
「……殺さないのには理由があるんだ。相手はこちらを襲撃したとはいえ、外国人の可能性が高い。下手をすれば、重大な外交問題にもなり得るんだ。だから、なるべく犠牲は出さないほうがいい」
ヤバいじゃん。
戦争の火種になるかもしれないのか?
事態がそんなに深刻だとは……。
「……もちろん、やむを得ない場合もあるだろう。だから、できる限りでいい。全員生きて、ここを乗り切ろう!」
リーダーの力強い言葉に、みんなは「おう!」と返事をした。狭い廊下に声が反響する。
さあ、反撃開始だ。
俺は足手まといにならないようがんばるぞ。
「ところでハルク、あえて詳細は尋ねなかったけれど、君の知り合いとは、一体……」
「強いやつだ!」
リーダーの言葉に元気に返事をするご主人。
そうですか、強いやつ……。
なんもわからんな。
ご主人が強いと言うくらいだから、相当強いんだろうな。
「……ちょっと問題があってな。そいつががんばりすぎて、出口が氷で塞がってしまってるんだよな」
「溶かさねば出られないというわけか」
「そうそう」
「我々も出られないけど、敵も入っちゃ来れないってことだねぇ」
「ってことは、俺らの装備取り返せるんじゃね?」
「おう、残ってるやつがいないのは確認済みだから、ゆっくり探せるぜ」
おお、よくわからないけど、ゆっくり敵の拠点で荷物を探せるのか!ありがたいぞ。閉じ込められてるわけですけども。氷ってなんだ。外はどうなってるんだ?
みんなと一緒にぞろぞろと階段を上がる。
その時だった。
──グルァァァァ!!
鳥肌が立つような、恐ろしい咆哮が聞こえた。
思わず身をすくませる。
空気がびりびりと震えている。
まさかとは思っていたけど。
ご主人の言う、知り合いの強い奴って……。
魔物ですか。
マジか。
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