409話 獄中会議
ポメ便は無事にリーダーのもとへ届いた。
驚いたことに、リーダーは見えないはずのポメにすぐに気がついた。
まあ、張り切ってる気配を振り撒いてるからな。
目は合わないが、リーダーはこちらを見て微笑み、何か言っていた。
……何言ってるのかわからん。視覚しか共有してないから、音は聴こえない。読唇?無理です。
ポメが立ち止まってリーダーをずっと見上げているので、「待ってて」とか言われたのかも。俺以外の人間の言葉も、ちゃんとわかるのか。えらい。
リーダーは、ポメに出してもらった鉛筆で紙に何かを書きつけている。
イドリ団長はちょっと不思議な顔をしていたが、リーダーと何かを話していた。
ボス2人、心強いですね。
不意に、ポメが部屋の隅へ目を向ける。
あ、あれは……!?
堅焼きパンの食べカス!視線が低いからすぐにわかったぞ。なんか、光ってる気がするんだが。ポメにはパンくずが光って見えるのか?初めて知ったよ。
ダメだぞ、余計なことしちゃ。
パンくずならあとでたくさんあげるからな。
でも、リーダーも食べ物を隠し持ってたみたいだ。どうやったのかはわからないけど、さすがです。
お腹を空かしてそうな人には差し入れするつもりだったけど、この分だとみんな何か隠し持ってるな。さすがです。よかった。
リーダーが書き終えた紙を畳んで床に置いた。
ポメは紙の端っこをくわえて収納する。
よし、戻れ。
視界がシュン!とポメ空間になり、俺は共有を解除してから、紙を取り出した。
おお、リーダーの字だ。
……むむ、なんか褒めてくれてるのはわかるけど、ところどころ読めない。
アディ、お願いします。
「まあ!本当にお返事が来ましたわ。素晴らしいですわね。……アウル様の機転をお褒めになっていますよ。どうやら、他の方々への情報共有を、アウル様に手伝っていただきたいようです」
なるほど。
ポメ、いけるか?
よし、いけそうだな。
ワヌくん、まだポメの姿を隠せますか。
……余裕、とのことです。
ロヴィくん。
眠くなったら、先に寝ていいからな。
そして俺。
ポメと視覚共有は、別に魔力とか使わないから消耗はない。今のところ、何とか酔わずに済んでる。
やれるところまでやりたい。
俺はうなずいた。
こうして、作戦会議が始まった。
会議は大変だった。
まず、リーダーが『会議を始めます』っぽいことを書いた紙を全員に回し、サインを入れてもらう。回覧板のようなものです。
この時点でけっこう時間がかかった。
紙と鉛筆に気づかない人もいたし、「なんだこれ」って不審がる人もいたからだ。主に傭兵組。
冒険者組はすぐに察してさっさとサインを入れ、同じ牢に入った傭兵を説得してくれたりした。
ドロアとデレンの牢は最後にした。ここには冒険者がいないので、ポメの能力を察することができない。
みんなの署名があったほうが信憑性が高まると思ったので、後回しだ。
案の定、ドロアとデレンは時間をかけてさんざん話し合って、やっとサインを入れてくれた。イドリ団長のサインがあったことが決め手だったようだ。
ドロアは、なぜか最後にはうれしそうにしていた。というか泣いていた。みんなの無事を知ってホッとしたのかも。デレンがぽんぽんと肩を叩いていた。
閉鎖空間で声も届かないから、かなり精神が参るよな。それにこの2人、お腹空いてるのかも。他の人より、ひもじそうな顔をしているぞ。あとで堅焼きパンを差し入れてあげよう。
それから、リーダーが状況を整理して今後の方針に関しての意見募集を行った。
これも回覧板形式で、1枚の紙に簡潔に意見を書いて回すかんじです。ポメ大活躍です。
最初は意見というかお互い無事をよろこぶ言葉が多くて、一巡してリーダーのところへ紙を戻しても、意見とかぜんぜんなかった。何巡もすることになった。ポメ大活躍。
リアルタイムの会話のようにはいかないけど、回覧板会議はなかなかよかった。紙に書くためにある程度考えをまとめなきゃいけないから、話が飛躍しないし、一目でみんなの考えが見える。
こうして、情報収集と意見交換により、これからどうするか、方針が固まってきた。
どうやら、襲撃者たちはどこかの国の軍に属していそうなエキスパートらしい。この見解にはみんな賛同していた。
それから、しばらくは大きな動きを見せないだろうということ。俺たちが攫われたことで、街では警戒が強まっているはずだからだ。
そして、襲撃者たちは俺たちのことをよく知らないだろうという意見もあった。
それに関しては俺も賛成だ。知っていたらボス2人を同じ牢に入れたりしないだろう。アノンかデレンあたりを傭兵のボスだと思ってるかも。
これらのことから、襲撃者に指示を出している者が他にいる可能性が高い。いわば、雇い主とか黒幕的なやつ。
そいつは、現在ここにはいない。
その黒幕が来るまではとりあえず安全だ。
それにしても、ヴィルカンの説はほぼ当たってたな。ないと思ってたのに。襲撃者は貪欲にも、人も馬も馬車も積荷も、全部を奪った。それはもう、見事だったと言わざるを得ない。
あとは新郎新婦の身が心配だが、そっちはそっちでエキスパートがついてるし、俺たちにはどうしようもない。
さて、重要なのは、ここからどうするか、だ。
脱獄を試みるか、大人しく成り行きに任せるか。
正直、脱獄は難しいだろうという意見でみんな一致していた。
攫った時の手際の良さから考えても、相手はプロだ。ここ以外の住処の構造や敵の数が不明だし、武器を取り上げられている状態で戦うのは不利だろう。非戦闘員もいるし。
リーダーとしては、全員を生きたまま捕縛して衛兵に突き出したいようだけど、あまり現実的とは言えない。
案は幾つも出た。
薬草を焚いて眠らせる案。
建物の広さや構造、人数が不明なので非現実的。そしてそんなに大量の薬草はノーヴェも持っていない。
全員を戦闘不能にする魔法を使う案。
ノーヴェがいたらできそうだが、一体何の魔法を使うのか、という問題がある。場合によってはこちらにも被害が出かねない。それに、人間相手に魔法は効きにくい。
急病を装い、見回りにきたやつを捕まえて人質に。
敵がもし仲間を見捨てる冷酷なタイプだったら、人質をとっても意味がない。
アディが歌で敵を錯乱させる。
しかし歌は調整が難しくて障壁を通り抜けるらしいから、俺たちまで錯乱しそうなのでダメ。アディにそんなことをさせたくないしな。(ちなみにアディの正体はみんなにバレたが、相変わらずアディと名乗っている)。
全員外へ誘き出して、その隙にこっそり脱獄するという案。
一番ありえそうだけど、そもそもどうやって誘き出すか、そして出た後に見つかって戦うことになったら不利だ。
……うーん。
なかなか、これ!っていう案が出ないものだな。
俺は回ってきた回覧板を眺めながら考えた。
・
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『こっちも万全じゃないし、戦いは避けたいけど。 ドロア』
『ドロアに同意。 デレン』
『というか、ハルクはどうしたんだ。あいつに誘き出してもらおうよ。 ノーヴェ』
『そうすると地上での白兵戦になるね。 アノン』
『ハルクはおそらく、この近くで見ているはずだよ。忍び込んでこないということは、警備が厳重なんだろう。連絡を取れたらいいのだけど。 シュザ』
『この場にいないものを当てにしてはならん。私としては、武器さえ取り返せば白兵戦になっても問題ないと考える。 イドリ』
『俺は、剣2本程度なら金魔法で作れるぜ。打ったやつより切れ味は劣るが無いよりマシだろ。 ヴィルカン』
『白兵戦はなるべく避けたい。何らかの方法で敵の人数を減らしておくべきだ。それに、相手は未知の魔法道具を用いることを忘れるな。 アキ』
・
・
と、こんな感じだ。
アディと一緒に考え込んだ。
「困りましたわね……。わたくしの『声』ならば、全員を気絶させることも可能なのですが、それですと皆様のことも気絶させてしまいますし……」
また怖いこと言い出したぞ。
やはり、脱獄&捕縛には無理があるか……。
せめてご主人と連絡がとれたらな。
ん?なんだ、ワヌくん。
えっ、ご主人の居場所わかるの?
ポメは無理だけど、ワヌくんならご主人のところへ行ける?
マジですか!!
すごいぞワヌくん!大好きだ!
俺は鉛筆を握った。
回覧板会議のいいところ、それは俺も参加できるというところだ。
『ごしゅじん、に、てがみ、とどける、できます。 アウル』
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