145話 望まれた命
ついにやった。
……と喜んだものの、本当に成功したかどうかはまだわからない。
魔物はちゃんと倒せただろうか。
ノーヴェの作った強靭な障壁の内部は、砂埃にまみれていてよく見えなかった。
収まるのを待ってから、障壁が解除された。
まだすこし砂埃が舞っている。
あれ、何もない?
……いや違う、穴だ。地面ごと下に沈んだんだ。
みんなで駆け寄ると、障壁の内側だったところは地面に深く沈んで巨大な穴になっていた。
ノーヴェはガクッと地面に手をついてうなだれた。
「遺跡のこと忘れてた……!」
そう、下にあった遺跡。
完全に破壊されました。
俺も忘れてた。
めちゃデカ魔物の重みと隕石自体の衝撃、障壁内で反射した衝撃波が地面を破壊して……耐えられなかったようだ。
ああ、ぐちゃぐちゃだ。跡形もない。
大きな穴の底、瓦礫と共にあの魔物が横たわっていた。
胴体のほとんどが無くなっていて、確かに隕石によって貫かれたのだとわかる。隕石は消えていた。魔法が切れたのかな。
穴の底はガラス状になり、ひびが入っている。隕石の熱で砂が溶けたんだ……すさまじいな。
そして、なんと魔物はまだ生きていた。あの攻撃を受けて即死しないなんて、なんという生命力だろう。
でも虫の息のようだった。
「これでもまだ生きてるのか……」
「もう長くはない。……思ったより星が小さかった」
「あれより大きかったらオレの障壁が耐え切れなかったよ」
「魔物の遺骸、どうするかな」
「どうしよう」
かわいそうだったな。
不自由な体で生み出されて、わけがわからないうちに殺されて。かわいそうな『巡り』だった。
俺が悼んでいると、ポメが出てきたがっているかんじがした。
外に出してやると、ピョーンと俺の手から降りて魔物のほうへコロコロ駆けていく。
あ、こら!そっちダメ!
慌てて追いかけて、急斜面になってる穴の側面を滑りおりていく。瓦礫をよじのぼって、魔物の頭に触れそうなすぐ近くまでポメを追いかけた。
うっ……隕石の着地点からは少し離れてるとはいえ、ちょっと熱い。
「アウル!そっちは危ないぞ、まだ生きてる!」
ノーヴェの声がした。それはポメに言ってください。
もう、急に飛び出したら危ないだろ。いったいどうしちゃったんだ。
瓦礫の先っぽにいたポメをすくい上げて、巨大な魔物の頭を見上げた。
近くで見ると、本当に大きい。これが生き物だなんて、信じられないな。
ポメが近づきたそうだったので、片手に乗せて掲げる。
もう一方の手で俺も魔物に触れた。
爬虫類の、ひんやりゴツゴツとした皮膚。かすかに動いていて、まだ生きてるのがわかる。苦しめるのはかわいそうだ。
「ちゃんと空にかえれたらいいな」
そう呟いたら、手のひらからフワッと魔力が抜けた。
あ、今の言葉が『祝福』になったんだ。
そうだよ、お前は望まれて生まれた。こんな大きな施設を作るくらいに望まれていた。
望んでいるのが俺たちじゃなかっただけで。
ちゃんと還れたらいいな。
魔物は少し体を震わせ、それから動きが止まった。命の火が消えたようだ。
死んだ。
ポメが鼻でツンと触れると、魔物の体は緑色の光に包まれた。
わ、めっちゃ魔力抜けた。予告なしに勝手に人の魔力を使うんじゃない。
光に包まれた魔物は、そのまま溶けるように光の粒子になり、空に昇っていく。
きれいだ……。
やがて消えた。緑の光も、魔物も。
穴の底には瓦礫と、巨大な晶石だけが残った。
そうか。
これが本当の『還元』だ。
魔物は、大きな魔力の巡りへと還された。
こんなにちっちゃくてもポメは一応、森の番人をしている真獣の眷属だ。本能でそれができちゃうんだな。森を整えるのが真獣たちの役割で、それには魔物の遺骸なんかを魔力に『還元』することも含まれるんだろう。
……俺がここにいる意味、それはこの魔物の葬送のためだったのかも。今わかった気がする。
ご主人は魔物を倒すため、ノーヴェはこの土地を守るため。そして、俺は土地の魔力を整えるため。
みんな、意味があった。
これも巡りだろうか。
ちゃんと還れたかな。
俺はポメと一緒に、夕焼けに染まりつつある空を見上げた。
「送ってくれたんだな」
いつのまにか後ろにいたご主人が、俺をギュッとしていた。
「あいつは竜種の端くれだったから、きっと天龍が正しい『巡り』へ戻してくれる。ありがとうアウル。ポムもな」
俺も、役に立てた。
よかった。
ノーヴェが穴の縁から「おーい!」って叫んでる。
ご主人は俺を抱えてピョーンとノーヴェの横にジャンプした。ノーヴェは心配そうに俺の頭と顔をぺたぺたする。
「もう、びっくりしたよアウル。急に降りていくから……しかも、魔物を浄化したんだな」
「浄化したのはこいつだよ」
ご主人が、俺の手のひらにいたポメを指差した。ノーヴェは「そうなのか……」と呟いて、指先でポメを撫でる。
そのまま、3人と1匹で巨大な穴を見つめた。
魔物の遺骸が消えて、穴の側面から水が流れ込んできた。地下に水脈があったのかもしれない。ここ、水に沈んじゃうのかな。
「タリムがなんて言うかな……」
「タリミラならきっと『遺跡とはいずれ崩れ去る巡りの下にある』とか何とか言うよ」
「そうかな……あのさ、今気づいたんだけど」
「何だ」
「ハルクが使った『星隕』、あれ使用禁止魔法だった気がする」
「……俺は法師組合に所属してないから大丈夫」
「組合関係ないだろ」
「それにあれは『星隕』じゃねえ、『星の詠嘆』だ。知られてないから使用禁止魔法じゃない」
「なんだよそれ、新しい魔法?……お前、本当に星の子だったんだな…………オレも新しい魔法作っちゃったけど……」
水が溜まりつつある穴。唯一残った遺跡の中央部にあった柱の残骸の上に、俺の身長くらいある巨大な晶石が鎮座していた。
初めから、そうあるべきだったみたいに。
それをぼんやり眺めながら、ノーヴェとご主人はぼそぼそと会話する。
本当に、生きてる。
隕石が落ちてきた。
魔物、倒しちゃった。
遺跡は無くなっちゃった……。
たくさんの、すごいものを見た。
実感がまだなくて、地に足がつかないふわふわな気分。確かに勝利したのに、どこか寂しい、やるせない気持ちだ。
ご主人たちもそうなのかも。
「帰ろうぜ」
「うん」
巨大な穴に背を向け、3人で村に向けて歩き出した。
村の様子も気になる。討伐が完了したことを伝えなきゃな。
ところが、歩き出してすぐ、ご主人がガクンと膝をついてうずくまった。
苦しそうに胸を押さえてる。
ご主人!?
魔力切れが今きたのかな。やっぱりあの大魔法、体に負担だったんだろうか。
ノーヴェもご主人の様子に気づいて、顔をのぞき込む。
「ハルク?」
「だい、じょう……ぶ……」
絞り出すような声だ。
おでこに手を当てると、熱かった。熱があるぞ。やばいんじゃないか?
どうしよう、ご主人が……!
ダイン!
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