144話 光
「できた!……はずだ」
ノーヴェはフーッと息を吐き出した。
計算が終わったみたいだ。
「よし。アウル、水くれるか」
「アウル、魔力回復薬をお願い」
並んで立つ二人に、サッとコップと薬瓶を差し出した。
いよいよか。
ぐいっと、それぞれの飲み物をあおり、二人は植林地の端っこから魔物を見た。
魔物は、首振りをやめて今度は頭を上げては地面に打ちつける動作を繰り返していた。打ちつける、というより重くて支えきれず落ちる、というかんじだ。
ドン、ドンと突き上げるような振動が響く。急かされているみたいで落ち着かない。
「この砂時計が基準だ。砂が全部落ちたときに、障壁を展開しろ」
「……計算、間違えるなよ」
「間違えねえよ。アウルは後ろにいろよ。いざというときは障壁の装置に魔力を流して、俺たちを守ってくれ」
コクリ、うなずいた俺の頭をポンとしてからご主人は魔物へ向き直った。
「……なあハルク。ひとつ聞いていいか」
「何だよ」
「その魔法、使ったことあるのか?」
「ない。初めてだ」
「そうか、奇遇だな。オレもこんな広範囲の障壁は初めてだよ。衝撃波の強さもわからない。ちゃんと吸収する構造にできたかどうかも確信がない」
「うまくいくよ、お前はすごい魔法師だ」
「うん……やるか」
「ああ」
いちばん小さい砂時計をノーヴェに渡して、ご主人は杖を掲げた。
そしてじっと魔物を見据える。目の色が薄くなっていく。
不意に、魔物の動きが緩やかになった。
会話は無理だと言っていたけど、もしかしたら語りかけているのかもしれない。そんな気がした。
ご主人の杖の先にある球が光り始めた。
とうとうやるんだ。
これまでになく鼓動が速くなる。
俺はキュッと障壁の装置を握りしめた。それから、いつでも回復薬が出せるようにスタンバイ。
大丈夫。
きっとやれる、この二人なら。
こうなる『巡り』だったんだ。
ご主人の口から、知らない言語が紡がれる。まるで唄っているような、古い言葉。
ノーヴェは片手を前に突き出して、宙を睨みつける。
簡単なことだ。
ご主人が隕石を落とす。
ノーヴェが衝撃波を抑え込む。
作戦はシンプル、難易度はマックス。
「──『
ご主人の唄は最後の言葉だけ、やけにはっきりと聞き取れた。
それと同時に、杖がまぶしく発光し、思わず目を閉じる。
あれ、今、ご主人の背中に……。
「砂時計を回せ!」
ご主人の声で我にかえる。
次はノーヴェだ。
ノーヴェは、魔物を中心にして、植林地ギリギリのところから障壁を展開し始めた。
半透明のドームが、徐々に出来上がっていく。小さめの球場くらいはある。
同時に、ゴォォという飛行機みたいな音が聞こえてきた。
隕石だ。
見上げると、空に白い光が見えた。
本当に来た!
ここからは、タイミングの勝負だ。
障壁が閉じる前に着弾したらアウト、閉じてから落ちてきてもアウト。
ノーヴェの額から、汗が滴った。
がんばって……!
魔物は隕石に気づいたのか、上を見上げたまま動きを止めた。
砂時計の最後の砂が落ちる。
「今!」
ゴォォォ!!
赤く燃える大きな石が、ほんの一瞬見えた。
同時に、障壁のドームが完成する。
頭をかち割られるみたいな衝撃がきた。
一拍遅れてドゴォォォ!!とすさまじい音がした。
そこからのことは、よくわからない。
なぜなら、ご主人が魔物に背を向けて、俺とノーヴェを守るように抱き込んだからだ。
俺はすぐに手に持った障壁の装置に魔力を流した。俺たち3人を守る半球が展開される。
内臓を揺さぶられる凄まじい振動と、轟音が響く。立っていられず、3人でしゃがみこむ。
そして、魔物の断末魔の叫びも。
ノーヴェの障壁はもつだろうか。
もってくれ……!
ただただ最大限の身体強化で体を硬くして、嵐のような音と揺れが過ぎるのをひたすら待った。
どれくらい経っただろうか。
気がつくと、あたりは静かになっていた。
そこかしこに瓦礫や枝が散らばり、砂にまみれている。
顔を上げると、砂地を覆う障壁のドームが壊れずそこにあった。植林地も無事だ。
ということは。
「……オレ、生きてる?」
「ああ、成功だ」
やったんだ。
ついに。
ご主人とノーヴェは歓声を上げ、抱き合って喜んだ。
その後ろで、俺はただ呆然とドームを見ていた。
整理がつかなかった。
成功して生き延びたという事実と、その前に見たものとで頭がごちゃごちゃしてる。
うれしい、それはそうなんだけど。
俺は、確かに見た。
魔法を発動させる直前。
ご主人の背後に、8つの光の玉が現れるのを見た。
ノーヴェは前を見ていたから、俺だけがそれを見ていた。
そして、魔法を発動した瞬間、その8つの光のうち、1つが消えた。
ふと、俺の頭にある言葉が思い浮かぶ。
『八つの
3日くらい前に講堂で聞いた、天星候という人の予見の言葉。
これと関係あるんだろうか。
わからない。
もしかして、ご主人のあの杖は光るだけの道具で、本当は体のすぐ近くに魔力を溜めていたんじゃないか。ご主人はあの道具については、何も言わなかった。
光は8つあったから、あと7回は同じ規模の『世界系』が使えるんだろうか。
でもご主人は本当に使いたくなかったようだから、8つ揃ってないと駄目なのか。
どうして俺にだけ見えたのか。契約で繋がってるから?
……そんなことが頭の中をぐるぐる回って通り過ぎていく。
ただ、光を背負ったご主人の姿がまるで雷神みたいに神々しくて、俺の脳裏に鮮明に焼きついてしまった。
「やったよアウル!」
ぼんやりしていたら、2人の喜びの騒ぎに巻き込まれて、もみくちゃになった。ご主人の背中の光はもう見えない。
そうだよ、成功したんだ。
一緒に喜ばなきゃ。
俺たちは生きてる!
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