132話 手紙と物語
夕食後、テントの中で寝床を整えたあと、ノーヴェと作ったあの転送ポーチを確認した。
リーダーから手紙が届いてる!
うきうきしながらランプの灯りを頼りに読み始める……のだが。
字、小さくない?ハガキ大の紙にすごくたくさん字を書いてるな……。一体何があったんだろう。
「あ、シュザから手紙がきたんだな?よしよし、遠距離でも問題なく作動してるな……って、これ、アウル読めるか?」
手紙をのぞき込んできたノーヴェに尋ねられ、首を横に振る。無理ですね。最初の『シュザ……アウル……』は読めたが。こっちでは差出人の名前から書き始めるんだな。
ため息をついたノーヴェは、俺を膝に座らせ、手紙を音読してくれた。
『 シュザからアウルへ
こちらはようやく、晩ごはんを食べ終えたところだ。今日は一日たいへんだった。まずは小麦の収穫を手伝ったんだ。刈ったと同時に束にするとても大きな魔法道具を使って、何面もの麦畑で麦を収穫をしたよ。道具がなかった頃の収穫は、きっと大変だっただろうね。
そのあとは、別の農家で野菜の収穫を手伝った。大きな芋やかぼちゃをいくつも運んだ。ここでは依頼料が少ない代わりに野菜をくれるから、アキがとても張り切ったよ。おかげで冬の間、僕らが芋と根菜に困ることはなさそうだ。
こちらでは村の広場に天幕を張って寝泊まりしている。収穫祭だから、他の街からも大勢人が来ていて賑やかだ。ノーヴェに遮音の道具を作ってもらっておくんだったよ。今も外では音楽と踊りで人々が騒いでいる。アキはいろんな屋台を巡りあらゆる食べ物を試して、天幕に戻るなりすぐ寝てしまった。とてもはしゃいでいたから、疲れていたんだろうね。
アウルも、ハルクが無理をしないよう、よく見ておいてほしい。そして、ノーヴェが困っていたら助けてあげてほしい。旅の安全を祈っているよ。 』
アキ、やっぱりおおはしゃぎだったか。
収穫祭も楽しそうだな。力仕事になるから俺には向いてないだろうけど。
「シュザめ、疲れてるから頭が回ってないな?こんなぎっちり書いて……」
ノーヴェはぶつぶつ文句を言っている。
返事を書かなきゃな。何を書こう。
俺の木箱…….竹籠を取り出し、板を置いて紙と鉛筆も出す。
今日あったことといえば……傭兵たち、大きな川と橋、アキの瓶詰が大変で、うたた寝をして、遺跡がすごくて、ご主人が鳥を落とした。
うーん。
冒頭はリーダーを真似て、『アウルからシュザへ』でいいか。
川、大きい。ようへい、いい人。
おいしい。げんき。
ノーヴェとご主人に手伝ってもらいながら、単語を並べる。
よし。
あとは、ちょっと空いちゃったところに何を書こうか。
ポメはどう思いますか。
ずっと出してやれなかったけど、出てこいってしたら、いい顔で俺に向かって吠え真似して挨拶した。別空間は快適みたいで、疲れた様子もなく楽しそうに鉛筆とじゃれてる。
あ、こら。汚れた足で紙の上を歩いちゃダメだって。あーあ、ちっちゃい足跡がついちゃった。
……これでいいか。間違いなく俺からだってわかるし。
何か静かだなって思って、振り返ってノーヴェを見たら、目を覆ってぷるぷるしてた。
ちょっと見ないと、すぐ耐性が落ちちゃうな。
これ、リーダーに送っちゃいますよ?いいんですね?紙を転送ポーチに入れて、魔力を流す。
中を確認すると、確かに紙は無くなっていた。無事に送れた。
「ちょっと、外の空気吸ってくる……遮音の領域かけとくから……」
ノーヴェは、ふらふらとテントから出てしまった。
「あいつ、疲れてんのかな」
「ポメにびっくりしちゃったんだと思います」
「まだ慣れねえのかよ……あ、そうだ。せっかく遮音してくれてるから、本を読むか?」
「持ってきてないです」
「俺が入れておいた」
マジか。なんという用意のいいご主人。俺の収納鞄をごそごそして本を取り出した。
今度はご主人の膝の上で、『英傑マールカ』の本を開く。
「どこまで読んだかな……そうだ、喧嘩したところだったな。『怒った天子はマールカに、誰も登ったことのない切り立った山の頂上に生えるという、幻の花を取ってくるように言いつけました』……ちょっと長い文章だな」
「おこった、てんし、は……」
天子はさすが王子様というか、後先考えずに無理難題を家来に押し付けちゃうわがままなところがあるんだな。
マールカは、言いつけ通り山に向かう。しかし到底登れそうにない崖の下で、ため息をついて途方に暮れた。
持参したパンを食べていると、一匹の小さなトカゲが寄ってきて言った、「パン屑をもらえないか」と。
トカゲがしゃべるなんて変だなと思ったが、マールカは「いいよ」と言った。するとトカゲはうれしそうに、パン屑を食べた。
「ふふ、ポメみたい」
「ん?こいつがどうかしたか」
「このあいだ、ポメもパンくずを食べてました」
「はは、同じことしたんだな」
「どうしてパンくずをほしがったんですか」
「それは続きに書いてある」
トカゲは、実は天龍が地上を観察するために送り出した眷属だったのだ。儀式なしで地上に顕現することができない天龍は、眷属の小さな体を使って地上のあらゆる事柄を眺めていた。
「いつも贅沢で豪華で珍しい食事が拝殿にて供される。だが、ご馳走には飽きた。そのパン屑を食べてみたかったのだ」と天龍は言った。
……ジャンクフード食べたがるお金持ちみたいだな。
満足した天龍は、お礼にマールカに大きな加護を与えた。
不思議な力に満たされたマールカは、軽々と崖を登って山の頂上へ辿り着き、見事に幻の花を見つけることができたのだった。
「よかった」
「続きはまた今度。やっぱり声出して読むと覚えが早いな」
「……天龍の眷属は、やっぱり竜とかトカゲとかなんですか」
「そうだな、竜種とかトカゲとかだな」
「じゃあ『森の主』は犬?眷属が犬だから」
「いいや、『森の主』はでっかい亀だ」
「亀……」
亀か。ご主人がでっかいって言うんだから、相当大きな亀なんだろうな……。
まるで会ったことがあるような口ぶりだが。そこは追及はしないでおこう。
とても眠くなってきた。
馬車の旅は、けっこう疲れる。
明日は本格的な遺跡調査みたいだから、しっかり寝ておかなくちゃ。
寝ぼけながらご主人と自分に浄化をかけて、ポメにおやすみを言ってしまって、ご主人におやすみなさいと言って毛布にくるまって。
すぐに眠りに落ちた。
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