130話 遺跡帯




「この調子で進めば、夜には遺跡の最寄りの村には着くだろう。だが、夜に村に入るのは迷惑になるから、手前の休憩所で野営にしようと思う。どうだ?」


 食後、出発した馬車の上でタリムがご主人とハンザールに確認した。


 尋ねられた二人はうなずいた。



「当初の予定でも、一度は野営するつもりだった。予定よりかなりはやく進んでいるから、それでいい」

「俺もそれでいい。天気もいいから、野営で問題ないだろ」

「では、引き続き頼む」


 会議終了!


 今夜はテントを張って寝ることになりそうだ。ご主人たちは、夜の見張りのシフトを話し合ってる。お子さまで見習いの俺は、当然不寝番には含まれません。


 森の中と違って、街道沿いだから強盗や盗賊の心配があるので不寝番は必須だ。それに動物や魔物も夜行性のやつがたくさんいる。


 ノーヴェの領域魔法があるから、かなり楽できるみたい。ありがたいね。


 街道では基本的に傭兵組が中心になって護衛し、夜や野営中は冒険者と混合で二人組になり交代で警戒する、というのが一般的なシフトだという。


 ……ほんと、傭兵と仲直りしてくれてよかったな。夜中に嫌ってる人と何時間も睨み合いたくないだろうし。


 そんなかんじで、警備態勢の話し合いも実にスムーズに済んだ。



 ひと段落して、タリムは雑談を交えながら、今回行く遺跡や近くの村の説明を始めた。


 ここらへん一帯は『遺跡帯』と呼ばれるくらい、多くの遺跡が残っている。


 遺跡に付き物なのが盗掘者、そして盗賊だ。調査の際に傭兵を雇うのは絶対。


 森の中の遺跡だと魔物が棲みつくこともあるから、森の案内人として冒険者を雇うもの絶対。


 だから、傭兵と冒険者の確執は学者にとっては長年頭痛の種だったわけで……。


 ともかく、遺跡の数に伴って盗賊など無法者の数も多かった。しかし、近年では巡回騎士団の活躍により、遺跡盗賊はほぼ全滅した。


 今回向かう遺跡も、既に騎士団によって内部の安全は確認されているという。


 あとは学術的に価値のあるものかどうか、学者によって査定されるのを待つばかり。


 価値の高いものであれば、教院で調査団が結成されて採掘や研究が進められるし、価値が低ければ、後回しにされたり封鎖されたりと相応の処置が取られる。


 その判断を行うのが、タリムというわけだ。イスヒはその補佐である。



「今回の遺跡は、長いこと発見されていなかったものだ。近くの村によって手入れされている植林地の真ん中に、祭壇のようなものがあるだけだった。しかしその祭壇の周囲は木も草も生えないため、村人たちも不思議に思いつつも、そんなものかと受け入れていた。それが、最近になって地下への入り口が偶然見つかった」


 おお、なんかワクワクするぞ。古代遺跡の発見って浪漫があるなあ。


 しかし、ワクワクしてる俺とは違い、タリムはどこか気になることがある、という顔をしている。



「……その村の村長とは書簡で何度かやり取りしているのだが、最近になって遺跡の周辺で知らない人を見かけた村人がいるという。遺跡の中は、価値のある発掘品はないようだし、街道や人里に近すぎて盗賊が住み着くような場所でもない。それが少しばかり不穏でな」

「ふむ、何者かに遭遇する覚悟はしておいたほうが良さそうだ」

「ああ、杞憂であれば良いが、傭兵諸君の力が必要になるかもしれない。頼んだぞ」


 ……なんか雲行きが怪しくなってきた。


 何も無いといいけど。


 ダメダメ、そういう事を考えるから何か起きちゃうんだよ。心を無にするのだ。


 目を閉じて、深呼吸。


 大丈夫……無だ、無になるのだ…………。


 あれ、だんだん眠くなってきた…………。



 いつのまにか、俺はしっかり寝入ってしまった。


 次に目を開けると、何故かタリムと目が合った。あれ、ちょっとうたた寝しただけのはずなのに、どうして……。


 ……うわ!なんでタリムの膝の上にいるんだ俺!


 急いでピョンとご主人の横に逃げた。



「すやすやとよく寝ていたな。息子の小さい頃を思い出したよ。ほら、お食べ」


 うわあ、恥ずかしい。


 熱くなった顔を手で覆った。暴れまわりたい。でも、差し出されたドライフルーツはもらいました。


 みんなからは、ちょっと温かいような、微笑ましいものを見るような視線を感じる。


 いたたまれない。


 そしてドライフルーツおいしい。いちじくかな。甘い。


 隅っこでもしゃもしゃと食べる俺の頭を、ご主人がぽんぽんした。慰めは要らないですよ……。



「よく知らない人がいてもお前がぐっすり眠れたってことは、ここにいる人間は信用できるってことだな」


 俺にそんなセンサーあるかな?いや、ちょっとあるか……。


 確かに、知らない強そうな大人たちがいたら、普通こんな無防備にぐっすり寝れないかも。


 無意識に、この人たちは大丈夫ってわかってたからだろうな。


 みんなを見ると、ちょっと斜め上を見てたり、鼻の下を擦ったり、難しい顔をしようとして失敗したり、もぞもぞしている。


 ……もしかして、信用できるって言われてうれしいのか?


 めちゃくちゃわかりやすい。


 子供から信用されるって、そんなにうれしいことなんだな。でも、ノーヴェまでもじもじしてるのはどうして。場の雰囲気に流されちゃったのか。


 子供に優しいおおらかな人ばかりでよかった。いろんな人との巡り合わせも、旅の醍醐味だ。



 でも恥ずかしいのはもう勘弁なので、そのあとは寝ないよう、かなりがんばったのだった。



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