115話 革と鞄
ポメをしまったり出したりした結果。
いろんなことがわかった。
まず、ポメが空間魔法を使って俺の体に出入りしているのは間違いないようだった。
骨を持った状態でポメをしまい、「骨は置いてから出てこい」と念じたら、ポメだけが出てきた。
またポメをしまい、今度は「骨を持って出てこい」と念じたら、骨をくわえて登場した。ちゃんと同じ骨。
その間、骨は別空間にあったということだ。
これはやばい。
なぜやばいかというと、ポメを通して『収納』ができてしまうからだ。それと、ポメが俺の念をちゃんと理解しててやばい。かしこい。
ノーヴェは楽しくなってきたのか、さらに検証を重ねる。
次にわかったのは、『収納』できるのは、ポメが口でくわえられるサイズのものだけ、ということだ。
つまり、めちゃくちゃ小さいものしか入らない。小枝とか、紙切れとか、小骨とか、小枝とか小枝とか小枝。辛うじて鉛筆はいけた。
それから次に、容量がどれくらいか試した。大量の小枝をくわえて出入りを繰り返す。
ポメがもう無理、というように座り込んだ時点で容量は満杯とみなして計算した。
直径20センチくらいのボウル一杯分だった。少ない。
しかし、この容量が物品の数で決まるのか質量で決まるのかという問題もある。中身が外気温の影響を受けるのかということも。これらは検証がたいへんなので、また後日となった。
中は一体どうなってるんだろうな。
ともかく、『収納』にボウル一杯分の小枝をしまい込むことができた、というわけです。
……入れた小枝をまた出すのが大変だった。
しかも、検証の途中でリーダーが帰ってきた。
「おや、ノーヴェ帰ってたんだね。ハルクも目が覚めたようでなにより…………!?」
そして、小枝をくわえたポメと目が合い、石化してしまった。
そうだよ、リーダーはまだポメ耐性がついてないんだった。すみません。
そんなわけで、俺にちょっとした『収納』の技能らしきものが芽生えてしまったのだった。
俺自身が使えるわけじゃないし、ほんの少ししか入らないから、便利かといわれると……うーん。可能性は感じる。
ノーヴェは興奮しながら紙にいろいろ書きつけている。
「本来なら、空間魔法の理論を学ばないと『収納』は使えないし、収納鞄も作れない。でも、もしかすると、アウルはこのまま『収納』を覚えられるかもしれないな。これは大発見だよ!空間魔法の用法を新たな視点から見直せるぞ!これを論文の主軸にしたい……あ、おかえりシュザ」
その論文、世に出せない気がするぞ。
自分で『収納』が使えるようになったら、すごくうれしいな。がんばろう。
石化が解けたリーダーが、ポメから目を逸らしながら収納鞄をごそごそしている。
「収納鞄の話をしてるのかい。ちょうど良かった、アウルにお土産だよ」
そう言って、何かを丸めたような大きな筒を取り出す。
リーダーは、それを居間の床に広げた。
革かな?
これは、もしかして。
「アウルが仕留めた、あの大角猪の
あの猪!俺が初めて仕留めたやつ!
でっか!
こんな大きな革になったんだなあ、すごい。俺の部屋の床面積くらいありそう。
鞣しって、もっと時間がかかるもんだと思ってたけど、早くないか?一週間くらいしか経ってないと思うが。
動物の皮は、そのままだとカチコチになってしまうから、鞣し加工をして『革』にして柔らかく使えるようにしなくてはいけない。
皮を獲り、革を身につける冒険者とは縁が深い工程だ。
「ああ、あれか。けっこう大きいじゃないか。傷もないし、これならいろいろ作れそうだ」
「あの鞣し工、早いよな」
「本来ひと月かかるところを、特殊な技法で7日間で終わらせてしまうからね。昔は、それが不思議だったよ」
触ってみたら、思ったより柔らかい。あと想像より色が薄い。使ってるうちに濃くなるのかな。
猪くん、もらった命は無駄なく使うからな。
この革で、俺の装備などを作っていくことになった。
「オレ、収納鞄で試したいことがあるんだよね。アウル、この革で実験に協力してくれないか?お礼に小さめの収納鞄作るから」
ええー?
ノーヴェ収納鞄作れるの!?
買ってるものだとばかり……もしかして、パーティーのみんなが使ってる収納鞄、ノーヴェ作なのか?
今日一番の衝撃だ。
「薬瓶の鞄なら、アキが得意だから作ってもらおうか」
「冬に向けて、外套も仕立てたほうがいいよ。そうなると染めなきゃな」
「冬の靴は、この革は向いてなさそうだな。新たに仕立てに行くか」
「外套、鞄、手袋、それで使い切ってしまうかもしれないね」
みんなが相談を始める。こんなに大きいと思ったのに、革が足りない気がしてきた。
そうだよ、冬支度しなきゃいけないんだ。またお金がかかってしまう……うぬぬ。
心配になってきた俺をよそに、ご主人とダインは闇賭場潰しに出掛ける時間になり、準備を始めた。
いつもと違う服を着て、違う人みたいに見える。ほんとに小芝居やるんだな。
悪い顔をしながら、仲良く肩を組んで夜の街へ繰り出していった。
ご飯は外で食べてくるようだ。
元気になってよかった。
ほどほどに楽しんできてください。
たくさんがんばったポメは、俺の指と遊んでる。かじったり蹴ったり、ぺろぺろしたり。小さいからぜんぜん痛くないんだよな。
熱心にぺろぺろするので指先から少し魔力を出してみると、とても喜んでぺろぺろが激しくなった。
お前すごいやつだったんだなあ。空間を作っちゃうのは、真獣の特性なのかもしれない。あの幼体ポメ軍団も、デカ犬の体を出入りしてたし。
俺の中にしまってる間も、枝とか骨とかで遊べるんだったら退屈しないだろう。よかった。
ふわふわのお腹を撫でると、ふにゃふにゃになって寝始めた。
おつかれ。
夕飯には、発酵した野菜が出ました。
思ったより匂いは気にならない。というか、いつも食べてるやつだった。酸味が強めで漬物のような味だ。きっとお酒が進むやつ。
おいしい。煮込んだお肉もおいしい。
ご飯を食べて、少し字の練習をして、ひとりで風呂に入って、ベッドに横になる。
ご主人たちはきっと夜中に帰ってくるんだろう。
明日は講堂に行く日だ。
晴れるといいな。
ポメに「おやすみ」と言ったけど、すでに寝てた。俺も寝よう。
おやすみ。
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