114話 新たな可能性
そうこうしていたら、ノーヴェが帰ってきた。
帰ってくるなり、居間のテーブルに紙の山をドサっと置く。
「あっちはうるさいから、拠点で書類作業することにしたよ」
そして書類を読み始める。すごい量だ。
アキがおやつにクッキーみたいな焼き菓子を持ってきた。ダインはお茶を淹れている。
おやつの時間になりました。
「あ〜〜よく寝た」
そして、ご主人!
ご主人も起きてきた。
駆け寄ると、あくびをしながら頭をぽんぽんして、ポメを渡された。よしよし、ちゃんと仕事したな。指で撫でてやるとポメはうれしそうな顔をする。
みんなが固まってはいけないので、ポメはしまい、おやつに取り掛かった。
ザクザクした生地にジャムが塗ってある。おいしい!
「ようやくお目覚めか。今回は早いじゃねェか」
「そうなのか?いつもは腹が減って目が覚めるんだが、今日はあんまり減ってねえな」
「そりゃオメェ……ところでよォ、今夜あたり例の賭場に行こうぜェ」
「いいな、行く!」
おっと、俺がご主人にスープを食べさせたことは言わない方向なんだな。まあいいか。
ご主人はまだダルそうだけど、賭場には行きたいみたいだ。
息抜きは必要だもんな。仕事で潜入するわけだから、お金は減らないし。いいんじゃないでしょうか。
ただ、その悪い顔をやめてもらえないだろうか。もはや悪人にしか見えん。
賭場ってどうやって潰すんだろうな。
「どういう設定でいく?」
「どんな賭場なんだァ」
「確か、表向きは真っ当だが裏で商売やってるやつだったと思う」
「あァ、賭場経営を目眩しにしてんのか。なら、金持ち狙いだろォから小綺麗な格好のほうがいいなァ」
「じゃあダインは最近商売が上手くいってる商店の店主、俺はその従業員ってのでどうよ」
「いいぜ」
小芝居するんですか。めちゃくちゃ楽しそうだな……。
悪い顔の大人たちをじっとりした目で見ながら、ノーヴェがため息をついてお茶をすする。気持ちはわかるよ。
「アウル、これ」
大人たちに呆れていたら、アキが俺のすぐ横に来た。何かを手渡される。
とても小さい、骨?
何ですかこれは。
「……欲しがるんじゃないかと思って。お前の、小さい奴が」
ああ、ポメ用か!俺にくれたのかと思ってびっくりしちゃった。たしかに、なんかいい感じの骨だけど。俺は1割しか犬じゃないので、良し悪しはわからないからな。全然。
ポメ、ここで出していいだろうか。
出しちゃうぞ、慣れてくれ、みんな。
「出てこい」と念じて、机に現れたポメの前に骨を置いた。
さすがに阿鼻叫喚にはならず、みんな固唾を飲んでポメの動向を見守っている。
ポメはしばらく骨の匂いを熱心に嗅いで、ちっちゃな口で噛みついた。うれしそうにガジガジしてる。
そしてそれを俺の前に持ってきて自慢した。
よかったな。ほら、アキに見せてあげて。
アキの前で骨をくわえたまま、回転を始めた。喜びのダンスだ。
アキは恐る恐る手を伸ばして、手のひらで回転するポメの毛に触れる。
そして恐る恐る手を離し、ゆっくり後ずさって、シュッ!と厨房に消えた。柱の横からちょっと顔を出してこっちをうかがってる。
こんなちっちゃい毛玉にそこまで警戒しなくても。
それでも、歩み寄ってくれたアキには、ポメは受け入れられたと見ていいはず。
他のみんなも、少しは慣れたかな。
幸せそうに骨で遊ぶポメをしまった。ちょっとずつじゃないとな。
「……なあアウル、それどうなってるんだ?出たり消えたり」
難しい顔のノーヴェに尋ねられた。
うん、わけがわからないよな。触れることができる実体のある生き物が、俺の体を出入りする仕組みは不明です。
「もう一回、出してくれないか」
頼まれたので、しまったポメを出す。
まだ骨で遊んでる。
「やっぱり変だ」
「何が変なんだよ?」
「だって、この小さい犬だけなら、まだわからなくもないけど、骨も一緒に出入りしてるだろ。おかしくないか?」
「言われてみれば……」
確かにそうかも……?
俺の体の中を出入りしてる、ってぼんやり理解してたけど、骨も一緒に出入りしてるのは変かも。
浄化して魔力に還元したわけじゃない物体が俺の体を出入りしてる、ってことだもんな。
えっ怖。
おい、どういうことなんだポメ!
そんな首を
ノーヴェとご主人が揃って考え込んでる。
「もしかして、空間魔法かな」
「こんなちっこいやつがか?」
「でも真獣に
「……そうかもしれねえ」
そうだったのか、ポメ。
じゃあ、もしかして、ポメの作った空間に物を入れたり出したりできるってこと?
すごくないか、それ。
「検証しよう!」
ノーヴェが書類を放り出して、俺とポメに迫ってきた。うお、なんか生き生きしてるぞ。俺も気になるけども。
それからというもの、リーダーが帰ってくるまでひたすら、ポメを出したりしまったりを繰り返すことになった。
魔法師って怖いな。
ポメ耐性がついたようで何よりです。
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