109話 みんなでご飯
夕食の席は、それはもう賑やかだった。
ずっと携帯食だったらしく、不満が爆発したアキが見境なくおいしいものを作っては出し、作っては出し。
そこに酒を添えるダイン。
愚痴の花を咲かせるノーヴェ。
みんなで食べるご飯は、どうしてこうも……うわ、このスープちょっとカレーっぽくておいしい!何杯でもいけそう。
最高です。
「……おかしいよ!古文書か童話でしか見たことがないような真獣が、王都のこんな近くまで来るなんて。その上、その眷属が番人に?こんなの王都の何百年かの歴史でも前例がないだろ!」
「そうだね、驚いたなあ」
「何よりおかしいのは、そんな伝説の存在と友達みたいに話してるお前だよ、ハルク!なんであんなに平然としていられるんだ。お前の心臓は金剛か何かでできてるのか?」
ノーヴェ、荒ぶってる。合間にしっかりアキの料理を挟みつつ、ノンストップ愚痴大会になっている。器用。
探索チームの人たちにも挨拶したらしい、あの眠犬。眠そうなのに仕事はきっちりこなすタイプらしい。
あの犬たち、伝説とか言われてたんだ……俺はすごい体験をしちゃったんだな。
「王に挨拶するとか言ってたが、どォすんだ」
「組合長から王城に話を通すと大騒ぎになりそうだから、僕のほうから伝手を使って王に直接伝わるようにしようと思っているところだよ」
「あァ、ファンイを使うのか」
王って、そんな大きな話になってるの?伝説半端ないな。
眠犬は俺のお目付役で駐在してるだけだと思ってたんだが……。眷属でもそれだけすごい存在ということか。眠そうなやつだったが。
みんなは、さぞびっくりしただろう。
俺もまさか、真獣がそんな伝説の存在とは知らなかった。でも納得だ。あのふかふかな寝心地は、確かに伝説級と言える。
「そんな敵に回しちゃいけないような伝説の相手を、ハルクが殴ったんだぞ。想像できるか?なあ、アウル」
急に話を振られたので、うなずいておく。
まあ、その場面見てましたので。
殴った、ではなくて殴り飛ばしてた、だな。あのダンプカーサイズのやつを。コラ!って。けっこう遠くに。
カチャン、とダインがフォークを取り落とした。あ、読まれちゃったかも。一応読まれないようにガードしてたつもりだったんだけど。
「…………おいノーヴェ」
「なんだよ、ダインもそう思うだろ」
「そォじゃねェ。忘れたか?俺らは、ついさっき本部で契約してきたとこだろォが」
「あっ」
ノーヴェが手で口を押さえた。
契約って何だ。
「『当事者以外の者に、該当項目について話すことができない』という行動制限の契約魔法だったね」
「……アウルがいるのにオレ、いっぱい『真獣』の話ができた…………まさか」
「坊主も当事者ってことだろォ。なァハルク」
契約って、契約魔法の類か。俺の奴隷契約と同じような。
つまり、俺が当事者じゃなかったら、ノーヴェは『真獣』の話ができないはず……ってわけだ。『真獣』のことは口止めされてるみたいだ。
黙々と食事をしていたご主人だが、みんなに見られてさすがに手を止め、「あー」と歯切れの悪い返事をする。
バレちゃいましたね。
俺のこと、話してなかったんだ。
「ま、まさか今回の件、本当にアウルが関係してたのか!?」
ほぼ元凶が俺でしたね。
みんな食事の手を止めてしまった。
む、せっかくアキのおいしい料理なんだ。それは良くない。俺は構わず食事を続けることにした。
「……話は食事の後にしようぜ」
俺の様子を見て、ご主人も食べかけていた骨つき肉にまたかぶりつく。
それもそうだ、とみんなは食事を再開した。食事の後にまだ一波乱ありそうだ。
だがそれは後。今はこの素晴らしいご馳走を感謝していただきます。
焼いたお肉!ピリッとしてておいしい!
「……採集と狩猟の再開は、森の状況を再度確認してからになりそうだね」
「あの眷属の獣は助けないって言ってたから、ちゃんと警戒しながら活動するのは今までと変わらないな」
食後、酒を片手にみんながくつろぎ始める。
俺も後片付けを手伝ったあと、それに加わった。
「じゃあハルク、言い訳を聞こうか」
ノーヴェがニッコリしながらご主人に詰め寄った。楽しそうだなあ。ご主人は疲れた顔のまんまだが。
「……言ったろ、何も聞くなって。アウルのことも含めてだよ」
「ハルク、話せる範囲のことだけでいいんだ。教えてくれないかい。僕たちも、アウルに何かあった時の立ち回りを知っておく必要があるだろう?」
むむ、これはズルい言い方だなリーダー。こう押されては、ご主人も押し負けちゃうだろ。
「わかった……」
負けた。
それからご主人は、すごく大雑把に説明した。
俺がサンサの屋敷に来る前に、おそらく真獣と関わりがあった。だから真獣は俺を探して王都の近くまで来た。それを知って、俺を真獣に会わせた。
……と、そんなかんじだ。
意識とか仔犬とかそのへんは伏せておくみたいだ。まあ、俺の思考はダインに漏洩するので、隠すのは難しいかもしれないけど。
「要するに、真獣の目的はアウルで、ハルクはそのことを知って、非常識にもアウルを連れて夜中の森を往復した……ってことか。普通、夜に森から拠点に戻ろうって考えるか?」
「ハルク、君の足が速いことは知っているけど、拠点と森の往復は少し無茶ではないかな」
「結局、オメェの『勘』は正しかったなァ」
「アウルのおかげで森は豊かになったということだろう。結果が良ければそれでいい」
みんなの意見は様々だ。
ご主人は、真獣のことがなくても一回戻る気だったと思うんだよな。出るときに「夜に戻る」って言ってたから……そこは、まあ、ご主人なので。
お騒がせしてすみません。
まだお騒がせな情報が残ってますけど。
「アウル、夜に連れ出されて大変だったね。怖い思いをしていないかい」
「ハルク、お前に力があったとしても、アウルはそうじゃないんだからな」
気配りを忘れないやさしいリーダーに、大丈夫って意味でうなずいて見せた。
ノーヴェはぷんぷんしているが、俺はまあ、ふかふかを堪能できたことですし。
「……悪かったよ。いちばん早く解決する方法がこれしか思いつかなくて」
「君を責めているわけではないよ。あの場で君に話を聞いていたとしても、信じられたかどうかはわからないからね。僕がハルクに任せて、君はちゃんと解決した。よくやってくれた」
リーダーに労いの言葉をかけられ、ご主人は少しホッとして、褒められてうれしいワンちゃんのような顔をした。
そして俺を手招きして膝の上に乗せた。
「もうひとつ言っておくことがあってさ……アウル、あれ出せるか?」
ついにちびポメのお披露目か。
みんなどんな反応をするかな。
すこしドキドキしながら両の手のひらを掲げて、「出てこい」と念じた。
シュッと出てきて、みんなに向かって聞こえない声でキャン!と挨拶するポメ。うん、挨拶はだいじ。
ついでにトンボ返りを披露して……おお、成功だ!えらいぞ、練習の甲斐があったな。受け入れてもらうためにも、愛想は大切だからな。
「アウルがこいつを預かることになったんだ。これも眷属というか、目印みたいなものだな」
どうぞ、よろしくお願いします。
……反応がないな。
とても静かなので、みんなを見回すと、口をぽっかり開けて固まっていた。
ダメだったか。
みんな彫像になっちゃった。
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