63話 おさいふ
買取口を後にしてお金関連の窓口に向かう。
リーダーがララキが書いてくれた紙と組合証を受付のお姉さんに渡している。それを下から見る俺。
ここのカウンターはサンサと違って、少し低い。俺にとっては使いやすくてありがたい。
この世界は老人と子供が少ないせいか、バリアフリーの概念が薄い。子供の身体になって初めて気付く不便が多い。階段とか絶妙に大きくて上りにくいんだ。
はやく大人になりてえ。
「いつも通り、全体の一割をパーティー用資金に振り分けて、あとは五人で等分……いや、薬草の分は別でお願いできるかな」
む、実際の貨幣をやり取りするんじゃなくて書類上でお金を動かす感じか。すごいな。
「薬草の分はどのような形に?」
「銀貨と銅貨で使いやすいように」
「わかりました。ではそのように」
お盆の上に銀貨と銅貨が積まれていく。
生活する上で現金も必要だからな。
「アウル、随行者証を出してくれるかい」
リーダーに言われて首から外して渡す。それは受付のお姉さんの手に渡った。
「この薬草の分の実績は、この子の随行者証で記録をお願いするよ」
「『見習い』の方用の記録ですね、かしこまりました」
「?」
えっ、どういうこと?
ばっ、とリーダーを見ると、ちょっと嬉しそうな顔で俺を見下ろしていた。
「みんなで話し合った結果、アウルが自分で採集した植物や薬草を売ったお金は、君の取り分にすることにしたんだ」
ええーー!?
俺の取り分て何!?聞いてないです!
「君の立場だと新たな口座を作れないから、持ち運びでかさばるかもしれないけど……」
いや、そういう話じゃなくて。
え?俺は口座開設できないの?奴隷だからか。
そうじゃない。
俺もお金もらっちゃっていいんですか……!
奴隷なんですけど!奴隷ですよ?奴隷!搾取される存在なんですよ本来は!
目を見開いて口をぱくぱくする俺を、リーダーはいたずらが成功したみたいな顔で見てくる。
そんな、うそ……。
というか、俺が採集した薬草よりノーヴェが採集したほうが多い!これはズルとみなされないんですか。
俺がちょっと抗議してるのを感じ取ってくれたのか、リーダーは苦笑した。
「ノーヴェが採ったものも混ざってるね。それは今回だけだよ。元々ノーヴェは、自分で採集はしないんだ。珍しいもの以外は全部店で買って調合に使っているんだよ。下の階位の人たちの依頼を奪ってはいけないから、と言ってね」
「……」
「それに、見習いの間は階位は上がらないけど、実績を記録することができる。実績をあらかじめ積んでおくと、正式に冒険者になったときに、等級が早く上がるんだ」
見習いの間は狩猟は推奨されていないから、必然的に採集で実績を積むことになる、だって。
見習いだと他の組合に売っちゃうと実績にならないみたい。冒険者組合で買取に出した場合のみ実績として記録される。
そうか。やっとわかったぞ。
ノーヴェが今朝言っていた「今後のため」は、俺の実績のことだったのか。
俺のために、普段やらない薬草採集の手本を見せてくれたり、全部冒険者組合で売るように教えてくれたりしたんだ。
俺が売った薬草も、回り回ってノーヴェが買うことになるかもしれないな。
……それってものすごーく間接的にお小遣いをくれてる、ようなものじゃないのか?
ノーヴェ…………!
「アウルはよく頑張ってくれているし、これから自分で自由に使えるお金が少しはあったほうがいいと思ってね。狩猟の分は入れてあげられないけど……はい、これは僕からの贈り物だ。これにお金を入れるといいよ」
リーダーが、小さな革の巾着袋のようなものをくれた。
これは、財布?
それにしては小さすぎる気がする。
「お金だけたくさん入るように空間魔法で拡張してあるんだ。ほら、この真ん中の石に魔力を流して……そう、上手だね。これでこの袋はアウルと僕以外は中身を取り出せなくなったよ。アウル専用だ」
「!」
俺専用の、財布!
焦茶色の柔らかい革で、紐を引いて口を閉じるタイプだ。長い紐がついていて、その先にはツノか骨みたいなものがぶらさがっている。
「これは、こうして……帯に引っ掛けて落ちないようにするんだ。ほら、この飾りのところで留まるだろう?」
これ、『根付け』だ。日本でも着物とかで財布が落ちないよう引っ掛けるやつがあったはず。ちょっと格好良くてテンションが上がる。
リーダーに言われるまま、お盆に盛られた銀貨をつまみ、財布に入れる。中に仕切りがあって、銀貨と銅貨を分けられるようになっていた。
初めて触ったこの世界のお金、その重さ。
銀貨18枚と銅貨23枚。
一生忘れないと思う。
俺は感謝を込めてリーダーの腰にギューーっと長めにくっついた。
リーダーはやさしく頭ぽんぽんしてくれる。
一生ついていきますお父さん……!
その様子を、受付のお姉さんが微笑ましく見守ってくれていた。
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