20話 魔法のおはなし



 俺に魔法を教えるかどうかの話になっていたようだ。どの程度の制御ができるかによって教え方が変わるという。


 魔法の訓練には段階があり、まず発動、次に制御、その次に種類、そして規模……というように訓練していくらしい。


 つまり俺の場合、発動と制御の部分はすっ飛ばしていいってこと。



「王都に帰る時に定期便を使わないで歩いて帰るのはどうだい。途中で身体強化や魔法の練習ができるし、採集と野営の訓練もできる」

「それいいな。オレちょうど薬草の採集したかったんだよね」

「いいんじゃねえ?帰りは急がなくていいんだろ」

「じゃあ、この依頼をきっちり終わらせよう」


 お、楽しそうな予感がする。

 いろいろ覚えて役に立ちたいね。



「で、アウル。今のところ水と浄化以外に使える魔法ある?」


 首をひねって考える。うーん、無いと言えば無い。


 でも魔法はイメージした事を魔力を使って具現化することだから、ある程度は何でも出来そうな気がする。



「わからないか……じゃあアレでいこう」

「アレ?」

「自分が一番簡単で便利だと思うこと。それをイメージして発動してみて。あ、規模は極小でね。発火とか送風とか、そういうかんじで」


 一番簡単で便利。なんだろう。


 しばらく考えてから俺は手のひらを上に向けた。ピリピリした感覚が走り、スパークが瞬く。バチバチと音がする。


 よかった、うまく発動した。


 電気。

 便利と言えばやっぱりこれでしょう。



「か、雷魔法!?」

「はァ?」

「すごい、お前雷が使えるのか!」


 手のひらにまとった電気を見て唖然とするノーヴェとダイン。これもあかんヤツだったか。


 しかしご主人はめちゃくちゃ喜んでる。キャッキャしながら俺の髪をぐしゃぐしゃにした。ワンちゃんかな。



「イメージと制御の難関と言われてる雷魔法が……簡単で、便利…………?」

「まァ待て、雷は威力が肝心だろォ。威力が上がるほどに制御が難しくなるはずだ。ピリピリする程度じゃほとんど意味ねェ」

「そ、そうだね。威力はここじゃ無理だから、また試すことにしよう……」

「かっこいいだろ雷」

「汎用性がなァ」


 そうか、俺にとって電気は身近で便利だけど、この世界では電気エネルギーを利用する仕組みが無いから、あまり意味がないのか。


 便利と言うなら空間をどうのこうのする魔法だと思うのだが、魔力を空間系に変換するイメージがまだできない。


 これは入れ替わりの弊害かもしれない。科学という固定概念が魔法の自由なイメージを邪魔しているのだ。


 この世界のことをもっといろいろ勉強したら、すごい魔法も使えるようになるかもしれない。


 電気だってすごいんだけどなあ。


 あ、そういえばもう一つ使えるやつがあるぞ。


 俺はカウチでだらけるダインに近づき、肩に手を置いた。



「んァ?何を…………はァ!?」

「どうしたんだ?」

「おいオメェそれどこで……!」


 ダインに掛けたのは回復だ。と言っても傷口を塞いだり血行を良くしたりする程度のものだけど。ダインは肩の凝りが少し解消されたはず。


 どこで知ったかは、まあ言いたくないよな。



「チッあの女……」

「え、何?何が起きたの?」

「おい坊主、俺がちゃんとしたの教えてやる。だからソレは忘れろ。いいな?」

「あ、なるほど……回復か」


 ダインに肩を掴まれて揺さぶられた。なんかすごい怒ってる。でも教えてくれるならありがたい。とりあえずうなずいておく。



「珍しいね、ダインが教えるの」

「今日はダインの珍しい姿をたくさん見られた日だね」

「くくく、あの芝居は見ものだったよ」

「お前ほんとに何やったんだ……」


 俺の知らないところで何かしたのか?ちょっと見たかったな。


 本人は素知らぬ顔で俺の顔をむにむにしている。照れ隠しに俺をつかうんじゃねえ。



「ほォら、お子様は寝る時間だ」


 まだ早くないですか!

 八つ当たりの矛先を俺に向けないで。



「採集や野営をするとなると、やっぱり組合支部で随行者証を発行してもらったほうがいいかな」

「……支部に連れていきたくねえ」

「アウルにとっての脅威はもう存在しないんだろう?ずっと宿にいると息が詰まるよ。息抜きに街を歩くのもいいんじゃないかな」

「……わかった」


 渋るご主人をリーダーが説得してくれた。押しに弱い人で助かる。


 やった、明日はお出かけだ!



「そうと決まれば、早く寝ろ」


 喜んだのも束の間、ベッドに連行される俺。それとこれとは話が別では!


 柔らかベッドにポイ、毛布バサァ、雑なトントン。あれよあれよという間に寝支度を整えられてしまった。



「……ちったァ気が紛れたかァ?」

「……」


 紛れるって何がだろう、一瞬そう思ってすぐ理解した。


 そっか。


 魔法の話も野営の予定も。

 今日いろいろ大変なことがあった俺を心配して、みんな楽しい話を考えてくれたんだ。


 やさしさが沁みる。


 そして、もぞもぞする……!


 こういうふうに気を使われるの、慣れない。もっと雑でいいのに。醜態を晒した上に気遣われるとか追い討ちだと思う。


 あんまりやさしいと、網の上で炙られるゲソみたいに身を捩りたくなるだろ。


 もぞもぞ毛布にもぐり込む俺を面白そうに見るダイン。見てんじゃねえ、でもそういうのでいいんだよ、そういうので。でも見んな。



 やっぱり寝たくないな。

 ちょっと嫌な夢を見そうな気がする。


 ……こういう時に魔法をかけてもらえるとありがたいんだがなあ。


 目だけ出してじっとダインを見ていると、ため息とともに手のひらが降りてきた。



「しゃァねェな、今日だけだ……『眠れ』」


 ふわりと魔力に包まれ、すぐに意識が暗闇に落ちていく。


 

 ありがとう、おやすみ。






 

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