17話(別視点)三文芝居・幕開け
「だから!王都まででいいの。一緒に依頼受けてよ〜!いつもやってるパーティーが都合悪くて」
「そんなこと言われてもねえ」
ダインが風呂場から出ると、女のやかましい声がした。同時にかすかに甘いような匂いもする。
冒険者を名乗る者が、魔物に気付かれるような香水をつけたりするだろうか。ダインは眉をひそめつつ、会話に割り込んだ。
「なんだなんだァ?あァ、オメェは支部にいた女かァ。宿まで押しかけてくるたァ、お熱いこったなァ」
「な、なによ」
敢えてニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、じろじろと品定めするように女を上から下まで眺める。
突然始まったチンピラの芝居に、シュザとノーヴェは少々たじろいだがそのまま様子を見ることにした。
ダインはそのままの表情で馴れ馴れしく女の肩に腕をかけた。堂に入った演技である。
「オメェ、ハルクのこと狙ってンだろォ?まァ組んでやってもいいが、俺らに何か得あんのかァ」
「それは……あたしは採集と狩猟で三級だし魔法も得意だから足手まといにはならないよ……この辺に詳しいから案内もできるし……」
「ほお」
聞いているふりをしながら、ダインは女を観察する。
身体の線がわかる服を着ているのはわざとだろう。顔は悪くないが大きい目がギョロギョロと忙しなく動いており、少し異様だった。これが『粉』の禁断症状か。
「まァちょっと中に入れって」
「おいダイン」
「……アレ、持ってんだろォ?オレらにも分けてくれりゃあ依頼の件を考えてもいいぜェ」
「……あれって何」
「とぼけんなって。聞いたぜェ?マジでぶっ飛ぶんだってなァ。ちょーっと誠意見せてくれるだけでいいんだ。世の中誠意が大事だって聖人様も言ってるだろォ」
「……タダじゃあげられない」
食いついた。
どうやら女は、ダインを『粉』を欲しがる同類だとうまく勘違いしてくれたようだった。
なるほど情報を得るための芝居か、と理解したシュザとノーヴェは素早く目配せして会話に入る。
「そりゃタダでとは言わないよ。高いんだってね。その分よく効くって話だし」
「……今は売れない」
「あァ?なんでだよ」
「……上が行方くらませたんだよ。在庫も金も消えたの。連絡取れるまでは無理」
捕まった、ではなく、いなくなった。『上』はカトレ商会ではないということだ。やはり裏で糸を引いている存在がいるようだった。
となると、この女はカトレ商会の手入れがあった際に上手く逃げたが、『上』も消えたため路頭に迷い、このパーティーに紛れて街を脱出する算段なのだろう。
この女、実は指名手配されている。
シュザによれば、屋敷にいた他の奴隷たちから衛兵が証言を聞き取り、捕縛された中に女がいないことに気付いた。
行方の捜索が本格的に始まったところなのだ。
冒険者組合支部に潜伏していたようだが、そろそろ捜査の手が伸びてきて焦っているのかもしれなかった。
普通のパーティーであれば、女の企みはうまくいったかもしれない。
ただ、彼らが『粉』を追っている身であるという事実を知らなかったことが女の不運だった。
シュザたちとしては、衛兵に捕まる前に情報を引き出したかったので、アウルには悪いがこれは千載一遇のチャンスだった。
「ハァ、しゃァねェな……ところでよォ、俺らのことどっから聞いたんだァ?オメェ程度じゃ知りようがねェだろォ」
「あたしはこれでも顔が利くの。支部長からいろいろ任されたりもするんだよ?あんたたちのことも『有望なパーティーが王都の方から来た』って聞いたから」
「わかってンじゃねェの」
あからさまに持ち上げてくる女に分かりやすく乗せられる(ふりをする)ダイン。見ようによっては女に鼻の下を伸ばしているようにも見える。
支部長もこの件に関与している、ということも見えてきた。
ダインの芝居すごいな、と思うパーティーメンバーであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます