15話 晩ご飯
ご主人を洗って風呂から上がると、みんなそれぞれ集めた情報を共有しているところだった。
俺は邪魔になるといけないと思い、調理場に行って夕飯の支度をするアキを眺めることにする。晩御飯なにかな。
アキは市場で買ってきたであろう野菜をリズミカルに刻んでいる。けっこう大雑把だ。何か調味料を揉み込んでいったん置く。
「……やっぱカトレ商会が元じゃない気がするね。誰かに騙されたんじゃないかな」
「そうだね、僕はアウルがいた奴隷商で他の奴隷から話を聞いてきたんだけど、以前は真っ当に商売をしていたようだ」
「長男が病死してから変わったって向かいの店舗の店員が言ってたなあ」
「カスマニア出身だと聞くと、どうしても偏見を持ってしまうからね。それでも評判は良かったようなのに、『粉』に手を出して落ちたというところか」
ぬ、リーダーはあの奴隷商に行ったのか。奴隷仲間のみんなは元気にしているだろうか。俺は元気です。
奴隷をひどく扱う悪名高い国の名前が『カスマニア』と判明した。もしかしたら俺の身体の元の持ち主も、そこ出身かもしれない。
アキはつやつやの赤い肉を取り出して切り始めた。見た目は牛肉のように赤い。けれどこの世界でも牛肉とは限らない。
「……手伝うか?」
じっと見ているのをアキに気づかれてしまった。俺はちょっと恥ずかしくなりながらおずおずと近づく。
り、料理とか出来るかわかんないですけどいいんですか。
どきどきしていたら、皿や使った調理器具の洗浄を頼まれた。ほっとする。得意分野ありがたい。
「どうにも支部がきな臭いんだよ」
「ハルクそればっかり」
「だってあそこで会った女いたろ?そいつ『王都から来たんでしょ?一緒に依頼受けない?』ってしつこくて。王都から来たのは誰にも話してねえのに何で知ってんだ?」
「オレそれ知らないんだけど」
「支部長もおかしいぜ。目を合わせねえしずっと外を気にして落ち着きがねえし、睡眠不足みたいなツラしててよー」
「これは支部にも迂闊に情報流せないな。あの窃盗をした雇い人にも話を聞きに行かないと」
「カスマニアのほうは戦争準備の噂があるから、これからサンサに流れてくる人が多そうだな」
「戦争好きだねあの国」
支部が怪しいの確定、と。
冒険者は国をまたいで活動してるから、『粉』の運び屋になってんじゃないのか、と推理してみる。
まだ『粉』はよく知られてないみたいだから、危機感がないだろうし。移動のついでに運ぶよう金を積まれたら、正規の依頼じゃなくても受けてしまいそうだ。
まあ、俺は依頼の仕組みとか何も知らないから、ぜーんぶ憶測だけども。考えたことを伝える手段もないし。
「じゃあ僕は明日は突き出した雇い人に話を聞きにいくよ。ダイン一緒に来てくれるかい」
「あァ了解」
「支部長のことは今は証拠もないし保留にしておこう。あくまでもカトレ商会周辺から探っていきたい」
「……そろそろ定期報告入れたほうがいいんじゃないか?応援をよこしてほしいよ、オレらだけじゃ手が回らない案件になってきてる気がする」
「そうだね」
俺がちゃんと手伝えたらいいのだけど。『子供』な上に『奴隷』で、しゃべれないし読み書きできない。
みんなが快適に仕事できるように宿を整えるのをがんばりますよ。
それはさておき、アキが肉を焼き始めた。ジュッていい音がする。ソテーかな。晶石を使うカセットコンロみたいな道具があるんだけど、すごいね。
俺は木皿を持って焼けた肉を受け取る重要な係になる。
めっちゃいい匂いする!けどこれ俺も食べるのだろうか。まだキツい気がするな。
ソースっぽいのをかけて、付け合わせの野菜を添えてテーブルに並べていく。全部で5枚の皿。うん、俺は別メニューのようだ。おいしそうだから食べてみたいけど、まだダメだろうね。
盾……治癒の人をチラ見すると、俺の言いたいことに気づいたのか、首を横に振っていた。ドクターストップかけられちゃった。
不意に、ドンドン!と部屋の扉が叩かれた。
「誰だろう、来客の予定あった?」
「ねェよ」
「何だろう、はいはい!今出るよ!……うん?旦那、何かあった?」
ノーヴェが対応に出た。
……俺のやりすぎた掃除で怒られたらどうしよう。それはないか。まだ見られてないから大丈夫!
俺は客が増えたらご飯も増やすのだろうか、とぼんやり考えながら木皿を手に取る。
「……ねえ!赤い髪の冒険者の女が会いに来たって!」
カランカラ──ン!
乾いた音が響く。
俺が皿を取り落とした音だった。
***
ここからちょっとシリアス注意。
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