14話 おかえりなさい
「空気が美味しい……」
「…………」
手を広げて深呼吸するノーヴェ、じっとりした目で見てくるダイン。
そうだろう、キラキラしてるだろう。
キラキラしてるっていうのは比喩じゃなく、『浄化』によって魔力?に分解されたものが舞っていてキラキラして見えるのだ。
二人の後ろからリーダーとアキが入ってくる。おかえりなさい。
「随分きれいになった」
「一人にして悪かったね。がんばったんだねアウル」
リーダーは微笑んでよしよしと頭を撫でてくれた。リーダーが怒ってないなら大丈夫ってことだな。
「いや放置してたオレたちも悪いけどさあ…………うわっ、上流向けの宿より綺麗になってるベッドとオレの肌着……」
「……オメェこれ全部魔法でやったのかァ?魔力使いすぎだろォが。気分悪くなってねェだろうなァ?」
こんなん商会にいたときの3分の1くらいしか魔力使ってないが。商会にいたときだって魔力使いすぎたと思ったことはない。
相変わらずガラ悪な盾の奴が、胸を張る俺を無視してぺたぺたと身体に触れて身体チェックを始める。こういうところは治癒の人だなあ。でも顔をむにむにするのは体調と関係なくない?
ところでご主人はどこですか。
「帰ったぞ……あれ、こんな綺麗だったか?」
考えてたら声がした。
おかえりなさい。うわ……。
「あ、ハルク。オレらも今帰ったとこ……うわ汚な!」
泥んこなご主人が疲れた顔で入ってきた。
せっかくキラピカにしたのに!
俺に新たな任務が与えられた。
即座に風呂に放り込まれた泥々のご主人を丸洗いするお仕事である。
…………
「どうしてどろんこに?」
「偽装で受けてた狩猟依頼ひとりで行けって……一日サボったから……終わらせて全速力で走ったらぬかるみの泥が跳ねてて……街に入ってから気づいた…………」
「おつかれさまです」
ああ、それは仕方ない。
たっぷりアワアワにしてどばっと流してから、ご主人を浴槽に放り込む。
いつの間にか俺も一緒に入ることになっていて、ご主人と二人で浴槽に並んだ。2日連続入浴。贅沢の極みです。
ちなみに湯沸かしはノーヴェがさっと適温のお湯を出してくれるので一瞬で終わる。魔法はすごい。
浴槽からちょこっと手を出してご主人が着ていた泥々の衣類を魔法で水球の中でわしゃわしゃする。この汚れは『浄化』だけでは落ちまい。
水がどんどん汚れていく。何回か水球を入れ替えて濯ぎ、『浄化』後に水を抜いて完成。今日何回もやったセットだ。魔法はすごい。
「ほー、中々の魔力操作じゃねえか」
「そうなんですか」
「それだけ自由に使えたら十分だろ。魔力量も多いみたいだし、前途有望だな」
ふむ、俺は優秀なのか。前途に何があるのかわからないが、魔法もっとがんばろう!
今日あったことをつらつらと話しながらお風呂タイムを楽しむ。
「今日はひとりで大丈夫だったか?」
「ご主人の魔物の本、おもしろかったです」
「お、あれが魔物って分かったか。なかなか分かりやすかったろ? あれは冒険者組合で配ってる資料だよ。冒険者は字が苦手な奴もいるから、ああして図解になってるのを最近配ってるんだ。いずれお前も本物に出くわすことがあるだろうよ」
「ご主人はぜんぶ会ったんですか」
「うーん、たぶん?」
なんと配布された本だったのか。お高い本だと思ってた。
「字がもっと読めたらよかったです」
「そうだなあ、リーダーに教えてもらうか」
「いいんですか?」
「俺が教えたいけど、俺教えるの上手くねえから。よし、王都に戻ったら教えてもらうようリーダーに頼もう」
「おねがいします」
「覚えたら一緒に図書館行こうな。王都の図書館はデケェぞー」
「としょかん!」
楽しみが増えた。これでまた一歩優秀な奴隷に近づけるってものよ。
ご主人との会話は尽きない。
こんなに俺おしゃべりだったかな。やっぱりちょっと寂しかったのかもしれない。
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