12話 朝飯前よ
ぱち、と音がきこえそうなくらい急に目が覚めた。
瞬きをしたら朝だった。夢も見なかった。
魔法の入眠は恐ろしい。
身体がとんでもなく軽い。今までいかにボロボロに生きていたかわかる。これが本来のこの身体の重さなんだ。
急速に回復したからか、とても腹が減っている。
起きて伸びをして、隣のベッドを見るとご主人がすやすやと眠っていた。
何時くらいなんだろう。元の世界と同じ24時間単位なのだが、時計を持ってる人があまりいない。この世界の人々は時間にとても寛大──いやルーズだった。
7時くらいかな。
軽く身支度して驚くべき柔らかさを提供してくれたベッドを整えてから本部屋へ行くと、すでに料理の人アキが作業をしていた。リーダーもいる。
「おはよう。よく眠れたかい?」
俺はうなずく。
む、ご主人がいないと会話ができない。これにも慣れるしかないか。
用を足したり顔を洗ったりして部屋に戻る。
「これ朝飯だ」
アキによってテーブルに並べられたのは、ナンのような平べったいものと果物らしきもの……果物!
ナンのようなものは普通にパンだった。蜂蜜かな、甘いものが塗ってあってとてもおいしい。この身体の舌がとても喜んでいる。この少年は甘いものが好きらしい。
続いて果物。見たことのない形をしている。いい香りがふわっと広がる。これも初めての香り。
手のひらに乗せてじっと眺めていると、後ろから伸びてきた手に奪われた。
「!」
「これは皮をこうやって剥いて食うんだよ」
ご主人が起きてきた。
先にご飯食べちゃってますよ。
皮を剥いてもらった果物は、さくらんぼのような食感のぶどうのような甘さの桃のような味。これ好きだ。
ご主人の前には俺と同じパン(ただし二倍)、果物(二倍)、そして調理した肉がどーん!と。朝からすげえ。
多分、アキって人がいるおかげで宿の食事よりいいもの食べてる。
これは「少年の舌を肥やそうぜ計画」も円滑に進みそうで嬉しいぞ。いいパーティーだな。
「今日の予定だが、まずは組合支部に行って借家の件のけりをつけたい。偽装で受けている依頼もきちんとしないといけない」
「あと例の雇い人のことも忘れんなよ」
雇い人?
俺が不思議な顔をしているのを見てご主人が「組合の支部長に『街に慣れるまでの世話役』とかいって押し付けられた奴が、パーティーの持ち物を盗んだから衛兵に突き出したんだよ」と教えてくれた。
そんなこともあったのか。
大変だったんだな。
あ、わかったかも。雇い人が信用できなかったから、魔法で契約を交わしてる奴隷、つまり俺が歓迎されたのか。
奴隷のほうが裏切る心配がないから信用できるとは。皮肉な逆転現象だ。
「アウルは連れて行くかい」
「ダメだ。この街の支部は信用できねえ。メンバー増やしたことは、まだ知られたくない」
「……宿にひとりで置いておくことになるよ」
「今日はしょうがないだろ」
ご主人、支部にむちゃくちゃ不信感もってるじゃん。『粉』の魔の手が支部とやらにも伸びてんのかな。
俺はお留守番か。
街を見てみたかったから残念。
「……じゃあ行ってくるからな。昼飯はアキが作ってくれたやつがその木箱にあるからな。水は…自分で出せるな。部屋から絶対出るなよ?宿の旦那に絶対誰も通さねえように言っておくが、誰が来ても出るなよ?いいな?暇したらそこに読み物置いとくから読んでいいぞ。絵も多いやつだから。部屋は鍵をかけて絶対外に出るなよ?」
出ませんよ。
そのあと起きてきたノーヴェ、半分寝てるダインを伴って、ご主人たちは出かけた。
自分で置いてくって決めたのに、間際になってむちゃくちゃ心配してくるご主人が引きずられるのを見送り、部屋に戻って鍵を掛ける。
さて、どうしよう。
身体は快調になったので何でもできるぞ。
何でも、と言っても俺が得意なのは掃除と洗濯である。それなら朝飯前よ。すでに飯は食ったから朝食後だが。
じゃ、洗濯から始めるか。
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