11話(別視点)権能
ダインは深く息を吸い、カウチに座り直した。そして『視た』ことがらについて話し始める。
「──まず、アイツは最初に部屋に入った時すぐに部屋の構造を確認してた」
「待って、普通は最初に人を見るものだろ?」
「ハルクから俺らのことは聞いてたんだろォ。とにかくまず部屋を確認した。それから俺らを見た」
「……続けてくれ」
「シュザを見てすぐ『リーダーだ』と気付いた。そンで多分シュザが騎士家出身なのも見抜いた。俺を見て『盾使い』だと判断してやがったし……ノーヴェのことは、まァいい。アキは『虎』だとよ。あァ、やっぱり粥が良かったみたいだぜェ」
「おいオレは!?オレを飛ばすな!」
ダインが『視た』ものとは。
ダインは『権能』と呼ばれる能力を有している。『権能』が発現すると、魔法でも再現が難しい高度な技能を使えるようになる。この国においてはかなり珍しい能力だった。
ダインの『権能』では、人の思考の表層や深い記憶を読み取ることができた。
もちろん様々な条件があり、読み取れないこともあるし、読み取った側に反動がある場合もある。能力を使わないでいることもできる。
アウルが現れた時点ですぐにダインは権能を発動させた。権能を知られていない相手からは読み取りやすいので、アウルの思考は初めからずっと読まれていた。
ところどころ齟齬はあるものの、おおむね『視られ』て筒抜けだったのだ。
しかしダインは、アウルがノーヴェのことを『白い人』やら『お母さん』と呼んでいたことは黙っておこうと思った。
「アイツ見た目はただの不貞腐れたガキだが、相当に頭がいいぜェ。分析力も判断力もあって、自分の立場と状況を正確に理解してやがらァ」
「……僕が質問をしていた時はどうだったんだい」
「嘘はついてなかったぜェ。ただ、商会の会頭は『粉』を使ってた可能性が高ェと推測してたなァ。デケェ商会立てた野郎がこんなあっさり身を持ち崩すのは『粉』のせいだろうと」
「そうだったのか」
「だが、冒険者の女の話は嫌がってた。捕まってねェのを不思議がって……そんで『粉』の流通のこと考えてたな」
「そんなこと考えてたんだ……」
「──だがなァ、何よりアイツは……俺が思考を読んでることに勘付きやがった」
「!」
シュザが珍しく驚いた顔でダインを見た。
「本当かい?そのことについてどう考えてた?」
「……ハァ。『楽できるから、どんどん読んでほしい』だとよ」
「ええ……?」
「大物だね……」
「随分とちぐはぐなのが気になるがなァ。表面上治っちゃいたが身体中酷い傷の跡があった。声が出せねェくらいの目に遭ってンのに妙に図太い。計算が出来るのに読み書きは出来ねェ。どこで仕入れたのか分からねぇ知識をもってやがる。あと、やたらと働きたがってる。普通奴隷や使用人ってのはサボりたがる奴が多いんだがなァ」
ひと息つく。ダインは普段の五倍ほどの文章量で話したので口が乾いていた。アキが気を利かせし水の入ったコップを手渡している。
「その上で俺の結論だが、アイツに問題はねェよ」
「……わかった。ありがとうダイン」
「まァこれからも、ちょくちょく見とくわ」
「よろしく。もしかしたら、すぐに頼むことになるかもしれない」
「……記憶を『視る』のは好きじゃねェ」
「あくまでもアウルが許可したら、だよ」
人の思考を読める反則技が使えるダインの意見は、このパーティーにおいてはかなり重要だった。こうして特殊な調査依頼を請け負っているのも、ダインありきと言える。
あまりいい思いをしてこなかった『権能』だが、アウルとの出会いがそれを変えることになるとは、この時誰も想像していなかった。
ともあれ多くの情報共有がなされ、ようやくこのパーティーは依頼を達成するべく動き始めることができたのだった。
「賢い子なら楽だね。ハルクいい買い物したじゃないか」
「だろ」
「だけどハルク、その金は貯めていたんじゃなかったのかい。どうしても行きたい場所があるんだろう?」
「……」
「忘れてたの?」
「忘れてねえ……どう言えばいいんだろうな、それを凌駕するほどの何かに駆り立てられたというか……俺が選んだんじゃなくて、選ばれたような気がしてならねえ」
「『巡り』かもしれないな」
「ちゃんとご主人様しろよォ。犬猫じゃねンだからよォ」
「わかってるよ」
「じゃあ、これからの動きを決めていこう」
こうして、本人が深く眠っている間にアウルについての意見交換がされたのだった。
***
次から主人公視点。
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