9話 質疑応答
「さて、少しだけ話を聞かせてくれるかな」
ホカホカになり、お腹が膨れて落ち着いたところで正面に座ったリーダーの人が切り出した。俺のとなりにはご主人が座っている。
俺は重くなる瞼を懸命にこじ開けながらうなずく。寝ちゃだめ。
食器を洗おうと思ったのに、素早く回収されてしまった。奴隷とは……。俺本当にここでやっていけるだろうか。
「君はカトレ商会で働いていたんだね?」
うなずく。名前初めて知ったけど多分そんなかんじだった。
そしてやっぱり声は出せない。いい人たちだと思うんだが、それとは関係なく何らかのトラウマか刷り込みがあるようだった。
ご主人とは二人きりにならないと会話ができないってことか。不便だ。
それからリーダーに「商会の護衛たちが『粉』を使用していたのは本当か?」とか『粉』を使用した状態や禁断症状についていろいろと確認された。
リーダーは俺が理解できるように易しい言い回しを選んでくれるし、はいかいいえで答えられるようにしてくれる。
すごくいい人だ。さすが騎士っぽいだけある。
「商会の会頭もその『粉』を使用していたかどうか、わかるかな」
首を横に振る。知らん。でも多分使ってたろうな。あれだけでかい商会作ったのに、こんなにあっさりと破滅したことからして、判断力が落ちていたんだろう。使ってた可能性はある。
「それで一応確認しなければならないことがあるんだが……君はその『粉』を使用したことはあるかな?無理やり使用させられた、なども含めて」
また首を横に振る。
あんな身の破滅しか招かないもの、金を積まれたってやりたくねえな。護衛たちは知識がなかったんだろう。
「リーダー、さっき話を聞いたんだが、そいつら『粉を買うのに月給金の半分もかかる』ってぼやいてたんだとよ。そんな金のかかるもんを奴隷に渡したりしないだろうぜ」
「それを確認したかったんだ」
「しっかし聞けば聞くほど終わってるな、その商会。そんなのでも、このサンサの街で一番大きかったんだよね?」
いつのまにか白い人──ノーヴェがリーダーの横に立って話に加わっていた。リーダーは暗めの金髪、ノーヴェは白に近い金髪なので視界がきらきらする。
「本当はどこから入荷してるのか知りたいんだけど」
「怪しいのはいたみたいだぞ。冒険者の女が出入りしていたんだと」
「ん?商会に冒険者が出入りするのは普通でしょ」
「こいつが働かされてたのは屋敷の中だぞ。店先じゃなくて住居側に来て護衛たちとやりとりしてたみたいだから怪しいだろうが」
「じゃあソイツが持ち込んでたって可能性があるんだね」
あの女の話になって甘ったるい匂いを思い出し、憂鬱になる。あいつ捕まってないのかな。率先して奴隷に暴行してたけど。
粉を吸うのってこの世界では罪にならないのだろうか。まだそこまで流通してないのか。
だからこその『調査』なのかもしれない。
「ノーヴェ、そう結論を急いてはいけない」
「わかってるよ……」
「嫌なことを思い出させて悪かったね、あとは君の主に聞いておくから、もう休むといい」
俺の役目が終わってしまった。
まだ外は明るのに休まなきゃだめだろうか。奴隷が主人より先に寝るのはおかしいと思う。
俺が脳内で駄々をこねていると、盾の人にひょいと椅子から持ち上げられた。そのまま小脇に抱えられ続き部屋に運ばれる。会話に加わってなかったのに、いつのまに背後に立っていた貴様。
俺はお世話されるより、したいのだが?
「おいコラ、ビチビチ暴れんな。寝ろ」
「!」
「まだ怪我が完治してねェ、休め。休んでるほうが早く治るンだよ」
正論にムスっとしてしまう。
ここは譲歩するか。
部屋の入り口で床に下ろされた俺は部屋の隅っこに向かい、そこでちっちゃく横になる。木の板だと冷えなくていいな。よく眠れそうだ。
盾の人は手のひらで顔を覆ってため息をついた。
「バァカ、こっちだ」
ぽいっとベッドに放られる。
は、ベッドで寝ていいの?奴隷ですけど。
うわ、やっぱりベッド柔らかっ。
「余ってんだから使えや。あとベッドでちゃんと休めば、明日からテメェの好きなだけ働けっからよ」
毛布をかけられる。胸のあたりを適当にトントンされた。
ずいぶんと雑で口の悪い寝かしつけだ。
でも俺、口に出して「働きたい」と言った覚えはないんだが。この盾、読心できるんじゃあるまいな?
そんなすごい能力もった人はそういないだろうけど、いたらガンガン使ってほしい、俺がものすごく楽できるじゃん。
「チッ……『眠れ』」
額を分厚い手のひらが覆い、頭がフワリと何かに包まれるような感覚がした。
これは魔力?
魔法で眠らせる気か。それは反則だと思う。
抗議する間もなく、そのまますとんと暗闇に落ちた。
***
次回より別視点。
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