1話 世界に嫌われている
転生、というか自我を得てからというもの、これでもかというほど底辺の日々を味わった。
奴隷つらい。
奴隷ってやっぱり最底辺なのかな。
俺の仕事は掃除と洗濯。
魔法があるらしいこの世界ではかなり楽な部類なのだが、転生したての俺にはその魔法の発動が難しかった。
おかげで、使用人たちにのろまだとか足手まといだとか散々罵られた。見かねた奴隷仲間がこっそり魔法の発動方法を教えてくれなかったら本当に足手まといになっていたことだろう。
まあ、罵られる分にはまだいい。
問題は暴力だ。
俺が働いているのは街で商会を営んでいる有力な大商人の屋敷らしいのだが、ここの護衛たちが最悪だった。
勤務の休憩時間にイライラすると奴隷たちに暴行する。そうでない時はたいてい、変な粉を吸ってハイになってる。粉の効果が切れてしばらく経つと禁断症状でイライラが始まり、まわりに当たり散らす。
世紀末かここは。
最悪だ。
どこから来たのか、甘ったるい匂いのする赤髪の女がいるときはいっそうひどかった。その女がいると、発散のための暴力が、より嗜虐的なものに変わった。いたぶって苦しむ様を楽しむタイプのやばい奴だった。
ちょっと人に話すのも憚られるようなことをいろいろされた。俺は特に小さくて弱かったからよくターゲットにされた。
たしか、冒険者だとか言ってたが。
楽しそうな職業名だが、こんなヤバ人間ばかりじゃないことを願う。
飯は一日二食、いろんな残り野菜を適当に煮詰めたようなスープ(ごくたまに稀に時々肉の切れ端が入っていてうれしい)、それを乾燥したパンに吸わせて食べる。
間が悪いと、食後に護衛たちの機嫌激悪タイムと重なって、食べたものを戻してしまうこともある。もったいない。
寝る場所は半地下のような薄暗い部屋に奴隷たちが押し込められて雑魚寝だ。石造りなので冷たい。
奴隷同士はあまり交流はない。みな自分を守るので精一杯だった。薄い毛布に包まって、とにかく少しでも身体を休めている。
商会の会頭の屋敷、らしいのだが偉い人のお屋敷のように広いので仕事はいっぱいある。儲かってるんだろうな。
儲かってるならもうちょっと、こう、待遇なんとかしろよ。
奴隷には契約魔法が掛けられていて、逆らったり自死したりといった契約主に不利益をもたらす行為ができないようになっている。
外部の誰かに窮状を訴えることも『不利益』とみなされるようで、打つ手なしだった。
何度か死のうとしたが、できなかった。
絶望した。
さらに悪いことに、何故か俺は声を出すこともできない。他の奴隷は話せるのでこれは俺だけらしい。
これは契約とは関係ないかもしれない。
この身体で受けたトラウマのようなもので声が出せなくなったんだろう、と思ってる。 何されたんだか、覚えてないけど知りたくもないな。
起きて、仕事をして、戯れに殴られ。
運が良ければ何もされずに冷たい石の上で眠る。
死んで楽になることもできず。
声を上げることもできず。
そんな日々で、俺は段々と自分の存在が霞んでフェードアウトしていくような気がした。
異世界に来たというのに、このままだと何も感じない人形になってしまうんじゃないか。
そうなったら楽でいいな。
楽になりたい。
転機が訪れたのは、自我が芽生えてから一ヶ月ほど経った時のことだった。
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