奴隷くんのハッピ〜異世界ライフ 国際法が俺の味方なので安心して奴隷満喫します

ザック・リ

1章

0話 プロローグ




 何かが砕ける音がした。

 


 目が覚めたら、そこは地獄だった。




…………


 俺は日本で普通の会社員をしていた。


 はずだった。


 特に死んだという記憶はないのだが、気がつくと別の身体になっていた。


 具体的に言うと、傷だらけで弱々しく腹をすかせた少年の身体になっていた。


 7歳くらいだろうか。

 身体中が痛い。


 ここ、どこ。



「おい、生きてるぞ」

「殺したら面倒なんだから気をつけろ」

「悪い悪い、加減をまちがえた」


 顔を上げると、埃っぽくて薄暗い場所にいるのがわかった。


 まわりを大人たちに囲まれている。逆光で顔はよく見えないが、嫌な雰囲気だ。



「おら、この程度で死ぬなよ」


 身体が勝手に身構える。靴のつま先でツンツンされる。


 痛い。痛い。それに寒い。怖い。


 いきなりわけの分からない場所に来て混乱している上に、経験したことのないようなドス黒い悪意をぶつけられて、震えることしかできない。


 なんで、こんな事になってるんだ。


 混乱する頭で、必死に状況を把握しようとした。


 ええと、気が付いたら少年の身体になっていて知らない場所で知らない男たちに殴られている。


 ダメだ。理解したくない。


 この身体の元の持ち主は、こいつらに暴行を受けて心が壊れてしまったんだろうか。


 砕ける音がしたのは、魂的な何かが壊れた音かもしれなかった。前世の記憶に目覚めたというかんじがしないから、入れ替わったんだと思う。


 今この瞬間より前のことは一切思い出せない。

 名前すらわからない。


 それでも身体の方には痛いことをされた記憶が残ってるみたいだ。俺自身の意思とは関係なく、ぐっと力が入りこわばっている。


 大人がどうして無力な子供を囲んでいたぶってるんだろう。


 囲む男たちの見慣れない服装からして、ここは日本ではないらしい。現代の服でもない。地球上にこんな服があったかどうかも怪しい。


 違う世界か。

 転移……生まれ変わり、いや入れ替わりか。


 そうはならんだろ、と思うのだが。

 なってるからなあ。


 いきなりこれって、あんまりじゃないだろうか。もっと優しいものではないのか?


 聞こえてくる言語は日本語ではなかったが、理解できた。


 この身体に入ったおかげかもしれない。

 この身体に入ったおかげでこんな目に遭ってるのだけど。


 何か話そうと口を開くが、身体が震えて声は出せなかった。



「この屋敷は奴隷がたくさんいていいよな」

「なにやっても許されるしなあ」

「おい、それ外では絶対言うなよ」

「わかってるって……この国はやりづらい」

「そろそろアレの入荷じゃねえか?」

「やっとかよ」


 だらだらと喋りながら男たちは去っていった。

 ふっと力が抜ける。


 いや、待て。

 聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたのだが。


 屋敷……ここは誰かの家なのか。


 そして奴隷。


 奴隷?

 

 俺が奴隷だって?


 それは……あの奴隷だろうか。人権も何もなく使役されるという、あの。


 目覚めて見知らぬ場所に来ていきなりそれはちょっと、ハードというか、地獄のヘルモードじゃないのかな。


 身体中がいたい。腹が減っている気がするが、よく分からない。これが絶望なのかもしれない。知りたくなかった。


 夢だった良かったのだが、覚める気配はなかった。現実だ。


 つらい。



 こうして、俺のどん底な異世界奴隷ライフが唐突に、そして容赦なく始まったのだった。



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