2話 世界が味方してる




 転機。


 ある日、商会が一斉検挙された。


 理由は『奴隷への暴行、虐待、殺人容疑』である。


 なんと、この世界では奴隷を痛めつけることは違法だったのだ。


 屋敷の中しか知らない俺からすれば寝耳に水、マジかよという気分である。


 絶対嘘だろ。

 ぜんぜんそんな気配なかったけど。

 堂々とボコボコにされてたけど。

 それより違法な粉みたいなの常用してたけど、あれはいいのか?絶対アウトだろ。というか殺人容疑まであったの知らなかった。一歩間違えていたら、俺も殺されてたかも。怖い。


 何はともあれ、地獄から蜘蛛の糸を辿るようにして助け出されたのだ。


 

 保護された先の奴隷商でいろいろ聞かされた結果、あの屋敷内が異常だったということがわかった。


 急に世界が広がる。

 あそこが世界の全てだという気がしていたのに、あんなにもちっぽけな世界で藻搔いていたなんて。俺はやるせない気持ちになった。


 奴隷スタートだから最悪なんだと思い込んでいたが、それはあの屋敷がイレギュラーなだけであり、本来奴隷は人材としてわりと大事にされるそうだ。


 目付きの悪い奴隷商の主人が「まったくありえん……貴重な人材を使い潰すなど……これだからあの国の人間は好かん」などとぶつぶつ言いながら俺たちを引き取って契約を書き換えたり治癒師を呼んだりと、いろんな世話をしてくれた。


 どうも国際法のようなもので奴隷の扱いは決められているようなのだが、それに批准していない国があるらしい。


 俺がいた商会の主人や使用人や護衛たちはその国の出身だったようだ。主人にほとんど会ったことないけど。


 たまたまこの街に来ていた監査の役人にバレて、商会の主人や護衛たちはしょっ引かれていった。彼らが今後どうなるのかは分からない。

 おそらく極刑かな、と思う。余罪が多いし。


 初っ端から大いなるハズレを引いた俺だが、まあ助かったのでよし。


 これからの人生は希望に満ちていることだろう。あの場所に比べたら何だって乗り越えられる。


 俺の処遇だが、孤児院に行くだの行かないだの、ややこしいことになって結局この奴隷商で売られることになった。

 奴隷商の主人は乗り気ではなかったが。


 まず、簡易な鑑定で俺の年齢が9歳であることが判明した。6歳か7歳だと思っていたが栄養が足りてなかったのか。


 子供の奴隷というのはあまりよく思われないらしいが、国際法とやらでは9歳から奴隷になれるようだ。条件はいろいろあるが、ギリいける年齢だった。


 何より、俺が自分で希望したのだ。外見的な年齢はともかく頭脳は大人である。名探偵になりたいわけではないが、孤児院で閉鎖的な暮らしをするのは耐えられそうになかった。働きたい。


 それに、あの屋敷よりひどい環境はそうそう無いだろう。

 殴られなくて、ご飯が食べられて、無理のない仕事が出来る。そんなの天国じゃん。


 その上、国際法が味方なのだ。


 世界が俺の味方をしていると言ってもいい。


 奴隷を続ける以外の選択肢はないだろ。

 ぜひとも安楽でハッピーな奴隷ライフを楽しみたいものです。


 そう考えているのは俺だけじゃなかった。


 あの世紀末を乗り切った奴隷仲間たちも、やる気に満ち満ちていた。


 そりゃあもう、あそこを経験したあとでは世界すべてが楽園に見えるから。やる気も満ちるというものである。


 領主の要請で奴隷たちをほとんどタダみたいな安値で引き取った奴隷商人も漲っていた。

 稼ぎ時だからな。



 うーん、これは俺が売れ残るかもしれん。


 子供は労働力としては弱い。

 あと俺、声出せないし。

 読み書きもできない。


 ……条件ダメすぎでは。

 

 先が思いやられる。


 


 そんな心配をしていたが、俺は奴隷仲間の中で二番目に売れた。


 マジか。


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