パート5 不満と好意
#37 彼女のお母さん
お昼を軽めに済ませてからタクシーの手配をして出かける準備を済ませる。 帰宅しているとは言え、駅から直接向かった
10分程でタクシーが来たので、今度はしっかり施錠を確認してからミキと部屋を出た。
ミキの自宅までは、車で20分程。
ミキの家には上がるつもりは無いが、親御さんへ挨拶と謝罪をする為に自宅まで送って行くことにした。
ミキのお母さんとは面識はあるけど、やはり緊張する。
なので、車中ではどうしても口数が減ってしまう。
「ヒロくん、緊張してる?」
「うん。緊張してる」
「大丈夫だよ?ウチ、全然厳しくないし」
「そうは言っても、俺、ミキほど肝座ってないから」
「私だってヒロくんのご両親に会う時、緊張したよ!」
「そうなの?全然そうは見えなかったけど」
「もう!」
ミキとお喋りしていると、緊張も解れて来る。
きっとミキなりに気を使ってくれてるお陰だろう。
ミキの自宅に到着すると、タクシーにはそのまま待ってて貰う様に伝え、一旦俺も降りてトランクからミキのバッグやお土産を降ろす。
お土産はミキに持って貰い、俺はバッグを持ったままミキのあとに続いて玄関まで入ると、玄関からミキが「ただいま~! ママ居る~?」とお母さんを呼んでくれた。
奥からスリッパをパタパタさせてお母さんが出て来た。
「おかえりなさい! 体調大丈夫?」
「うん、もうすっかり平気だよ! それでヒロくんが挨拶に寄ってくれたの」
「ご無沙汰してます。 帰るのが遅くなってしまって、すみませんでした」
「いえいえ!ミキの方こそご迷惑かけちゃって、ごめんなさいね」
「とんでもないです!僕が付いていながら無理させちゃったばかりに」
「あ!こんな所でごめんなさい!ヒロくんも上がって上がって!」
お母さんも俺のこと「ヒロくん」って呼んでるぞ?
そんなに親しく呼ばれているとは、知らなかった。
「いえ!表にタクシー待たせてるんで、僕はこれで失礼します!」
「あら、タクシーで来てたのね。ならちょっと待ってて頂戴、お母さんが支払い済ませて来るから。 帰りは車で送ってあげるからね、上がって頂戴ね」
「いえいえ!ホントこれ以上ご迷惑は!」
長居するつもりは全く無かったのでお母さんの強引さに困惑してしまい、ミキに助けを求めるように視線を向けるがニコニコして「少し上がって行きなよ」と言い出した。
もうこうなってはこれ以上固辞しても失礼になってしまうと諦め、「では、タクシー代は自分で払いますんで」と言ってタクシーに戻り支払いを済ませようとするも、結局お母さんが横から強引に支払ってしまった。
リビングに通されるとミキがソファーに腰掛けたので、俺もその右隣に腰掛ける。
バイト終わりに毎回ミキを自宅まで送っているので毎日のように来ていたが、家に上がるのは初めてでは無いけど数えるほどしか無い。
自分の家と違う匂いがして、再び緊張し始める。
お母さんはお茶の準備にでもしにキッチンへ行ってしまうが、ミキがキッチンのお母さんに向かって「パパは出掛けちゃったの?」と大きな声で質問すると、キッチンからひょっこり顔を出して「パパは釣り!ヒロくん来るの知ってたら今日くらいは引き留めたんだけどね!」と教えてくれた。
お父さんが不在と知り、ちょっと安堵した。
お母さんでも緊張してるのに、そこにまだ会ったことのないお父さんが加わったら冷静な応対が出来る自信は無い。
まだ大学生の自分には、恋人の父親は恐怖の対象だ。
紅茶の香りがしてくると直ぐにお母さんがティーセットをお盆に乗せてやって来た。
お母さんも対面に座るとミキは少し興奮気味にお喋りを始めるが、隣に座る俺の膝に手を乗せていた。
スキンシップは無意識なんだろうけど、時折「海が遠くまで見えてすっごい綺麗なんだよね!」と俺に同意を求めるので、「うん、そうだね」と答え、「でね!海も綺麗だけど川がもっと綺麗でね!ヒロくんちから歩いて行けるとこなんだけど―――」と、こんな感じでミキは興奮気味にお喋りを続ける。
ミキとお母さんとで旅行での話題が続き、盛り上がる親子の雑談に俺はただ愛想笑いで相槌を打つだけの時間が続いた。
30分もすると漸くミキも落ち着いてきたので、そろそろお
別に後ろめたい話では無いのだけど、大っぴらに言いふらされるのは勘弁して欲しかったし、特にミキの家族には言わないで欲しかった。
こういうのは、就職して経済的な面をクリアーしてから正式に言うべきだと考えていたので、ただの大学生が言ったところで『無責任だ』と思われるだろうと考えていたところでのミキの暴露だった。
「あら!そうなの!?よかったわねぇミキ」
「うん!お料理勉強した甲斐があったよ!」
そう言って胸を張って偉そうなポーズを取るミキ。
「いえ、その、まだ正式な婚約とかそんなんじゃなくてですね…、その前に就職とかあるし…」
「でも結婚はしたいって言ってくれたでしょ?」
「それは言ったけど、何もお母さんにバラさなくても…」
「あらいいじゃない!お母さんは嬉しいわよ? ミキちゃん、ず~っとヒロくんにべったりだったものね?」
流石ミキのお母さんとも言うべきか、こういう恋愛だとか結婚だとかに前のめりな感じが親子で似ている。
お母さんが俺の事を『ヒロくん』と呼んでることから、普段から親子で俺のことを話題にすることが多いのだろう。
だから、結婚のことを聞いてもすんなり受け入れて喜んでくれたのだろうとは想像できるが、だからと言って、お母さんから直接結婚のことを聞かれるのは俺の方がキツイので、さっさと退散することに。
最後に「お休みのところお邪魔しましてすみませんでした。お父さんにもよろしくお伝えください」とお母さんに挨拶してからミキの運転する車でヒトミのマンションまで送って貰った。
車中では色々と小言を言いたかったけど、ミキも俺と同じく車の運転には不慣れで、下手に注意を逸らして事故でも起こしたら大変なので、グッと我慢した。
到着すると、ミキには送ってくれたお礼とくれぐれも安全運転で帰ること伝えて、その場で見送ってから自転車を回収して自宅に戻り、ベッドに倒れ込むように寝転んだ。
ミキの自宅に滞在したのは、時間にして40分ほどだっただろうか。
何とか無事に『ミキの親御さんに挨拶と謝罪』ミッションを終えることが出来たが、ドッと疲れが出て来た。
この程度で動揺している俺が、将来本当に婚約した時に正式なご挨拶なんて出来るのだろうか。
マジで不安だ。
そんな不安を抱えつつ夕方バイトへ行くと、開口一番「パパにも結婚の話したら『まだ早すぎる!』って怒りだしちゃって喧嘩しちゃった」とミキが言い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます