#16 例えるなら
ヒトミにも泊まって行くよう提案するミキに対して、俺とヒトミは不服な態度を見せたが、結局ミキの強引さにヒトミが折れて、今夜はヒトミも泊まって行くことになった。
兄妹仲が修復しているとは言え、同じ部屋で寝泊まりするのには抵抗がある。
幼稚園の頃とかなら一緒の布団で寝たりお風呂にも一緒に入ったことくらいはあるが、流石にお互いこの歳になると、気不味いし寝相を見られたりするのにも抵抗があった。
「そうと決まれば、お風呂に入っちゃおっか。 私とヒロくんは後で良いからヒトミちゃん、先に入っちゃって。着替えはヒロくんので良いよね?用意して持ってくからヒトミちゃんは湯船にお湯出しといてくれる?」
「はぁ、分かりました…」
ヒトミが泊まって行くことを渋々了承すると、ミキのテンションは些か回復して、再び仕切り出した。
流石、元バレー部キャプテンだ。
ミキはクローゼットから俺のパーカー、ハーフパンツ、新品の肌着とトランクスを取り出すと、それを持って脱衣所に行き、お風呂場にいるヒトミにアレコレ話しかけていた。
覗き見する気など微塵も無いが、プライベートスペースであるお風呂場で自分の彼女と妹がどんな会話をしているか気になり、どうにも落ち着かなくて、キッチンの冷蔵庫に残りのシュークリームを仕舞うついでに、その場に留まって二人のやり取りに聞き耳を立てていた。
「着替えは置いておくからね。肌着と下着は男性用だけど新品だから安心してね。それと、シャンプーとコンディショナーは、私の使えば良いからね。ドレか分かる?」
「はい、大丈夫です」
お泊り歴ではミキのがベテランの先輩なので、手際が良いな。
「私も一緒に入って女子トークしたかったけど、流石に今日初めて会ったのにソレは嫌だよね?」
「はい…、遠慮して頂けると助かります」
恐らく、ミキなりのジョークなんだろうけど、ヒトミは真面目に答えている。
「じゃあごゆっくり!」
ミキが脱衣所から出て来たので、俺も部屋に戻り、二人で並んでベッドに腰掛ける。
ヒトミが泊まるということは、今夜はエッチは無しであり、イチャイチャ出来るのはヒトミがお風呂に居る今しかない。
ミキもそれが分って居るのか、俺が何も言わなくても俺の首に両手を回して、キスをした。
濃厚なキスの後、唇を離すと、しんみりした様子で「ヒロくんにストーカーかぁ」と零した。
「全く心当たりが無いから、あんまり実感ないんだけどね。 それに、まだ悪戯や嫌がらせの線も無くなった訳じゃないし」
「ヒロくんは、怖くないの?」
「うーん、怖いと言うよりも、気味が悪い? 冷静に考えてみれば、物盗まれただけで身の危険までは感じて無いし、相手が女性なら取っ組み合いになっても負ける気しないし」
「そっか…。 それにしても、ヒトミちゃんは凄いね。流石C大生!って感じ。頭の回転早くてしっかりしてるし、それに肝が据わってた」
「うん。ヒトミが居てくれてホント助かった。頭良いのは昔から分かってたけど、あんなに分析能力が高いとは思わなかったよ」
「私だと、ヒロくんの足引っ張るだけで、なんにも役に立てなかったよ…」
「いやいやいや、何言ってるんだよ! 俺、ミキのことめっちゃ頼りにしてるじゃん!ご飯作ってくれるのも超ありがたいし、こうやって隣に居てくれるだけでもスゲー安心出来て癒されてるし、居てくれないと、俺困るよ」
「うん…」
「それに、ミキがヒトミを呼んでくれた訳だし、ミキが居なかったら状況把握がここまで進まなかったハズだよ?」
「そうかな?」
「おう! アレだね、名探偵コナンに例えると、ヒトミはコナンじゃん? ミキは蘭だね」
「ヒロくんは誰になるの?」
「服部平次?」
「いや毛利小五郎でしょ?」
「ヒゲのオジサンじゃん!ヒデェ…」
「うふふふ」
ようやくミキが笑顔を見せてくれたので、今度は俺の方から抱き寄せて、軽いキスをした。
◇
お風呂からヒトミが戻ると次にミキが入ったので、ヒトミと二人きりになった。
お風呂上りのヒトミに冷たいお茶を手渡すと、キッチンテーブルのイスに腰掛けたので俺も対面に座る。
「今日はいきなり呼び出したり無理言って泊まって貰ったりして、悪かったな。 でも、凄く助かったよ」
「ううん。実家を離れてても私たち家族だもん。お互い助け合わないとね」
「なんか一方的に俺の方が助けられてばかりになっちゃったけどね。兄貴なのに情けないな」
「そうでも無いよ? 兄ちゃんが近くに住んでるから私も安心してコッチで一人暮らし出来るんだし、それにこれからは何かあれば私の方からも助けて貰うつもりだし」
「そう言って貰えると、気が楽になるよ。 それにしても、ヒトミの推理は凄かったな。窓の施錠の話とか、一人で考えてたら絶対に辿り着けなかったよ。 ミキも「流石C大!」ってめっちゃ感心してたね」
「だって、疑われてたのが気に入らなかったし、何が何でも真犯人見つけてやる!って思ったし」
「それはマジでゴメン。 でも、疑わざるを得ない状況だったんだよ」
「うん、それは何度も聞いたから分かってるよ。 そんなことより、ミキさんなんだけど」
「うん?」
「いい人だね。 面倒見が良くて、料理上手で、綺麗でスタイル良くて美人で、なのに気さくでお喋りしてても面白いし。 それに、兄ちゃんの事、滅茶苦茶好きみたいだし」
「お、おう」
「大事にしないとね」
「大丈夫。滅茶苦茶大事にしてるから」
自分で言ってから、「妹の前で、俺は何を言ってるんだ?」と超恥ずかしくなり、顔が熱くなるのが分った。
「兄ちゃん。 顔真っ赤だよ」
「五月蠅いよ。 だから家族と恋愛トークするのは苦手なんだよ!」
「うふふ。 あ、そうだ。ミキさんってD大だって言ってたよね?」
「うん。高校からのエスカレーターでD大に入学したんだって。誰か知り合いでも居るの?」
「うーん、知り合いというか何と言うか…。 今から話す事は、推理とかじゃなくて完全に私が勝手に妄想してるだけの話なんだけど」
「うん」
「ミドリちゃんもD大なんだよね」
「むむ、またミドリ?」
「うん。 もしさ、ミドリちゃんが、この辺の近所とかでたまたま兄ちゃんを見かけたとするじゃん? それで後つけて自宅突き止めて、忍び込もうとしたりすることもありうるのかな?とか考えちゃって」
「うーん…、流石にそれは無いと思いたいんだけど。 それにあの子も俺には興味無いだろ。むしろ俺とは顔なんて会わせたくないんじゃないのか?」
「もしかして、兄ちゃん、ミドリちゃんが別れた理由知ってるの?」
「まぁね。 俺もバカじゃないし、それに周りからの情報とかもあったしね。 っていうか、ヒトミも知ってたのか?もしかして、この間言ってた『ビンタして喧嘩別れ』って、それが原因?」
「そーゆーことになるかな。 だってムカつくじゃん?散々引っ掻き回して私や兄ちゃんの仲拗れる原因作っておいて、最後は悲劇のヒロインぶって別れたと思ったら、実は二股してましたって、本当はビンタじゃなくてグーで殴りたかったくらいだし」
「まぁしょうがないよ。俺も付き合ってた時から地元離れる気満々で、あのまま付き合ってても遠距離になるのが決まってたもんだし、俺に甲斐性がなかったんだろ」
「あの頃はまだ遠距離恋愛にもなってなかったんだし、二股の理由にはならないよ。しかも、結局は自分もコッチの大学進学してる訳だし」
「まぁぶっちゃけ、ミドリと別れた時は少しは落ち込んでしばらくは倦怠感を感じてた様に思うけど、こっちに来てからは全然引き摺ってないんだよね」
「兄ちゃんがそう言うのなら良いんだけど。 でも、一応は今の様子を調べてみようかと思うんだけど、ミキさんに相談してもいい? 兄ちゃんの元カノだって言うのも話すことになるけど」
「げ、そういうことになるのか。 でもまぁ、別に良いかな。 俺の方は何も悪いことしてないし、ミキに知られたくない様な黒い話も無いし。 ただ超恥ずかしいから、生々しいのは止めてね?」
「うん、わかった」
「しかし、ヒトミはマジでコナンくんだな」
「コナンくん?」
「うん。さっきミキと話してたんだけど、ヒトミがコナンくんで、ミキは蘭ちゃんだなって」
「兄ちゃんは?」
「服部平次」
「いや毛利小五郎でしょ」
「お前もかよ!」
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