第31話 位牌
まだ受け止めきれない内に、お爺ちゃんは小さな箱に収まった。
また日を改めて、お婆ちゃんの眠る墓に収めることになる。
その時には、月楽寺父の腰痛も多少は良くなっているのかな?
それだと、このいい加減な月楽寺息子に頼らなくてよくなって助かる。
宗教的なことなんて、サッパリ分からないから、本当に困るのだ。
まあ、こういうものは、それなりなら良いのかもしれないけれど。
それぞれの信じる方法で、心を込めてさえいれば、きっと亡くなった人にその気持ちは伝わるはずだ。
「俺、この後ライブなんだよね! 本当、超ハード!!」
あ、一度聞きにくる?
……じゃないよ!!
月楽寺息子よ。お前はいい加減すぎるだろう!!
大丈夫だよね? お爺ちゃん、ちゃんと天国行けたよね???
一抹の不安を覚えながらも、私とお母さんは、お爺ちゃんを連れて家に戻ってきた。
お爺ちゃんの部屋、お婆ちゃんの仏壇の前にお爺ちゃんの遺骨を置く。
引き出しから線香を取り出して煙を焚けば、独特の香りが部屋に広がる。
ネットで調べれば、この香り、昨今では、甘いキャンディーの香りの商品もあるらしい。甘党の方が亡くなった時に、良いそうだが……良いな。これ。お爺ちゃん、甘いもの嫌いではなかったし、部屋に広がるならば、この線香独特の匂いよりもキャンディーの匂いの方が良さそうだ。狭い部屋だから服に匂いがつくことも考えられる。
これから、お墓にお爺ちゃんが入るまで、毎日線香は焚かねばならない。
ロウソクは、火災のことも考えて電球の物を買ったが、線香は、どうしようも無かった。
お爺ちゃんの戒名が書かれた札を、位牌の黒いケースの一番前に差し込む。
お爺ちゃんの位牌の後ろには、お婆ちゃんの戒名……あれ、その後ろの木札。お爺ちゃんの手作りじゃない? 何だか色が違う。
取り出してみれば、お爺ちゃんの手書きの文字が書かれている。
戒名ではない。
「佐和」
それだけ書かれた木の板。
ああ、これ……禄朗伯父さんのお母さんの名前だ。
お爺ちゃん……愛していたんだ。佐和さんのこと。
禄朗さんに会うことも許されず、佐和さんのお母さんにも嫌われて、それでも密かに佐和さんの亡くなった後も、忘れずに想っていたんだ。
この位牌に手を合わせているお爺ちゃんの心を思うと、少し切なくなる。
大好きだったんだろうな……。
佐和さんの亡くなった後、どんなドラマがあってお婆ちゃんと出会ったのかは知らないが、お爺ちゃんなりのドラマがあったんだろう。
……
……
あれ? 待って。
……
……
ということは、この位牌、前妻と、後妻の両方の名前が入っているってこと?
それってとてもややこしくない?
修羅場位牌……。
天国では、どんな風になっているのだろうか?
「自分でなんとかしなさいよ。お爺ちゃん」
そう位牌に話しかけて、私は仏壇に位牌を返す。
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