第28話 火葬場へ

 お母さんがお爺ちゃんの棺を乗せた車の助手席に乗り、月楽寺息子がタクシーで火葬場に向かう。

 私もタクシーを呼びたかったのだが、田舎のことで、一台しか予約できなかった。

 それで、野々宮君の運転する車の助手席に乗せてもらう。


 火葬場は、街から少し離れた場所にある。

 まあ……そうだろうね。住宅街には建て難いだろう。

 お墓が隣の家に

 お隣が火葬場という家は、あまり聞いたことがない。


 棺を乗せる時に涙でボロボロになったお母さんの傍に寄り添ってあげたいが、助手席に遺影を持って乗れるのは一人だし、あの状態のお母さんに運転させるわけにはいかない。


「ありがとうね。こんな事までしてもらって」


 野々宮君にお礼を言えば、「いや……別に」と、野々宮君がつぶやく。


「覚えているか? 小学生の時のこと」

「ちょっとだけなら」


 ふうん。野々宮君が、黙ってしまう。

 会話が続かない。

 嘘でも、はっきり覚えているって言った方がよかったかな。


 外の風景は、畑。

 ここを越えて、ちょっとした山みたいな場所に行けば、火葬場に着く。

 特に何も面白くない風景。

 会話の足しにはなりそうにない。


 人生で誰しもに必要になるはずの施設であろう火葬場。

 だが、死と直結するその施設に対する世間の視線は厳しそうだ。


 まあ、人を焼いているであろう煙で洗濯物をいぶされるのは、ちょっと遠慮したいし、住居地から離す気持ちは分からなくもない。


「土葬の地域もあるんだぜ」

「え、今だに?」


 なんとか会話をつなごうとしている野々宮君選んだのは、埋葬の話。

 久しぶりに会った同級生の会話として適格かどうかは、とっても謎。


「参列者が、三角の布を額につけて、土葬するご遺体の後ろに列をなすんだ」


 えっと、あのお化けの絵に描く三角の布って、亡くなった人本人だけがつける物ではなかったのね。


「それに、草鞋を履く」

「わらじ……」

「そう。その草鞋は、亡くなった人と一緒に置いてくる。だから、靴をそれぞれ持って行くんだ」


 不思議な風習。

 ここも相当な田舎で変わっているとは思うが、まだまだ各地にはその地方独特の風習が残っている。


 各地の変わった風習を野々宮君はつらつらと話す。

 沈黙が辛かったから助かる。

 たとえその内容が、各地の葬儀にまつわるあれこれなんて、マニアな内容であったとしても。野々宮君がなんとか話をつなげようと気を使ってくれるのは、わかる。


「……火葬場、辛いかもしれない。でも、ちゃんと傍にいるから」

「うん。ありがとう」


 着いたのは、思ったよりも小綺麗な施設。

 ガラス張りのロビー。真っ白な壁。

 外の花壇には、季節の花々が咲きそろっている。


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