第27話 腰
えっと……ナニコレ?
私の目の前に広がる光景は、フルフルと震えながら倒れる月楽寺父。それを支える月楽寺息子。
「あと少し! あと少しなんじゃ~!!!」
「お、親父!!」
告別式そっちのけでバタバタと走り回るスタッフ。
「きゅ、救急車をよべ!!」
野々宮君が月楽寺息子と一緒に月楽寺父を支えながら叫んでいる。
周囲の弔問客は、何をどうしたら良いのか分からずにオロオロとしている。
「何? お母さん、どうしたの?」
「それがね、月楽寺さんの腰が急に痛みだしちゃって」
テンションアゲアゲでお経を詠んでいたが、腰……痛みだしちゃったんだ。
告別式でお経をあげるという重要な役割を果たす僧侶が倒れれば、それは告別式どころではなくなるだろう。
優秀な救急車は、すぐに来てくれる。
月楽寺父は法衣のまま担架に乗せられる。
「む、無念じゃ!!」
「親父!! 後は任せろ!!」
「頼んだぞ~!!!!」
感動的? な場面を残して、月楽寺父は、救急車に乗って行ってしまった。
救急車のサイレンの音が虚しく響き遠くなっていく。
えっと、弔問客のこの状況から考えて、御焼香はあらかた終わっていたのよね?
次はなんだっけ?
「皆様、これから出棺の準備をいたします。導師様と親族の方は、火葬場まで故人とご一緒に。お見送り下さる方は、会館の入り口でお待ちください」
野々宮君が、慣れた様子で館内にアナウンスする。
アナウンスに促されて、弔問客がぞろぞろと入り口へ移動する。
「ほら、爺ちゃんの顔を見とけ。もう見る機会、ないぞ」
野々宮君の言葉に、私はお爺ちゃんのお棺の方へと足を向ける。
本当にもうお別れなのだ。
お爺ちゃんはこれから火葬場に行って焼いてもらって灰になるんだ。
私の目に自然と涙が浮かぶ。
お爺ちゃんと過ごした何気ない日々が、頭の中でグルグル回る。
「舞は頑張り屋さんだからな。ちょっと肩の力抜けや」なんて言って笑うお爺ちゃん。お風呂から聞こえるお爺ちゃんの上機嫌な鼻歌。西瓜が大好きで夏には冷蔵庫をすいかだらけにしてお母さんに叱られていたっけ……。
お爺ちゃん……。
だめだ。涙でお爺ちゃんの顔が見れないかも……。
「なあ、俺これから何すんの?」
「えっとですね……」
なんで月楽寺息子は、野々宮君に今、段取りを聞いているの??
ちょっとこの先が心配でならないのだけれど?
「いや~。通夜は一人でやったことあるけれど、告別式は親父と一緒にしかやったっことないんだよね。たいていライブに行くから途中で抜けていたし」
そう言ってカラカラと笑う月楽寺息子。
て、てめえ!! どういうことだ。
笑いごとではないぞ!! 今から火葬場という大事な場面じゃない?
お爺ちゃん!! がんばろう!! きっと天国にちゃんと見送るからね!!
お爺ちゃんとの最期の別れなのに、涙は引っ込んでしまった。
……私が泣いていると、オロオロと困った顔をしたお爺ちゃんだったから。その方が良かったのかもしれないが……。
会場を飾っていた花でお爺ちゃんのお棺を埋めて。スタッフの人がお棺の蓋を閉めて。それでお爺ちゃんは火葬場へと向かう霊柩車に乗せられた。
ちょっとおぼつかない、月楽寺息子のお経をBGMにして。
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