第25話 告別式はビートにのせて

 月楽寺息子の木魚が、本日も軽快にビートを刻む。

 その音に合わせて、月楽寺父の読経が始まる。


 読経の合間に、月楽寺息子が、声を合わせて合いの手? を入れる。

 完璧に息の合ったセッションだ。


 GATURAKUJIのライブ……ではなく、お爺ちゃんの告別式は、順調に進む。

 お経ってこんなだっけ? と思わずにはいられない、ノリッノリの軽快なビートを刻む木魚に合わせて、野々宮君が弔電を紹介してくれる。お母さんが、弔問客に挨拶する。弔問客は、お爺ちゃんにお焼香をあげる。


 弔問客も我々迎えうつ側も小粋なビートについテンポ良く体が動いて、式の進行は思った以上にスムーズだ。


 やるな! 月楽寺!


 ではない。告別式なんだからさ、もっとほら、しめやかに! 涙を誘おうよ!

 ほら、高齢の町内会長が、ビートに合わせて動き過ぎてあたふたしたいるし!


 まぁ、お爺ちゃんは、悲しいことが嫌いな人だったから。きっと、今の状況に怒ってはいないだろうけど……。

 

 式場を横目に、私は受付で弔問客に記帳を促す。

 慣れぬ筆ペンに、字が震える人多数。

 

 これ、どうして筆ペンなんだろうね。

 ボールペンにした方がら皆さんも書きやすいと思うのだけど。

 それに読む方だって、筆ペンの文字よりも、ボールペンの文字の方が読み取りやすい。それとも、完全デジタル化にして、QRコードで情報のやり取りして、登録してもらうとか? それだと、後で連絡を取るのも楽じゃない?


 だって、ほら! もう!


 慣れた手つきの弔問客は、ツラツラとご芳名帳に文字をしたためる。

 

 ーー崩し文字


 人に読ませる気はあるのかと問いただしたいほど読めない。美文字なのだろうけれども、知識のない者を真っ向から威嚇する草書体。後できっと苦労する。


「えっと……シノウエ様? ですか?」

「いいえ。しのはらです」


 恥を忍んで聞いて良かった。

 やっぱり違ってた。一体どこが「は」でどこが「ら」なのか。

 シノハラさんが受付を去った後、こっそり横に「シノハラ」と書いておいた。


 式は、順調だ。

 昨日の混乱が嘘みたい。

 

 私も野々宮君に変わってもらって焼香の列に並ぶ。

 本来は、遺族は一番最初に焼香するものらしいのだが、本日は本当に人手がない。

 それもこれもお金がないからなのだが。


 野々宮君は、そこまでしなくて良いと言ってくれたが、元同級生に甘えっぱなしはやはり良くない。できることは、きちんとやりたい。


 だから、私は、一般客の列が空いたタイミングを見計らって並ぶ。


「お母さんお腹すいた……」

「静かに! これが終わったら、ファミレスね!」

「ハンバーグ! ゼリーついたやつがいい!」


 私の前に並ぶ親子の会話が微笑ましい。


 



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