第24話 ついに告別式

 決戦の時は来た。

 本日は、メインイベント。

 お爺ちゃんの告別式の日だ。


 朝、葬儀場に向かえば、眠たそうな顔の野々宮君。

 目を擦りながら、弔電の整理をしてくれている。


「あれ? ひょっとして、私達の代わりにお爺ちゃんのお線香の見張りを野々宮君がしてくれたの?」


 本当は遺族がしなければならない作業。

 それを、野々宮君が代わってくれたのだろうか?


「まあ……ここ、女の人が泊まりにくいしな。それに、ずいぶんと疲れていそうだから」

「あ、ありがとう……」

「告別式の日に遺族が倒れたら、それこそ大騒ぎになる。気にしなくていい」


 それだけ言って、野々宮君はさっさと作業に戻ってしまった。

 もっと野々宮君とゆっくりと話したいけれども、今、私にもやらなければならないことは沢山ある。


 黒い喪服は戦闘服。

 すでに外には何名かが待っている。

 私が受付に立って、記帳をしてもらい、香典を受け取って、香典返しを配るのだ。


 ここで滞っては、会場は大混乱になってしまう。

 気合を入れて、準備をする。


 筆ペン、ご芳名帳、香典返し……あれ、昨日来た人には、どう対応すればいいんだっけ? 香典は、昨日受け取って香典返しも渡しているはずだから……記帳だけしていただいたらいいんだよね? 違う? 記帳も要らないの?


 の、野々宮君!! ちょっと、説明願いたいんだけれども。

 

 不安だ。こんな作業、したことがないもの。

 

 私の不安な気持ちなんて一ミリも配慮なんて有る訳もなく、告別式に開始時間は迫ってくる。


 本日は、月楽寺のファンキー息子と一緒に、月楽寺父も腰を擦りながら参戦してくれる。

 長い付き合いのある次郎の葬儀。儂が経をあげずに終わるわけにはいかないと、痛む腰を擦りながらも来てくれたのだ。


 月楽寺息子が、金色の袈裟をつけた月楽寺父を支え、野々宮君が用意した椅子に座らせる。


「親父! ロックだな!!」


 月楽寺父の気持ちがロックかどうかは分からないが、月楽寺父の優しさはとても嬉しい。


 月楽寺息子は、月楽寺父とは色違いの法衣を纏って、父の隣に座る。


「親父とセッションできるなんて、感激だ」


 えっと……セッションって言いました? ライブ? 月楽寺息子め。やっぱりライブ気分でお経をあげていたな!

 てか、月楽寺父も、そこはウンウンと嬉しそうに頷くところなの?

 あれ? 私が間違っている? 仏教的には、ライブで正解?

 ちょっと宗教的なことは、さっぱり分からないから、文句も言えない。ううっ……。

 

 なんだか雲行きは怪しいが、それでも告別式はやらなければならない。

 不安だらけでも、それでも、お爺ちゃんを見送らなければ。

 無事にお爺ちゃんを天国へ。

 お婆ちゃんの待つはずの場所へと見送るのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る