第21話 葬儀の意味

 月楽寺息子ライブ……いやいや、お爺ちゃんの通夜は、食事に移行した。

 控室にいた月楽寺息子にお茶と寿司を持って行った。


「おう! お疲れ!!」

 

 軽く手をあげて、月楽寺息子は挨拶をしてくる。


「この度は、忙しいところありがとうございました」


 型どおりに私は、挨拶して食事を並べる。


「もっとお葬式ってしんみり進行するものかと思っていたのですが……」


 かなり控えめにクレームを入れてみる。

 私の瞼には、まだ「DEATH Tシャツ」の残像が残っている。高いお布施を払うのだから、これくらいは言っていいはず。


「そこが素人には難しいところなんだよな!」

「し、素人ですか?」

「そう! 型にはまって見ていれば、『SATORI』は開けないってかんじ?」

「『SATORI』……ですか?」


 えっと、葬儀ってそういう物だっけ? お別れ会的な感じかと思っていたのだけれど。違う?


「亡くなられた方を『BUTUMON』に帰依させて『HOTOKE』になるように『JYOUBUTU』させる。戒名だって、そのためにあるんだぜ!!」


 えっと、『仏門』に『仏』に『成仏』……。何故いちいち用語が英語チックな発音で、少し巻き舌入った感じになるのかは謎だが、言っていることは、それなりにまともっぽい。


 ふうん。葬儀には、ただのお別れ会なだけでないそんな意味が。

 そうよね。お別れ会メインだったら、僧侶いらないし。


「そう! 俺のビートの利いた『DOKKYOU』で昇天させるぜ、BABY!!」


 そこでクルリと回ってウインクとか、意味わかんないし。

 『読経』で昇天って……おい。なんだか意味がおかしくないか?

 駄目だ。完全にライブハウスのノリだ。


 ちょっと、ライブハウスでは人気のなさそうな感じだな……それとも、最近は、こんな感じのノリが一周か二周か回った先で、人気があるのだろうか?


 まあ、いいや。

 とにかく私は忙しいのだ。

 これから、他の来場者の皆様にお茶をいれて回らなければならないのだ。


「後で母がお布施を持ってまいりますので」


 適当に切り上げて私は、月楽寺息子のいる部屋を立ち去った。


 皆が食事をしている会場では、お母さんが、野々宮君と一緒に走り回っていた。

 料理を並べ、取り皿を配り、コップを渡す。


「冷たいお茶はないんかの?」

「なんじゃ、ビールは出ないのか!」

「あら、料理ってこれだけ?」

「わ、こぼしちゃった。布巾どこ?」


 様々な要求を投げかけてくるお客様の対応で、てんてこ舞いだ。


「お母さん、ここは代わるから。月楽寺さんにお布施を……」


 私は、お母さんとお茶出し係を代わる。

 後ひと踏ん張り! それで、通夜は終わり、明日はいよいよ葬儀なのだ! 

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