第19話 お爺ちゃんの若い頃
禄朗おじさんが、さっさとお参りを済ませて秒で帰ってしまった後に、受付に立つ私に寄ってきたのは、近所のお婆ちゃん軍団。
「ねえ! あれ、長崎禄朗じゃない!」
「はぁ~。お参りに来たんだねぇ~」
「カネさんのことを思い出しちゃった!」
「あ、カネさんと言えばさ。あの人のやっていた畑でさ……」
待って、このお婆ちゃん達は、長崎カネも禄朗おじさんのことも知っているの?
ていうか、禄朗おじさんの名前、長崎禄朗なんだ。
じゃあ、『長崎カネ』さんと禄朗おじさんは、家族っていうこと?
「あ、あの……どういうことでしょうか?」
私は、恐る恐る聞いてみる。
お婆ちゃん達は、顔を見合わせる。
何か特別な事情があるんだろうか?
「あまり大きな声では言えないんだけれどもね」
ちょっと声を潜めてお婆ちゃんの一人が、私に教えてくれた。
お爺ちゃんと禄朗さんのお母さん、佐和さんは、大恋愛で駆け落ち同然に結婚した。だけれども、体の弱い佐和さんは、禄朗さんを産んですぐに亡くなったのだそうだ。
お爺ちゃん一人で禄朗さんを育てる日々。
そんな中で、佐和さんのお母さんの長崎カネさんが、お爺ちゃんと禄朗さんに、会いに行った。
――用件は一つだけ。
禄朗は、長崎家で育てる。
当然、お爺ちゃんは断ったが、幼い子供を一人で育てるのは大変だった。
何度か説得されて、ついにお爺ちゃんは折れてしまったのだ。
禄朗さんを長崎家に引き取ってもらって、一人になった。
「それでね。カネさんは、禄朗さんに、次郎さんの悪口を散々吹き込んだのよ!」
お婆ちゃん連中は、そう言って眉間に皺を寄せる。
え、ひどい。何のために?
「カネさんからしたら、大きくなった禄朗さんが、次郎さんの所へ戻ってしまうのを恐れたからなんでしょうけれども……やりすぎよねぇ!」
ウンウンと頷くお婆ちゃん連中。
やり過ぎと思うなら、カネさんを止めて欲しかったのだが……中々、人の家の深い事情だし、踏み込めなかったということだろうか?
……それで、あんな風に、禄朗おじさんは、お爺ちゃんに悪い印象を持っていたのか。
でも、それならどうして許してくれたんだろう?
私が見つけた物は、カネさんからの手紙と、あの謎の折り鶴だけだ。
禄朗おじさんが、自分は捨てられたのだと思っていたのなら、あの程度の物で、どうして許してくれたのかが分からない。
「あ……折り鶴について何か知っています?」
私は、聞いてみる。
「折り鶴? さあ……?」
どうやら、ご近所の事情通のお婆ちゃん達にも、あの折り鶴の意味は分からないよ うだ。皆、首を横に振って、知らないと言っていた。
折り鶴の意味は、死んだお爺ちゃんと禄朗おじさんにしか分からない事なのかもしれない。
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