第16話 お爺ちゃんの歴史

 禄朗伯父さんを、ちゃんとお爺ちゃんが愛していたという確証を私は、家に帰って探す。そんな物は、本人が生きていたとしても、証明するのは難しい。そんなことは、十分分かっている。分かっているけれども、今は、それを探さなければならない。


「無理よ……。そんなの……」


 お母さんは、そう言って諦めていた。

 だけれども、私は諦めない。

 何か、何かきっとあるはずなんだ。だって、お爺ちゃんの性格を私は知っている。お爺ちゃんが自分の子どもを勝手に捨てて平気な人ではないことは、明らかだ。


 お爺ちゃんの部屋をガサガサとひっくり返す。

 骨董品邪魔!! 何でこんなに一杯あるの? 何? この笑った爺さんの陶器の像は! こんなのいつ使うのよ!


 日記……なんて、書く趣味は、お爺ちゃんにはなかった。

 写真……それほど興味をもっていなかった。行事の時にちょっと撮るだけ。

 えっと、何かないの??

 ああ、邪魔! 何よ! このやたらデカい木彫りの熊は!! 

 春画? お爺ちゃんったら、こんな物を!! て、今はどうでもいいんだ。


 物で溢れ返るおじいちゃんの部屋。

 これは、お爺ちゃんの人生の歴史が詰まった場所。

 この私にはガラクタにしか見えない骨董品の山だってそうだ。

 だから、もし禄朗伯父さんにお爺ちゃんが愛情を持っていたとしたら、その欠片が何かこの部屋から出てくるはずなのだ。


 ――無いよ。


 え、父の日のもらった絵とかさ、二人で撮った写真とかさ、何かあるはずでしょ?

 困った。

 本当に禄朗伯父さんをお爺ちゃんは、捨ててたの?

 そんな酷い人だったの?


「あったよ……これ」


 座卓の引き出しにポツンと置かれていたのは、茶封筒。

 その中には、紙が一枚。


『今後一切、禄朗とは関わらないこと』


 そう筆でしっかり書かれた文字。

 誰が書いたのだろう? お爺ちゃんの文字ではない。

 封筒には、『糸田次郎宛』と表に書かれている。

 普通、『様』って付けない? そんなにお爺ちゃんのことが嫌いだったのだろうか? この手紙を書いた人。

 そして、裏には、『長崎 カネ』と名前が書かれている。

 封筒には、折り紙の鶴が一羽。

 不器用な人が折ったのだろうか? なんだか不格好な鶴。そうとう不器用な人が折ったのだろうか?


 結局、見つけた禄朗伯父さんに関係しそうな形跡は、この封筒だけ。

 これで納得してくれる物なのだろうか?


 とにかく、誰かに『関わるな』と命じられていたことは、これで立証できるはずだ。『長崎 カネ』が誰だか知らないが、禄朗伯父さんとお爺ちゃんの間に亀裂を生んだ黒幕は、この『カネ』に違いない。


 それで、納得してくれないかなぁ……。

 自信ない。

 



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