第14話 一つ解決したと思ったのに!

 葬儀社に戻れば、お母さんも葬儀社の受付にいた。

 野々宮君と何やら相談している最中だった。


「お母さん! お金! お布施の!ちょっとだけどこれを足しにして!」


 私が、骨董品店でもらったばかりのお金をお母さんに渡せば、お母さんがビックリした顔をする。


「え? どうしたの?? これ!」

「昔、お爺ちゃんにもらったお茶碗を売ったの!」

「そんな! なんてことを……! わっ! こんなに??」


 お母さんの開けた封筒から出てきたのは、万札。……数えれば、五十万ある。


 —―え? あのお茶碗、そんな価値が?? ずっとクリップ入れにして机に雑に置いてあったのに。


「どんな茶碗だった?」


 野々宮君に聞かれて思い出す。


「確か…店主さんが織部って言っていたような」

「織部……」


 野々宮君は、ネットで『織部』を検索してくれる。確かに、『織部』という種類のお茶碗でそんな価値のある物もたくさんあるようだが、本当にあの私が売った物がそういった価値のある物かは分からない。


 まさか小学生の私にお爺ちゃんがそんな価値の物を渡すなんて、有り得ないと思うんだけれども。ダメ元だったのに。


「まあ、今ここにそんな茶碗の価値が分かる者なんていない。とりあえずこれで、お寺へのお布施は何とかなりそうだ。後は、請求書はあげておくから、ちゃんと金の都合がついた時に支払ってくれればいい」


 野々宮君がそう言ってくれる。


「高いの?」

私が聞けば、


「まあ……ね。当初の予定とは、ちょっと違うけれども。舞が持って来てくれたお金のお陰で、何とかなりそうよ」


 お母さんが苦笑いする。

 相続がちゃんとすれば、別に問題ない訳だから、野々宮君の葬儀社への支払いも、お爺ちゃんの口座の凍結が解除されれば、そんなに無理なく支払えるはずだ。


 お母さんは、一人っ子。

 お婆ちゃんは既に他界しているし、後はお母さんだけ。

 じゃあ、『相続人』ってやつは、お母さんだけでしょ? 何の問題もない。


「あの……ここ、親父……糸田次郎さんの葬儀をするって……」


 知らないおじさん。

 誰だろう? お爺ちゃんの趣味の骨董仲間? 俳句・写真……どのサークルの人だろう? きっと、真鍋さんから広がった『田舎ネットワーク』で葬儀を知ったのだろう。

 ううっ! 真鍋さんに言うんじゃなかった。葬儀の規模がドンドン広がる。

 あの人が香典なんかを持ってきたら、また香典返しを用意して、住所に送るとか、そんな手間がかかってくる。


「あ……。まさか……お兄さん? 禄朗ろくろうさん?」


 お母さんがびっくりしている。

 え? 何? 『お兄さん』? 誰よ。私に伯父さんがいるってこと?


「なんだ。親父、ちゃんと話してたんだ」


 禄朗と呼ばれた男は、顔を歪める。悲しいのか嬉しいのか分からない複雑な顔。

 どういうことだろう?


「えっと、紹介するわね。お爺ちゃんの息子。私の腹違いの兄なの」


 お母さんが、私にそう説明して、禄朗さんに私を自分の娘だと紹介する。

 一ミリも分かりません。どういうことでしょう。


 あんなに真面目そうに見えたお爺ちゃんに隠し子がいたってこと?

 は?




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