第12話 お金が足りない

 銀行の口座が凍結……。

 私は、慌ててネットで調べてみる。

 故人の口座は、相続の手続きが終了するまでは、凍結してしまうのだと書かれている。

 え、でもそれだと葬儀費用はどうしたらいいの?

 明日、お寺に支払うお金が必要なんだけれども。


 野々宮君が頭を抱えている。


「ねえ、お寺にはいくら払えばいいの?」

「あの寺は、相場五十万だ」

「五十万? 嘘でしょ?」


 五十万と聞いて声が裏返る。


「嘘じゃない。お寺には戒名も頼むだろう? 大体の寺が本山を持っていて、戒名の許可をもらうのに、まず三十万かかる。そこに、僧侶の手間から、そんな値段になるんだ」

「え、でも、たった二日で二十万分の収益? しかも宗教法人は非課税……」


 バイトだって、たくさん働けば、税金がかかるのに、宗教法人は税金がかからないのだ。まあ、普通の人では分からない世界のことだから、そんなところから税金がどうのっていうのが間違いなのかもしれないが。


「俺にもよく分からんが、準備だったり、戒名を考える手間だったりあるだろう? 葬儀が終わったあとも、供養みたいなことをするんだろう。たぶん」


 野々宮君が分からないなら、私にどうしてそんな値段になるのかなんて分かるわけがない。

 だが、お葬式にお経をあげてもらわないなんて、そんなのは、駄目な気がする。自分の葬式ならば、そんなお金のかかることは、ドンドン省いてもらっていい。皆でそのお金で美味しい物でも食べて笑ってくれればそれで嬉しい。だが、この葬式は、あくまでお爺ちゃんの葬式なのだ。だから、お寺の満足しない値段を払って、お寺と不仲になるのは、今後困るのだ。お墓のこともある。


 どうにかしないと、いきなり五十万なんて大金を支払う。さらに、待ってくれるとは言ってくれているが、葬儀社への支払いも、当初の予定を大幅に超えそうだ。


「! そうだ、お爺ちゃんの骨董品は? 骨董品を売り払って、それでなんとかお金を……」

「それは駄目。それもお爺ちゃんの財産なら、相続対象だ」

「じゃあ、私かお母さんの持ち物が預金で無いと駄目なんだ……」


 あ……あれはどうだろう。

 

 蘇る記憶の中の言葉。

 昔、お爺ちゃんが笑いながら、『これは良いものだぞ! やるから、金に困ったら売ればいい!!』と言って渡してくれた物。


「ちょっと行ってくる!」


 私は、慌てて家に戻るために走り出した。

 

 小学生の時にお爺ちゃんにもらったあれ。

 お爺ちゃんの言葉がただの冗談かどうかは分からないが、今は、何とかなると信じたい。


 今は、使い道がなくて、私の部屋でクリップ入れになっているあれ。あれで何とかならないかな?

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