第11話 恐怖の田舎ネットワーク

 田舎の情報ネットワーク。それは、とても恐ろしい。

 お隣の奥さんが魚の目で悩んでいるということから、昨日の夫婦喧嘩の原因は、旦那の浮気だということまで、ありとあらゆる情報が、とんでもないスピードで巡るのだ。それは、インターネットも真っ青な速さで、本人の意向を無視して拡散されていく社会。


 都会から、喧騒を離れたのんびりした暮らしがしたいという移住者が、最初にぶつかる壁の一つが、その『田舎の情報ネットワーク』なのだ。

 それこそ、何時にどんなゴミをどの量出したかで、暮らしぶりが推察され、服の着こなしから生活を暴き出される。その労力を他に向ければ良いのにと、何度も若者は思うのだが、その土地に長く住む者達は、自らの名探偵ぶりを誇り、情報通であることを名誉と感じているのだ。


「もはや、葬式が行われることは、暴き出されている。隠すことは不可能だ」

「え、でも、家族葬だから、断われば?」

「出来るか? 先ほど来た近所の人からも香典を受け取ったのに? 『あら、あの人の香典は受け取ったのに、どうして家からは受け取らないの?』なんて言われて、葬式に来た客を門前払いできるのか?」

「それは、野々宮君が頑張ってあしらってよ」

「無茶言うな。葬儀社が潰れる! うちは地域密着型なんだぞ? それこそ、これからのお客様候補の年寄り相手に、そんなことをすれば、あっという間に廃業だ」

「待って。お客様候補ってどうよ?」


 野々宮君、私が同級生であったことを覚えていたと発覚してから、言葉に容赦ない

気がする。

 とにかく、緊急会議を開かなければならないだろう。

 プランを一から見直さなければならないだろう。

 先ほどからひっきりなしに、葬儀社の事務所の電話が鳴っているのは、きっとお爺ちゃんの葬儀に対する問い合わせ。

 わあ! おじいちゃんって人気者だったんだ! ではない。

 葬儀の規模が大きくなれば、確実に影響を受けるのは、その費用。


「下手すれば、百万円コースだぞ。これ……」


 野々宮君のつぶやきに、背筋が凍る。

 そんなお金、どうやって捻出すればいいのか。


「とにかく、その辺はなんとか工夫して安くするし、支払いも多少待ってやってもいい。とにかく導師……僧侶へのお布施だけは、早急に用意するんだ」

「それは、お母さんが今銀行に行って……」


 私のスマホが鳴る。

 お母さんからの電話だ。


「あれ、お母さんどうしたの?」

「大変よ! お爺ちゃんの銀行口座が凍結されちゃったの!!」

「え、嘘でしょ?? どういうこと?」

「分からない! とにかく、銀行からお金が下ろせなくなっちゃのよ!!」


 大慌てのお母さん。

 どうしよう。僧侶へのお布施は、明日、お通夜の時にまとめてお渡しする予定になっているというのに。

 ……いくら渡せばいいんだっけ?

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