第8話 決戦日時は決まった
お爺ちゃんを預かってもらうには、日数によってお金がかかる。
だから、あまり日数は伸ばすことはできない。
火葬場に電話して、菩提寺に連絡して、都合が良い日を聞いて、その上で、我々は動くのだ。
そう。我々の都合なんてものは、宇宙の彼方にぶん投げても曲げられないのは、火葬場と菩提寺の都合。そこで「あ~その日は、炉がいっぱいなんすよ~」と言われたり、「他の大規模な法事が入っておってのう」と言われたりしてしまえば、我々になす術はないのだ。
庶民は従うのみ!
良かった。試験中とかでなくって。
……案外短いのだ。忌引きが使える期間の目安は。
ここ日本では、配偶者が亡くなった場合で10日。我が子なら5日。実親なら7日。そして、おじいちゃんが亡くなった場合には、3日。それが一般的な日数で、場合によってはそれすらも認められない場合があるのだ。
最愛の妻が亡くなって10日? 愛する我が子が亡くなって5日? そんな一週間あるかないかの期間で皆、精神的に復活して通常の仕事ができるの? すごくない?
私には、確実に無理だと断言しておこう。今がもし試験中なら、確実に単位を落とす自信がある。
つまり、この世で仕事をしている人々の中には、最愛の人を亡くして通常業務に従事している人が確実に混じっているのだ。レジのお姉さん、カスタマーセンターのお兄さん、電車に乗るスーツ姿のおじさん、そう言った人々が、正にそういう心痛を抱えたまま頑張る人かも知れないのだ。
……人には優しく接しよう……。
そして、我々がお爺ちゃんを見送る日程は、明日の晩が通夜で、明後日が葬儀。拝んでもらう僧侶は、菩提寺の月楽寺さん。連絡済み。火葬した後のお骨も、後に月楽寺さんで、先に亡くなったお婆ちゃんのお骨と一緒にお墓に入れるのだ。
ええっと、たくさん呼んで費用が掛かり過ぎれば、私達も財力では払えなくなるから、家族葬で!
完璧なプランだ! どこを突いてもボロは出ないはずだ!
「では、プランの概要は決まりましたね。祭壇は、このAタイプで、生花はこちらをご用意して……食事はいかがされますか? 通夜の際に何人前をご用意いたしましょう? そうだ、香典返しはいかがいたしますか? ご親族が何人か来られるならば、香典をお持ちになる方もいらっしゃますから……」
まだまだ決めることは山積みのようだ……。
この果てしない会議の後で、私とお母さんは、役所に行って死亡届を出して火葬の許可証をもらい、銀行を回って僧侶に渡すお金を下ろして、親戚の方にお爺ちゃんが亡くなったことを知らせるのだ。
葬儀が終わった後に、スマホの解約、お爺ちゃんが定期購読していた雑誌の差し止め……あっと、相続! 相続ってどうするんだっけ? あのお爺ちゃんの部屋の骨董品、どうしたらいいの?
弱音吐いていい? もう、目が回りそうだ。
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