第6話 速やかに移動しなければならないらしい
結局、ほとんど面会は叶わないままおじいちゃんは、てきぱきと準備をする業者さんにあっという間に梱包……いやいや、葬儀社の準備した御棺に入れられて搬送される。
「当社の方で、お預かりするという話で間違いはございませんね?」
野々宮君に言われて、お母さんがコクコクと首を縦に振る。
「死亡診断書は?」
「はい。ここに……」
「ちゃんと二通取りましたか?」
「ええ。病院の方に、二通取るものだと教えてもらいましたので」
お母さんが、二通の死亡診断書を慌ててみせる。
「良かったです。死亡診断書は、死亡してから七日以内に役所に出す必要があります。他にも、各種手続きで必要になりますので、絶対に無くさないでくださいね。……そして、死亡診断書を役所に出すことで、『火葬許可証』がもらえます。それを火葬場に提出しなければ、せっかく予約していても火葬できません。必ず葬儀までに、『火葬許可証』を取っておいて下さい」
矢継ぎ早に野々宮君が、指示を出す。
この書類、そんな大切な物なんだ。
お母さんが、しっかりバッグに仕舞いこむ。
「病院の方でエンゼルケア、清拭は済んでいますが、
野々宮君は、そう言い残すと、私たちに地図を渡して、そのまま行ってしまった。
私達には、自分でこの地図の場所に移動しろということなのだろう。
なんか、冷たくない? こんな場面だ。よお、久しぶり! 元気だった? なんて、同級生の再会の挨拶を求めるのは場違いだとは思うが、それにしたって、こんな風に超事務的に接されると、地元密着型の知り合いの葬儀社を選んだ意味は半減するのではないだろうか?
別に、特別なサービスを求めている訳ではない。
ただ、突然亡くなったおじいちゃん。少しは、温かい対応を求めても、罪はないのではないだろうか……。
「なんか失敗しちゃったかな」
お世話になった病院に挨拶して、お母さんの運転する車の中。私は、つぶやく。
「葬儀社のこと?」
「そう。もっと考えた方が良かったかな……」
遺体安置所は、それほど長い間、おじいちゃんを預かってはくれない。でも、それでも、時間ギリギリまで熟考して、もっと対応の温かい葬儀社を探した方が良かったかもしれない。
「まあ、それはそうだけれども。でも、時間無かったし。今更しょうがないじゃない? 私達だけでもおじいちゃんに寄り添って温かく見送ってあげましょう」
お母さんは、そう言って苦笑いしていた。
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