第5話 対面のはずだったのに
「おじいちゃん……」
今朝は元気だった人が突然に会えなくなる。そんな事が、自分の身の回りで起こるとは思いもよらなかった。
突然の心臓発作。
出先でバタリと倒れて、皆手を尽くしてくれたにもかかわらず、おじいちゃんは、亡くなってしまったのだ、とお母さんは説明する。
おじいちゃんに、恐る恐る近づけば、
「葬儀社の方が来られましたよ!」
と看護師さんの声が後方から。
早いな。おい。
もうちょっと、ゆっくりおじいちゃんとの対面をしたかったのだけれど。
「失礼いたします。水晶の河葬儀社の野々宮です。この度は、ご愁傷様でした」
丁寧なお辞儀をして入って来たのは、眼鏡をかけた黒いスーツ姿の長身の男性。私と変わらない年頃だけれども、私よりもずっとしっかりして見える。
先ほど写真で確認した野々宮君。
うっすらとした記憶でも、実物を見れば、なんとなく当時の面影を感じる。
「あ……」
覚えている? 同級生だったんだよ。
そう聞こうと口を開いた私の言葉をさえぎって、
「恐れ入りますが、病院の都合上、そろそろ移動しなければいけませんので」
野々宮君は、おじいちゃんを移動させる準備を始める。
野々宮君と一緒に来た二名の男性が、どうも! と軽く挨拶をして、前を通り過ぎる。
「一度、部屋を出ていただけませんか?」
呆然と立ち尽くしている私に、野々宮君が声をかける。
「あ、はい」
邪魔だということだろう。
お母さんと私は、慌てて部屋から外に出た。
なんだか、無表情だし、事務的だし。
野々宮君、大丈夫なのかな? あんなので。
しっかりはしていそうだけれども、こんな風にバタバタと急かされては、遺族は最後の対面も出来ないではないか。もっと、遺族の心に寄り添って、温かみのある対応しをして欲しかったのだけれども。
せめて、もう少し。もう少しだけ、おじいちゃんの顔を見る時間がほしかった。
だって、最後のお別れでしょ?
リピーターというのは死者を扱う仕事に変だけれども、葬儀社だって口コミとかが大切なはずだ。あまり悪い評判が立てば、仕事は減るのではないだろうか? 後でネットでエゴサしてみよう。
どこを選べば良いのか分からず、知り合いの葬儀社なら雑にはされないだろう、なんてあまり考えもせずに決めてしまったが、これで良かったのだろうか?
おじいちゃんをちゃんと見送ってあげられるのだろうか?
一抹の不安を抱えながら、私は、お母さんと部屋の外で待っていた。
どんなに不安に思っても、もう、葬儀社は決まり、我々は走り出してしまったのだ。
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