第4話 対面
昔の知り合いが居そうだから。
そんなとんでもなくいい加減な理由で選んだ「水晶の河葬儀社」にお母さんが電話する。
「ええ、ええ。はい。ありがとうございます。はい、まだ病院です……」
電話するお母さん。
私は、黙ってその電話が終わるのを待つ。
「ありがとうございます……」
お母さんが、そう言って電話を切った。
「どうだった?」
私が聞けば、
「すぐ来てくれるって。後、葬祭場?に、そのままお爺ちゃんを運んで管理してくれるんだって」
良かった。
お爺ちゃんをすぐに家に帰してあげられないのは残念だけれども、あの部屋では、とてもご遺体となったお爺ちゃんを静かに寝かせてあげられない。
お爺ちゃん愛用のせんべいの様にくたくたの布団が隅に追いやられ、骨とう品に支配された部屋。
これから、お爺ちゃんの部屋に戻ったら、お爺ちゃんの愛用品で、棺桶に入れられる物を探さなければならないだろう。
「まだ、お爺ちゃんと会っていないでしょう? 案内してあげる」
お母さんに言われて、お爺ちゃんが眠っている部屋にようやく向かう。
やっとだ。
まだ、私、死んだというお爺ちゃんと顔も合わせていない。
突然電話で言われた衝撃的な一言。
お爺ちゃんが、亡くなった。
未だに信じられないその言葉。
お母さんが、案内してくれた部屋の前。通常の入院患者や見舞客の動線からは離れた場所。病院の隅の目立たない場所に、その部屋はあった。
この扉の向こうには、お爺ちゃんが眠っているはずなんだ。
すごく元気で頼りがいがあって、私を応援してくれた、優しい人が、突然その命の火を消して、二度と動かない姿になっているはずなんだ。
できれば、何かの間違いで、お母さんが目を離した隙に息を吹き返して、いつものように「ヨォ!!」なって陽気に声をかけてはくれないだろうか?
小さな妄想を、神様に願いながら、扉を開く。
私は、扉を開いた。
鼻をつく線香の匂い。
そこにいたのは、まぎれもなく私の大切なお爺ちゃんだった。
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