第3話 第一の決断
お爺ちゃんの顔は観たいけれども、
今は、とにかく葬儀社を決める相談にのらなければ、お母さんが困ってしまう。
並べられた葬儀社のパンフレットは三社。
全国チェーンの大きな葬儀社と、地域密着の小さな葬儀社が二つ。
料金は……こんなに高いの??
五万、十万、二十万、五十万、百万……。
通夜と葬儀を一緒にして、小さな祭壇で家族だけでひっそり僧侶を呼んで、お経をあげてもらって終わりでも、五万円。え、僧侶を呼ぶ費用は別料金なんだ。お花も別。
この五万は、使いまわしの祭壇のレンタル代、それと一番リーズナブルな棺桶代。後からどれほど請求されるのだろうと心配になる。
ただでさえ、保管費用とご遺体の搬送代とやらも、上乗せされること確定なのに。
「今は運んでもらうだけで、葬儀社は別でも良いらしいんだけれどもね、でも、家にスペースがない以上、もう葬儀場でお爺ちゃんを見ていて欲しいでしょ? だからね、葬儀を行う会社も、決めた方がいいと思うのよ」
サッパリ分からないと、お母さんはため息をつく。
しっかり者のお爺ちゃんだから、お母さんは何もかもお爺ちゃんに任せっきりの所があった。お父さんと離婚した時の手続きも、お婆ちゃんの葬儀の時も。お爺ちゃんが指示を出していて、お母さんも私も、それに従うだけだった。
お爺ちゃんは、私たち家族にとって掛替えのない人。頼りにして生きてきた。そのお爺ちゃんを失って、私達は、櫂の無い小舟で荒波に飲まれている状態だ。
「あれ、これ野々宮君だ」
「あら、知り合い?」
地域密着型の葬儀社のパンフレットに見つけたのは、同級生の顔。名前も野々宮となっている。そう言えば、実家が葬儀屋だと言っていたような……。
心無いいじめっ子が、野々宮君を、「おばけの仲間」と呼んでいじめていた記憶がぼんやり。
「そういえば、小学校の時に一度だけ同じクラスになったのよね? 大人しい子で……ええっと、どんな子だっけ?」
コミュ力も記憶力も低い我々親子。
二人して野々宮君がどんな子だったのかも思い出せない。
身の回りで事件が起きても、証人には絶対に成れないタイプだ。昨日の夕飯も、正確に覚えていない。
「まあ、多少の知り合いならば、そんな暴利な料金を取られることも、粗雑に扱われることもないでしょう」
これで良いのかと心配になる理由で、我々は、葬儀社を、水晶の河葬儀社に決めた。
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