第2話 葬儀社をもう決めるの?
病院に着いて、私はお母さんのスマホに連絡を入れる。
「舞ちゃん!! ここよ!!」
お母さんは、病院の会計に座っている。
私の連絡を見て、立ち上がって私に向かって手を振っている。
あれ? おじいちゃんに付き添って泣いているものとばかり思っていた。
お母さんに駆けよれば、今はおじいちゃんの処置をしてくれた病院に処置代を支払うために、会計に並んでいる最中なのだという。
そりゃそうよね。だって、亡くなったとはいえお医者さんや看護師さんは動いてくれていたのだろうから、支払いは発生する。
午前中の診察が終わった人たちでごった返す、総合病院の混雑した会計の待合。私とお母さんは、二人で並んで座る。
「おじいちゃんね、今は霊安室っていうの? 一時的に亡くなった方を置く部屋に居させてもらっているんだけれども……どうしよう、舞。おじいちゃん、どこに移動させればいい?」
お母さんに聞かれる。
「えっと、やっぱり家?」
普通は、やっぱり一旦家に帰って、そこからお葬式の準備をして出棺ではないかな?
ドラマでも、畳の部屋に寝かせているご遺体に「どうして? どうして死んでしまったの??」なんて言って遺族が泣きつくシーンを見たことがある。
「だよね。そう思うよね。でも、どこに?」
「どこに……」
そう、おじいちゃんと同居していた我が家、とても狭いのだ。
マンションの2LDK。おじいちゃんの部屋と私とお母さんの部屋と、リビングとダイニングとキッチン、水回り。それだけの部屋しかないのに、おじいちゃんの部屋は、おじいちゃんが趣味で集めた骨董品で埋もれている。
あそこの部屋に、ご遺体となったおじいちゃんを安置出来るのだろうか??
それにもし、部屋になんとかスペースを作ったとして、狭い共用廊下を、棺桶……通るのだろうか?
エレベーターは、そんなに大きくないから、非常階段を通るのか?
引っ越しの時に大きな机は、ベランダから吊り上げたけれども、いやいや、棺桶はそんなことしたら駄目だろう。
「無理かも」
吊り上げられたおじいちゃんを想像して、私は諦める。
じゃあ、眠るおじいちゃんは、どこにどうやって運べばいいんだろう?
みんなどうやっているんだろう?
昔、「湖」という小説で、亡くなった母を自分で車で家まで運ぶ話があったけれども、あれ大変よね?少なくとも50キロくらいはあるご遺体を、夫婦二人で運ぶ。
車に乗せて……けっこうな大きさの車じゃないと、人間一人を真っすぐに寝かせて運べない気がする。家の軽自動車では、まずその時点で無理。
さらに、家に着いたら、そこから家の中まで、玄関を通って狭い廊下を進んで運ぶ。……一体どうしたらよいのやら。
情緒たっぷりで書かれたとても素晴らしい小説だったけれども、いざ自分が「遺族」という立場に立ってみれば、その細部がこんなにも気になる。
「それでね、病院と提携している業者さんのパンフレットを渡されたんだけれどもね。そこの施設で預かる事も出来るみたいなの」
「業者さんのパンフレット。葬儀社さんね」
なんだ、葬儀社さんが運ぶサービス、眠る場所の確保のサービスもしているんだ。
早く言ってよ。そういうの。心配しちゃったじゃない。
「どこがいいと思う? 各社で取り扱っている葬儀とかも違うみたいなんだけれども」
お母さんに渡された数社の葬儀社のパンフレット。
え、もうお葬式について決めなきゃいけないの??
待って、私まだおじいちゃんのお顔も見ていないの。
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