第3話

しかし私は高校生のとき、同性愛者ではないと否定しなかった。

する機会がなかった。

言えなかった。


私が高校に進学した時。

ちょうど芸能人による心の性別のカミングアウトが続いていた。


だからクラスメイト達も、同性愛者に対する偏見が薄れていた。


私は同じ中学の人がいない高校を選んで進学したけれど、

当然、私が同性愛者だという噂を聞きつけた人もいた。


微妙な空気になった日がないわけではないが、

クラスの一軍男子が言ったのだ。


「俺の知り合いにもカップルいるわ」


いい人が必ずしも毒を吐かないとは、限らない。

私は、爽やかで善人な一軍男子が何気なく放った言葉のせいで

高校でもレズだと誤解されたのだ。


一瞬でも彼をイケメンだと思った私が馬鹿だった。

彼は善人の皮をかぶった加害者だ。


けれど、加害者もとい一軍男子はいい人だった。

3年間同じクラスだったけど、彼のおかげで私は女子に無視されることはなかった。


しかし不便はあった。


体育の着替えはクラスでできなくなった。

一軍男子が、わざわざ私を連れて教室を出るようになったから。

彼らは私を女子トイレまで送り届けると、

男子更衣室へ向かった。


彼らなりの気遣いなのだと思う。

本当に同性愛者だったら、ありがたかったかもしれない。

けれど私は心も体も女である。


誰も何の誤解も持たないまま、私に話も聞かない状態で

「田宮 たみや れんは女の身体をした男である」

という烙印を押した。


入学してすぐ、宿泊研修があった。

誤解は深まりばかり。


誰が話したのかは知らないが、私はクラスの女子部屋ではなく

保険医の先生と同室にされてた。

グループワークも、男子の組に入れられた。


そのタイミングで、学校から母親に連絡が言ってしまった。

「部屋割りとグループ分けの件は、先生から家に連絡いれといたからな」

余計なお世話だ。

生徒を気遣う余裕があるのなら、せめて事実確認をしてほしかった。

どうして、あの担任は一軍男子らの言葉だけ聞いてしまったのだろう。


その日の夜。

私は、両親に呼び出された。


ふたりは私が同性愛者だと言われていることを知っていた。

私が中学3年生のときに、弟が学校で聞いた噂を両親に話していたのだ。


両親も周りと同じ。

本人に事実確認もせずに私をレズだと決めつけていた。

そして「わたしたち夫婦は子どもを尊重している」といった雰囲気で

理解者を装って話しかけてくるのだ。


「いい担任の先生でよかったわね」

「中学は大変だったみたいだが、高校は大丈夫そうだな」


私は、誰も疑いもせず勝手に話を進めていることが気持ち悪くて仕方がなかった。


だって私は、女子に嫌われることが怖くて男子を褒めなかっただけだ。

たまたまシュートを決めた女の子を褒めただけ。

スマホを持っていない、テレビもあまりみない子だったから『そっち系』の意味が分からなかっただけ。


それなのに。


たった一度の間違いで、私は男という烙印を押された。

暴力・暴言を受けたわけではない。

けれどあの時、私は本気で死を考えた。

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