第41話 金髪ギャル、到着
『もしもし。────水澄くん?』
休日、若宮家のリビングにて。電話越しに聞こえる友人の声に、冬弥は安堵のため息をついた。
「亜季、久しぶり。連絡できなくてすまなかった。……え? あぁ、俺は元気だよ」
冬弥がキッチンで楽しそうに電話しているところに、偶然灯織が通り掛かる。
「──なに? 今週末に来てくれるって!? もちろんいいよ! それなら、駅前のカフェで待ち合わせを──」
「…………?」
どうやら誰かと会う約束をしているようだ。灯織は首を傾げると、冬弥の後ろ姿を見守る。
「──わかった。じゃあ、また土曜日にな」
通話を終えると、冬弥はスマホをポケットにしまった。
「誰と話してたの?」
「ん? あー……」
冬弥は苦笑いをした。
「東京の友達だよ。こっちに何も言わずに越してきたから、そろそろ連絡しないとなと思って」
「へぇ……。どんな人?」
「うーん。一言で言うなら……そうだな、『今時のギャル』かな」
灯織は少しだけ目を細めた。
「いや、違うんだ! なんていうか、それは休日だけなんだ!」
「どういうこと!? 普段は地味だけど、実は……その、びっち……みたいな!?」
「違う違う! 妙な勘違いをするな! あくまであいつはオシャレというか、学校がない日はイマドキに変身する感じの人っていうか!」
「……つまり、普段とオフの日のギャップがあるって言いたいの?」
「そう! それだ!」
「ふぅん……」
なおも灯織は疑いの目を向ける。
「ちょっと、電話する」
「お、おう……」
灯織はその場で携帯を取り出すと、どこかへと電話をかけ始めた。
「う、うん。……わかった、ありがとう」
そして携帯を閉じると、冬弥の方を見て笑顔で言った。
「『人間の骨は215本くらいあるから、一本くらい折っても問題ない』って」
「何の話!?」
「『骨折は治りが早いけど、捻挫はなかなか完治しないらしいわ。どっちを選ぶかは灯織次第ね』って」
「どっちもやだよ! てか、さっきの通話の相手、絶対エマだったろ!」
冬弥はそうツッコんだ。しかし灯織はスルーした。
たしかに、灯織からすれば怪しさ満点である。可愛い子が、冬弥のためにはるばる東京からやってくる──それを思うと、心の中にモヤッとするものが。
「ま、まぁ……とりあえず、そういうことだ! ヨロシク!」
「え? ちょ、ちょっと!」
冬弥は一方的にそう言うと、リビングを出て行った。
「……………………」
一人取り残された灯織は、無言のままじっとソファに座っていた。そして、
「………………怪しい」
小さな声で呟くと、頬を膨らませたのである。
☆
土曜の駅前は、地元民のみならず、多くの観光客で溢れていた。北海道とは思えないほど暑く、たまらず上着を脱ぐ人も多く見られる。
「み、水澄くん……?」
すると、改札口を出たところで待っていた冬弥の元に、友人がスーツケースを引きずって現れた。
「おぉ、亜希! 久しぶりだな!」
「ごめんね、待たせちゃった?」
「いや、俺もちょうど今来たところだから大丈夫だよ」
そう言うと、冬弥は彼女の格好を見た。
「それにしても、相変わらずすごいな……」
「え、そう? 普通だと思うんだけど……」
そう言うと、亜季はくるりと一回転した。
冬弥の友人──
髪は明るい茶色に染められており、ゆるふわ系の髪型をしている。メイクにもかなり気合が入っているようで、服装もどちらかといえばギャル寄りで露出が多い。さらに香水をつけているのか、ほのかに甘い香りが漂ってきてドキドキする。
(こんなのと一緒に歩いてたら、俺は一体どう思われてしまうんだろう……)
冬弥は不安になった。だが、亜季本人はそんなことを全く気にしていない様子で、ニコニコしながら話を続ける。
「とりあえず、カフェでお茶でもしよっか!」
「そ、そうだな。行こう」
二人は並んで歩き出した。
☆
カフェに入ると、二人は窓際の席に座った。注文を済ませると、早速会話を始める。
まずは冬弥が、引っ越すまでの経緯を説明した。それから新しい場所での暮らしや高校のこと、さらには、灯織やエマのことについても言及した。
「そっか〜。最初はびっくりしたけど……とりあえず、水澄くんが楽しそうでよかったよ」
亜季は微笑むと、ホットティーを一口飲んだ。
「色々あったぜ。でも、本当に俺は出会いに恵まれてるよ」
「そっか。もう、東京には帰ってこないの?」
「そうだな……行ったところで、帰る場所がないし」
「何言ってんのさ。あたしの部屋があるでしょ?」
「なるほど。たしかに、三条家に泊めてもらうってのも──」
「あははっ。冗談だってば」
「おい、なんなんだよ!」
冬弥たちは楽しげに会話を交わしていた。一方、それを近くで聞いている女子高生二人組の顔は対照的に暗い。
「────」
ズバリ、灯織とエマだ。二人の視線の先には、こちらに背を向けて座る冬弥と、彼に笑顔を振りまく、明るい髪色のギャルがいる。完全にカップルにしか見えない──灯織は唇を噛んだ。
「……エマちゃん」
「そうね、灯織」
サングラスをかけて変装したエマは、深刻そうに頷いた。
「あの二人、もう行くとこまで行ってるわ」
「やっぱり……!」
灯織は頭を抱えた。あんなに可愛い子と冬弥が付き合っているとはにわかに信じ難いが、わざわざ東京から札幌までやってくるあたり、相当あのギャルは冬弥のことが好きなはずである。
「くぅ……! それにしても可愛いわね、あの子」
「うん……。なんか、イマドキな感じっていうか」
灯織は自信失くすかも、と言って肩を落とした。
「あら、灯織は十分可愛いわよ。自信持ちなさい」
「あ、ありがとう……」
エマは優しい笑みを浮かべると、ふと遠くを見つめた。
「まぁ、ワタシの足元にも及ばないけどね」
「ちょっと待って?」
灯織はストップをかけた。
「妄言はそこまでにしてよ」
「紛うことなき真実よ、灯織。だって、ワタシの可愛さに勝てる子なんていないんだから!」
「たしかにね〜。エマちゃんはおしりの軽さなら誰にも負けないし」
「どういう意味よ!? 灯織!?」
エマは声を上げた。
「ワタシはただ、『可愛い』という称号において、ワタシが一番優れていると言いたいだけであって!」
「はいはいわかったわかった。可愛い可愛い」
「ちょ、灯織! あんた、絶対バカにしてるでしょ! この〜〜!」
二人がイチャイチャしている隙に、冬弥と亜希が同時に席を立った。
「あれっ、もうお店出るのかな?」
「いや……違うわ。荷物置いてるし」
灯織とエマはひそひそ話をしながら、彼らの行き先を見守っていた。
「────って!!」
「…………!」
瞬間、彼女らは目を見張った。
冬弥と茶髪ギャルが、一緒に男子トイレに入っていったからだ。
「え、えぇええええええ!!?」
「嘘でしょおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!?」
絶望を超えた動揺に、二人は苛まされる──!
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