第50話 家、燃える。



 べるべとの戦いから3週間が過ぎた。



 激しい戦いにより、大きく倒壊していた病院。その戦いがなかったかのように病院は元通りになっていた。



 修復したわけではない。ダンジョンコアが消滅してから何事もなかったように元に戻ったのだ。



 これには病院管理者含めて誰もが驚いた。もちろん俺もだ。



 ダンジョンを専門的に研究を行っている、俺の後輩を自称するサイコ・サイエンティストの筑波まふゆの話によると、実際にダメージを受けていたのはダンジョン空間だけで、建物までに影響がおよんでいなかったらしい。



 だからダンジョンコアが無くなったら元通りになったのだ。



 もちろん元通りにならなかったものもある。



 俺は元の健全な身体には戻らず3週間の入院とリハビリ、検査を行う生活を行っていた。



「はぁー、やっと家に帰れる」



 ボストンバックに荷物をまとめ終わり、少女の身体でおっさん臭いたため息をつく幼女。


 宝箱を開けたら男から少女になった俺はプチスライムもまともに倒せない実力でドラゴンと渡り合い。そしてダンジョンコアを悪用するアンリミテッドの一人であるべるべと激戦をへて、魔法少女兼、垂れ耳ウサギのように長い耳を持つ幻獣赤ちゃんミィの育て親となった。



「四六時中まふゆに付きまとわれる生活もこれでおさらばか……俺はようやく自由を手に入れるだな」



 なんだかんだ1週間ほどで怪我は完治していたのだが、まふゆが検査入院という建前でずるずると入院期間を伸ばした。



 そして検査に必要な書類だからとさりげなく俺とまふゆの両名の名前が入った婚姻届に印鑑を押させようとするのはやめてほしい。

確認もせず、押していたら危ないところだった。



 加えてほのか、さゆり、お前らなんで婚姻届の証人のところに自分の名前を書いているんだよ。


俺の味方はいないのか?



「お兄ちゃん、大変!!」



 現役女子高校生の俺の妹である大分ほのかが慌てた様子で病室に駆け込んできた。



「おう、どうしたほのか、まるで家が火事になったみたいな慌てようで」



 俺は病院のベットの上でなつきさんに向いてもらったりんごを食べていた。なつきさんは婦人警察官で胸がふくよかな包容力がある大人の女性だ。血は繋がっていないが信じられないことにまふゆの義姉である。



「ようじちゃん口開けて」



俺は差し出されたりんごに素直に齧り付く。そんな俺の膝の上では持ち手のついた哺乳瓶に入ったミルクを手で掴んで勢いよく飲むミィの姿があった。



「みぃっ、みぃ!」



 ミィはあれから青い髪の少女に戻ることなく、ずっと赤子のままである。



 そもそもミィは人間ではない。加えてモンスターでもないらしい。それなのでダンジョン関係者からは、うちは関係ないとNOを突き返された。加えて戸籍を取ろうにも人間ではないので取れないとのことを市役所の人につい最近聞かされたばかりだ。



「いっぱい飲んで大きくなれよ」



ミィの髪を撫でると手触りの良い、毛皮のような感触が伝わってくる。



「ミィミィ♪」



ミィは撫でられると気持ちよさそうに目を細める。しかし、それでも哺乳瓶を離そうとしないところ、食い意地は人一倍張っていると思われる。



「お兄ちゃん、そんな悠長なことをしている場合じゃぁ、ないの大変なの!!」



「落ち着け、何が大変なんだ」



「家が、家が……」



「家が?」



「家が…………」



「うん、家が?」



「全部……」



「全部??」



「消し炭に……」



「はぁ?」



 俺は理解できず思わず聞き返してしまった。



「さゆりさんが持ってきた高級和牛のお肉でお兄ちゃん退院祝いの焼肉パーティーしてたら家が火事に……」



「おい、待て退院祝い? その話、俺は全く聞いていないだが」



 俺は本人不在の焼肉パーティーで家を焼失していた。



 つまり、俺は今からどこに帰ればいいのだ。

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