第2章 お前がママになるんだよ

第49話 あいやー!! ドラゴンカンフーガール!!

 中国の雲をも超える高い山々に囲また雲海が谷間に広がる秘境の地、龍岳谷ロンユエグウ龍岳谷ロンユエグウは龍の霊気が豊かに流れていると地として古代から信じられていた神聖な土地である。そして、その山中にある寺院、神龍院シェンロンインは五千人の門下生を持つ、ドラゴンカンフー発祥の地であった。



 雲海がかかり、神秘的な朝、神龍院シェンロンイン師範代シーフである雲遊龍眼ユンユー・ロンヤンは、つい最近、弟子となった龍舞凌龍ロンウー・リンロイを道場に呼び出した。



凌龍リンロイよ。お前に頼みたいことがある」



「あいやー! 師匠! 何であるか?」



 龍のように長い白髭を生やした老師は龍眼ロンヤンは開いているかどうかわからない細い瞳を少し開き凌龍リンロイが座るの姿を見る。



「日が昇る日の本で危機が迫っている」



「それは大変ね」



 他人事のように返事を返す凌龍リンロイ。彼女は口元に白いご飯をつけていた。そして日本のことよりも自分の食事の方が大切なようだ。老師は龍眼ロンヤンの話を聞きながら、手に持ったご飯とおかずを食べるのをやめようとはしない。



 凌龍リンロイの上着は襟が立っていて龍の装飾が施されていた。ズボンは白い裾がふっくらとしたチャイナカンフーチュニックを着用していた。一見するとチャイナドレスに見えなくもないが、下にズボンを履いており、蹴り上げても下着が見えないようになっているのがチャイナドレスとの違いだ。



 髪は金髪で、長い髪をお団子上に両サイドでまとめてツインテールのように両脇に三つ編みした髪を垂らしている。目は爬虫類のように瞳孔が細く、吸い込まれるような宝石のような赤い瞳をしていた。そして異質なのがその背後で揺れる黄金に輝く恐竜のような尻尾である。



「お前も知っての通りドラゴンカンフーは悪しきものを倒すべくカンフーである。私がお前に言いたいことがわかるか?」



「まったくわからないね」



「つまりだな。お前にその危機を解決してきて欲しい。そうすればお前に日の本でドラゴンカンフーの師範として活動することを認めよう」



「興味ないね。めんどくさいある」




「そこにはお前の手がかりがあるかもしれないぞ?」



 食事が終わり、くわーと大きく口を開けてあくびをして、道場で肘をついて手に頭を乗せてごろーんと横になっていた凌龍リンロイ龍眼ロンヤンの言葉にカッと目を見開いて起き上がる。



「本当あるか!!? 私の正体がわかるあるか!!」




 師範シーフ詰め寄られて身体を激しく上下に揺さぶられたシーフはオェッと嗚咽を漏らし口元に手をやった。



「……日の本へ行け、そうすればお前の求めている答えがある」



「わかったね! 行ってくるある!」



 チリーンと首に下げた青い鈴を鳴らして少女が道場を立ち去った。


 そしてしばらくして、1人の男が師範シーフ代に寄ってくる。



「あのような少女に日本でドラゴンカンフーの師範を任せるなど約束をして良いのですか? 彼女は道場に来てまだ3週間しか立っていないですぞ」



「良い良い。どうせ、悪き龍などおらん。そんなもの二千年前の童話にすぎない。現実にいると思うか? ドラゴンなんて。ドラゴンカンフー開祖であるご本尊様が龍を封じたと言われているが、相手は大陸を滅ぼしかけた龍だぞ? カンフーで太刀打ちできるわけなかろう。それにこのままだとこの院自体があいつの特訓で破壊されてしまうからな」



 師範シーフは大きな穴が空いて日が差し込む道場の壁を撫でた。



「ドラゴンカンフーは人が龍に近づくための極意じゃ。ドラゴンが人になるための極意ではない」



「おっしゃる通りです」



 弟子はその開いた穴から、外を見る。そこには地面を埋もれさせるほど倒れている千はゆうに超える門下生の姿があった。



「まったく山で倒れていたから保護しただけで、とんだ拾い物だったわい。善意で人助けをするもんじゃないのぉ」



「まったくですね」



 老師は痛む腰に手を当ててクマのように身体の大きい弟子に肩を支えながら道場を後にする。



 神の悪戯か、それとも運命の悪戯か凌龍リンロイは再び日本の地に足を踏み入れるのであった。

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