第45話 あなたの夜が明けるまで 2
ベルベは口端を釣り上げてにぃと笑った。
白い石人形の手に集まった赤いエネルギーが小さな太陽を作るように膨張した。
『おいっオイオイ! どうすんだよ。ちびっ子は倒れちまったし、頼りの綱の盾は奪われちまったじゃねぇか!』
耳元で叫び声を上げる鍵の言葉に血の気が引き、冷や汗が背中を伝う。何か打開策は無いかと俺は周囲を見渡す。
しかし、開けた場所で何も見当たらない。それどころか避けることすら間に合うだろうか?
無理だ。あんな広範囲に光線を撃たれたら追尾されて追い付かれる。
何かに隠れることは?
岩場の山にぽっかりと空いた穴を見てそれが得策では無いことがわかった。
積んでいる。
シールドを奪われた時点で勝ち目は摘まれてしまった。
「どうにかできないのか?」
『無茶言うな! 俺が影響を及ぼせるのはお前だけだ。せめてお前が触れてれば盾の主導権を奪い返せると思うが、またすぐに奪われるのが目に見えてるぞ』
「だったら発射される前に倒すしかーー」
俺は思いっきり足を踏み込む。
「ない!」
『このバカぁあああああああ! お前はどうしてそう死に急ぐ! もっとやり残したことあるだろう? 若いねぇちゃんと遊ぶとか、駅で可愛い女の子を口説くとか美人な姉ちゃんに甘やかして貰うとかそんな欲望お前には無いのかよ』
「ないっ!」
年を取るごとに女性に対する欲望は自然と無くなっていったことを思い出し、そんな話をしている場合じゃないだろうと俺は飛来してくる小さな赤い光線を避けて進む。
「虫が1匹突っ込んで来たところで、何もできやしないのに」
べるべが手に持っていた大斧を振りかぶり、俺に向かって投げた。
『うぉおおおおおい!! 死ぬぞ。あれは死ぬぞ』
大袈裟に叫ぶ鍵の声に俺は
「避ければっいいだけでしょ!」
俺は片手で跳び箱を飛び越えるように大斧の腹に手を添えて側転をした。
「えっ?」
しかし飛び越えたはずの斧は、通り過ぎたはずなのに俺の後ろから迫るように回転音を立て迫る。
俺は後ろを向いた。
そこには3つのシールドを使って跳ね返り方向を変えた大斧があった。
そして目の前には発射された光線。
『あっ、詰みました』
鍵の言葉に俺は否定することなく同意した。
これで終わるのか?
俺は何もできずに、めいの残してくれたものも生かせずに?
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオ」
その時、地面に倒れ伏せ目をつぶっていたはずの竜が起き上がり羽ばたく。
「しつこいやつ!」
嫌気がさしたようにべるべが叫んだ。
竜は石人形に向かって翼を羽ばたかせ喰らいつく。
キュゥウウウィイイイイイイイイイイ!!
光線が俺の顔の真横を通り過ぎた。
これなら行ける。
俺は迫り来る大斧の刃先の中央を蹴り上げる。
「グゥウッ!」
思ったよりも重い。歯を食いしばり、力任せに蹴飛ばした。
後方倒立回転跳び、通称バク転を繰り出し、くるりと後ろに回った足が地面についた。
「いくよっ」
『はっ? 行くよってどこっに、うぉおおおおいいい!?』
俺は飛び上がると空中でクルクル縦に回転する大斧を掴んで、べるべの真上から振り落とす。
「あら、怖いお兄さんっ」
べるべは俺のいる方にシールドを展開する。
「はぁああああああああっ!!」
シールドと大斧が当たってバチバチと電流が走る。
「そんな攻撃じゃぁ、べるべに届かないよ」
「じゃぁ、これなら」
斧から手を離すと、俺はシールドに向かってグーに握った拳を振り下ろす。
『よっしゃぁ! 接触感知! コード侵入、上書き、アップデート、処理、処理、処理、処理、ここだぁ!』
「はぁあああああああああ!」
シールドに徐々に俺の拳が侵入していく。
最初は抵抗を感じていたが、半分ほど侵入すると押し出されていく感じがした。
あれ、これ力が増してない?
そして全身が潜り抜けて、べるべの前へと抜けた。
「くらえ! 必殺猫ぱぁあああんち!」
「何それ?」
べるべは右手を横にスクロールするように動かす。
「ぐぇっ!?」
横から飛来した盾が身体を打ちつけて俺は吹き飛んだ。
『全然ダメじゃねぇか!! 何してんだお前!!』
地面に打ちつけられ潰れたカエルのようにへばりついた俺を鍵が耳元で怒鳴りつける。
その後ろで黄金のドラゴンが地面に背中を打ちつけるように落ちて地面が揺れた。
俺は鼻から血が垂れる顔をあげる。
大斧を空中で回したべるべが俺に狙いを定め振り下ろす。
刃は地面を抉り、俺は右に避けた。
そして起き上がったドラゴンの尻尾が頭上を横切り、振り上げていたべるべの斧を引っ張る遠くへと飛ばした。
キュィイイイイイイイ
赤黒いエネルギーを上空で溜めていた石人形はドラゴンに向けて光線を放った。
俺はドラゴンの背中を駆け上がり前に出る。
「シールド!」
放たれた光線は六角の盾に阻まれ、あたりに飛び散った。
背後にいたドラゴンが翼を羽ばたかせ空を飛び上がる。赤い鮮血が滝のように地面に落ちて行った。
飛び立ったドラゴンは俺の背後に突進してきた。
「うわぁ!」
俺はドラゴンの頭部に乗っていた。
そのまま上空にいる石人形に向かって飛行し、その周囲をぐるりと回るように旋回する。
石人形の光線もそれに追尾するように放たれるが、シールドに阻まれてドラゴンへと到達しない。
「いくよっ」
『いくってなんだってうわぁああああああああああああ!!』
ドラゴンの頭部から跳び俺は光線を撃ち終えた石人形の前に拳を振り上げる。
その前にはシールドがある。
『おい、そのままだとその自分のシールドに突っ込むぞ!!』
「いいの!!」
さっきの力が増した感覚が、俺の勘違いじゃなければ、このまま真っ直ぐいけば必ず何かが起こる。
「ねこぉおおおおお!!」
六角形のシールドを通り越すと、バチバチと身体が押し出され、俺の身体は大きく加速する。
そして青白い電流をまとった俺は石人形の頭部に拳を振り下ろす。
「ぱぁああああああああんちぃいいいいいい!!」
俺の拳が当たった石人形の頭部に亀裂が入ってピシッピシっと音を立てて砕けて行く。
しかし、手に抵抗を感じた。
あれこれって跳ね返されている?
手と石人形の間に何か障壁らしいものを感じる。
「そうやすやす、やらせるわけないでしょう」
べるべの操るシールドが俺の目の前にあった。
そしてべるべはもう一つのシールドを足場に上空高く飛び上がり俺に向かって大斧を振り上げた。
ここで手を退けないと斬られる。
でもそんなことをしたら、こんな機会は2度と訪れない。
手を離したらダメだ。
手を離したら、ここまで積み上げたものが無駄になる。
『手を離せぇえええええええええ!!』
「これで終わり」
俺の顔に斧が振り下ろされた。
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