第42話 おれ、幼女。目が覚めたらボス戦だった。7
「ミィイイイイイイイイイイイイ!」
その時、後ろにいた彼女が叫んだ。
『嘘だろ……どこにそんな力が残ってたんだよ』
彼女の胸元から透明な白く輝く球が俺の方へと向かって飛んでくる。
それは俺の胸元にある三つのタグのうち、一つのタグに吸い込まれて消えた。
光が吸い込まれた瞬間、タグは輝き出し、俺の顔の前に浮かび上がる。
「なに……これ」
タグには青く輝く見たことのない文字が書かれていた。
「クラス……チェンジ?」
見たことのない文字なのにその意味がわかった。
『ようじ、そいつを使え! それはお前に力を貸してくれるはずだ』
「わ、わかった!」
両手が離せない、俺は口で思いっきり噛んで掴みとる。その瞬間、タグから発せられた青い稲妻が身体中をかけ巡った。
タグは砕け散る。
「クラスチェンジっ」
光る白い砂となった砕けたタグは俺たちの周りを渦のように駆け巡る。
それはまるで俺たちを守っているようにも思えた。
「プロテクトディフェンダー!」
そう叫ぶと、目の前に光の砂は集まって、やがて、多角形の円が大、中、小と三つ現れる。
それはまるでカップケーキを焼く時に使うグラシンケースのような端のギザギザとした円で、互いに違う方へと回転し、小さいものは両手より少し大きめで、中くらいのものは身体よりも大きい、そしていちばん大きいものは大人の背の高さくらい大きさがあった。
それらの真ん中には空洞があり、俺の前で段重ねに3重のシールドを展開した。
その光景に俺は目を疑う。
先ほどまで防ぐのに精一杯だった赤と黒の光線が、目の前のドーム上のシールドに阻まれてそのエネルギーを散らしていた。
「これが、あの子の力……?」
赤黒い光線は三重のシールドによって阻まれて、俺たちの元へ到達することはなかった。
「ミ、ミィ……」
足を押さえていた小さな手が離れて、俺の後ろでぱたりっと倒れた。
俺が振り向くと地面に手を伸ばして倒れた赤ちゃんの姿があった。
「どうしたの!?」
慌てて駆け寄る俺に鍵は「はぁー」とため息をつく。
『力を使いすぎて意識を失ってるだけだ。すぐに消えやしない』
鍵の言葉を聞いても俺は息が絶え絶えな赤ちゃんの様子が心配で抱きかかえた。
「で、でも、こんなに苦しそうで……」
『そいつは赤子の姿をしてるが、本当に赤ちゃんわけじゃない。それよりも今は目の前の守護者をどうにかするのが先決だろう……
ところで、お前なんで光ってるんだ?』
「えっ?」
そう言われて気がついた。俺は青白く光り輝いていた。たぶん赤ちゃんを抱き抱えたあたりから発せられ始めた。
その輝きは腕にいる赤ちゃんの元へ集まっていく。
『こいつは……』
「な、なに? なにが起こってるの?」
『どうやら、お前とこの赤子は繋がりができているようだな』
「繋がり? それはどう言う……こと?」
『早い話。赤子がお前から力をもらってるって話だ。そのおかげで存在の揺らぎが少しだが収まってきている』
その言葉に俺はホッと胸を撫で下ろす。
「よかった。それじゃぁこの子は大丈夫ってことだね」
『大丈夫なわけあるか! 俺とお前の力が吸われてるって話だからな!』
「いやでもこの子の力に助けてもらったのに……」
『それはそれ! これはこれ!』
光線の赤黒い光が止み。
上空に浮かぶ白い球体、はエジプトの壁画のような黄金の瞳をこちらに向けてじっと見下ろしてくる。
3枚のシールドは俺の左腕のところに戻ってきた。そして3枚円が重なり合うように収まった。
「赤ちゃんどうしよう」
『そんなの地面に寝かせとけばいいだろう』
「そんなことできないよ」
こんな小さな子を1人で置いておくことなんて、妹がいる身としてほっとけない。
『じゃぁ一緒に連れていくか? そっちの方が危険だと思うが』
鍵の言う通りに、俺と一緒にいる方が危険が大きい。
「そうだ。シールドの一つを使って……」
『お前なぁ、盾がそんなものになるわけないだろう』
俺の言葉に反応した、いちばん小さなシールドが俺の前に来て止まる。
そして円が回転し、半透明なシールドの形がバケット状のベビーベットに変わった。
俺はそこに赤ちゃんを寝かせた。そして肌掛け布団もかける。
「よし」
『よし、じゃねぇよ! まったくどうなってるんだよ。その盾』
「シールドの形が結構自在に変えられるみたい」
『ずいぶんなハイクオリティな盾だな』
鍵は感心したように言う。
「ここで待っててね」
先ほどよりも落ち着いた呼吸をして、安らかに眠る赤ちゃんの額を撫で、俺は前へ一歩を踏み出す。
目指すところは地面に突き立っている剣がある場所だ。
俺の行動に気づいた白い球体は光線を俺に向けて撃ってくる。
それはチャージしていないせいか細く、すぐに途切れる。
俺はそれを交わし前に進む。
ダッー、ダッーダッー……
一発ではなく立て続けに攻撃は続く。
「はっー!」
俺は身軽な動きで、スレスレのところを交わす。
そして走り様に、持ち手が円形で根本が太い平たいクナイのような形をした黒い剣を引き抜く。
「ーーいくよ」
『準備はできてるぜ』
前を向きで姿勢を低くし、より一層強く地面を蹴る。
顔に当てる空気圧が強くなる。
通り過ぎていく景色が横を流れていく。
白い球体の攻撃は近づくほど激しさを増し、光線は俺の行く先を予測しているように撃ち込まれ始める。
『おい、このままじゃ、近づく前にやられちまうじゃないか?』
「だったらやられる前にやるだけだよ」
俺は身を翻して光線を交わし、着地を狙った追撃をシールドで防ぐと、そのまま地面についた足をより一層強く足を踏み込んだ。
光線も追いつかない速さ。
トップスピードで駆け抜ける。
そして白い球体の下までたどり着く。
「捕らえた!」
俺は地面を蹴って大きな跳躍する。
届く。そう思った瞬間、白い球体との距離は近づくどころか遠く離れていった。
『おい、嘘だろ。あいつ上に行きやがった』
攻撃が届かないように上空高く浮かんだ、白い球体に俺は腕を伸ばす。
そしてーー落ちていく。
うそ……だろ。
俺はここまでなのか?
あともう少しで手が届きそうなところまで来たのに、俺はまた負けるのか?
そんなの…………嫌だ。
嫌だ。
「ーーまだまだっ!」
俺は空中にシールドで足場を作った。それを膝が曲がるほど深く踏んで、さらに高く飛ぶ。
「いけぇええええええ」
空に向けて撃ち出した人間砲弾のように急上昇し、誰もいない上空へと俺の身体が舞う。
「これで決める」
白い球体の頭上から俺は剣を右肩より高く振りかぶる。
「落ちろっ!」
大きく振りかぶった剣を力の限り白い球体に叩きつけた。
剣の刃が球体の中へと入って切れていく。その感触が手に伝わってくる。
「とりゃやあぁあああああああああああああ!」
そしてそのまま地面へと斬り落とす。
頬が風を切り、耳にごぉーと落ちる空気の音が流れて込んでくる。
目の前に迫る地上の地面。
激突する衝撃。
割れる岩盤。
そして黄金の瞳を鈍い輝きに変え機能を停止する白い球体。
俺はその上で立ち上がった。
「どうだ!」
『よくやった!』
鍵の言葉に俺は笑みをこぼしながら意気揚々に地面に飛び降りる。
「あらら、倒されちゃった〜」
べるべは白い球体の後ろから姿を現し、口元に手を当て笑う。
「強いな〜このままだとべるべ倒されちゃうかも」
おどけた風に言う彼女に俺は少しムッとなる。
「どうする? これで守るものもいなくなったけど?」
「へぇ〜ずいぶん強気になっちゃって」
べるべはそう言って背後から透明なシャボン玉のような球体を取り出した。
「じゃ〜ん! これなんだぁ?」
その中に入っていたのは額に赤い結晶がある、新緑樹の髪色をしたロップイヤーのように毛深く垂れた耳を持つ赤ちゃんだった。彼女はシャボン玉のような球体の中から手を当てて俺のことを見ていた。
「み、みぃ!」
「どうして!?」
俺のシールドが守っていたはずだ。それがなぜべるべの手に渡っている。
「うふふっ、べるべそう言う顔が大好き! 本当に馬鹿。あのくらいだったらべるべだって簡単にハックできちゃうだから。あはははっ! ねぇ、もっとその歪んだ顔を見せて」
「何を言って……」
その時、背後の白い球体が動いた。
「えっ?」
宙に浮かぶ白い球体は瓦礫を落としながら空に上がり、そして俺が切り裂いた場所が開く。
「さぁて、本当のガーディアンのお目覚めだわ。ここからが本当の勝負の始まり! わくわくしちゃうね」
割れた白い球体の中からズルリっと何かが落ちた。
それは手足の細い球体人形のように見える歪な白い石で作られた、まるでウェディングドレスをまとった女性を模して作られたかのような石人形だった。しかし、それは人としてはあまりにも不完全で、河原の石で作ったような原始的な要素があった。
「さぁ、第二ラウンドが開始だよ。すぐに死んじゃあ。ダメだよ。もっとべるべを楽しませて」
彼女はそう言って口の端を大きく釣り上げて笑った。その左手には身体に不釣あいな大きなアックスが握られていた。
「もちろん逃げちゃダメ。動いてもダメ。べるべが間違ってこの子のこと武器でぺしゃっとしちゃうかもしれないからね」
無垢な笑みでそう言う彼女に俺ゾッと背筋が凍りつく。
そして白い石人形は俺の方へ手を向け、周囲からエネルギーを吸い取るように赤黒い球体を作り始める。その周囲には持ち手が輪のような黒い剣が円を作るようにクルクルと舞っていた。
俺の手元にあった同じ剣も、欠けていた円に混じるかのように白い石人形の元へと飛んでいく。
「そう、そう。その顔が見たかったの。何をしても無駄。どうやっても逃げられない絶望した表情。べるべその顔を見るとゾクゾクしちゃう。あっ、まさか盾で防ぐなんて野暮なことはしないよね?」
べるべはアックスを赤ちゃんが入ったシャボン玉の上に置いた。少し力を込めれば、幼い身体にはひとたまりもない。
『おい、もう、赤子のことは諦めろ! このままだったらお前も死んじまうぞ! どうせ、お前が無防備に攻撃を受けたって、あいつは赤子を殺すぞ』
鍵の言葉が空虚に俺の耳に響いた。
どうすれば?
どうすれば助けられる?
俺は考えたが答えは出なかった。
その時だった。
『ギャァオオオオン』
モンスターの雄叫びが広い岩場に響き渡る。
俺は白い球体が出てきて開いたままの空間の穴を見た。
『ギャァオオオオオオオオオオオオオン』
その声は確かにそこから響き、ビリビリと俺の身体を震わせた。
「なに?」
べるべが空間に空いた穴を見上げてそう呟いた。
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