第37話 おれ、幼女。目が覚めたらボス戦だった。2
俺は剣を構える。
巨大な黒い少女は四つん這いになって俺を見下ろし悲しそうな目つきをしていた。
まるで涙を浮かべているようそんな表情で巨大な黒い少女は俺に拳を振り上げた。
目の前に来る巨大な拳。俺はすぐ真横に飛び退いた。
「いっーー」
地面が割れる音と強烈な衝撃波に押し飛ばされ、俺は地面を転がった。
「いたたたた……」
顔を上げて元いた場所を見るとまるで地面がグシャリと押し潰したように陥没していた。
あの拳に当たったらひとたまりもないな。
俺は起き上がるとすぐに。
ゆっくりと地面から手を持ち上げる黒い少女の腕に飛び乗り、駆け上がっていく。
よし! このまま行けば頭を狙える。
流石にこのモンスターも頭部を斬られればただではすまないだろう。
肩まで駆け上がって高く飛び上がった。
「いっけぇえええええええ!!」
振りかぶった剣が巨人の額に吸い込まれるように落ちていく。
その瞬間、黒い少女の瞳の中で。
黒で塗りつぶした瞳で俺を見上げる少女と目が合った。
はなだった。
「……えっ?」
俺が剣を振り下ろさず落ちていくと。
右から来た黒い少女の手に弾き飛ばされる。
「やったぁ! ざまぁみろ」
めいは興奮したように叫ぶが、苦しそうに胸を押さえる。
俺は地面に叩きつけられ転がり、そして起き上がり黒い少女を見上げた。
「なんで、なんで……」
ひらりとシロツメグサの花が地面に落ちた。
「あそこにはながいるの?」
「えっ?」
俺の言葉にめいは目を丸くし信じられないように立ち尽くす。
「どうして、そこに」
「うるさい、うるさい! うるさい!! そうやって私を動揺させて、油断を誘うつもりでしょう。でもね。私はもう2度と騙されないの。こいつを消して! お願い!!」
めいの言葉に黒い少女は口を開けて、そこから白く青いエネルギーを球体に変換し溜め始める。
「やめて、めい! はなが苦しんでる」
「あなたにはなの何がわかるの!? あの子がどれだけ苦しんだか、勝手に知ったように語らないで!!」
口にエネルギーを溜めながら、巨人の瞳の中にいるはなは黒い涙を流していた。
それは俺のためじゃない。
自分がめいの命を蝕んでいることに苦しんでいる。そのことに彼女は泣いていた。
めいを助けてーー
はなの口がそう動いた。
俺はフラフラとしながら立ち上がり、放たれたエネルギー波の前に立った。
足に力が入らない。
「消えろぉおおおおおお!!」
めいの叫び声。
放たれたエネルギー波は地面を削り一直線に、俺の元へ飛んでくる。
これは……かわせない。
もうダメだ。
俺が目を閉じた。
ごめん、ほのか約束守れそうにない。
ふと、俺の脳裏に妹の顔が浮かんだ。
その時、目の前に大きな壁が現れる。
「……ッグゥ!」
それは壁でなく人であった。フルプレート装備の巨漢。タワーシールドを構えた冒険者。
『め、メイン盾きたぁーーーーー!!』
『待ってましたぁ!! これで勝つる!』
『主役の登場』
『トゥクンッ!!』
『おせーぞ!』
「あ、ありがとう」
青い閃光を放つ盾の後ろに隠れながら、俺は目の前の鎧を来た冒険者にお礼を言う。
すると彼は俺の方を見てコクンっと頷いた。
「ようじ殿! 助けに参ったぞ」
「私もいますよ メガネをクィ!!」
スーツ姿の男と黒装束の男が俺の背後に姿を現した。それを見て俺はこう言った。
「誰?」
スーツ姿の男性のメガネにピシッとヒビが入る。黒装束姿の男性はどこかで会ったような声だが、思い出せない。
『あー……』
『これは不審者ですね』
『通報しまスタ』
『事案ですか?』
『もしもしポリスメーン?』
「なんなのあなたたち?」
めいは穢らわしいものを見るように三人を見た。
「ふっ、なんだと言われたら」
「答えてあげるが紳士でござる。私たちはー!! 通りすがりの」
「ジェエエエエエエエトルゥウウウマァン!!」
スーツ姿の男性がもの凄い巻き舌で言う。
「「幼女親衛隊!!」」
「フンッ! フンッ!」
そして三人は俺をセンターに囲うように各々ポーズをとった。
「へっ?」
俺は呆気に取られる。
「貴様は手を出してはいけない相手に手を出した。たとえ幼女だといえ、私の主に手を出したこと万死にあたいする。クィっ」
「何か事情があると思うでござるが、人を傷つけてまで自分の願いを叶えてはいけないでござるよ!」
「フンガーっ!」
「えっ? えっ?」
理解できず俺は左右に首を振っている。
「いくぞ、我が同胞」
「了解でござる」
「フンッ!」
走り出す三人。取り残される俺一人。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアア!」
叫ぶはなの拳が三人の頭上に振り落とされる。
「フンっ!」
タワーシールドを頭上に構えて受け止めた。地面が陥没しているが耐えている。
「にん、にん。今日は動きやすいから本気を出すでござる」
その隙に黒い少女の腕を駆け上がる黒装束の男。彼は肩口まだ登ると、飛び上がり、黒い少女の首元目掛けて構えた剣を振り落とす。
「ーー秘伝忍術首落とし。これを食らったものは死ぬ」
ズシーンっと音がして黒い少女が前のめりに倒れる。
「安心するでござる。峰打ちでござるよ」
倒れた黒い少女の近くで彼は華麗に着地した。
「受けよ。我が新鋭なる奥義」
スーツの男が地面を直立したまま滑るように進んでいく。まるで氷の上を滑っているかのようだ。
「こっちに来ないで!」
ビジネススーツの男はめいが影から繰り出す黒い弾丸をまるで、まるでアイススケートの演技をしているかのように華麗に交わしていく。
「ふははははっ、遅い。遅い。遅すぎる! こんな攻撃では私を止まらない」
「なんで……なんでっ。当たらないの」
「教えてあげようか、お嬢ちゃん」
めいの後ろに回り込んだビジネスマンの男は耳元で囁いた。
「それは愛、だよ」
男は愛の部分をねっとりと強調して言う。
『キモっ』
『寒気がしました』
『なんか癖になる』
『この人1番まともそうでどうして1番狂人なんだ』
『日本の社会が生み出した闇』
「近寄るなぁあ!」
「哀れな子羊よ、汝に永遠の安息をーー」
めいの足元から3人の黒い影の人が現れてビジネスマンの男を掴もうととする。
「ジャッジメント」
男がメガネをクィっとするとその影たちに光の矢が刺さり消滅する。
「なっ……」
「おいたが過ぎたようだね。お嬢さん」
めいに近づこうとビジネスマンが一歩踏み出した時、その腹部を赤いレーザーのようなものが打ち抜いた。
「ーーグぅっ!?」
ビジネスマンの腹部がなくなり、身体が半分になった彼は地面に倒れる。不思議なことに身体からは血が流れていない。
しかし、消え去った部分から四角くて青い、中に赤いものが混じったキューブが出ていき、それが泡のように徐々に広がっていく。
俺は何が起こったのかわからなかった。めいも同じように立ち尽くしている。
「むっ!? 殺気!!」
黒装束の男が何かに気づき飛び退くとそこに巨大なアックスが地面に突き刺さる。
「あれ避けられちゃった」
「何奴!?」
ピンクのボサボサの髪に、白いエプロン、そして赤いワンピースを来た少女の姿がそこに姿を現した。
「見た目は少女でござるが、片手で巨大な斧を持ち上げるその筋力、お主ただものではござらぬな」
黒装束の男はそう言って少女の背後に回り込んだ。
「私はべるべ。強欲なべるべ。お兄さん。あなたはもう死んでるのよ」
黒装束の男を赤い光線が撃ち抜いた。
「なっ……」
ビジネスマンの男同様、無くなった半分になった胴体から四角い青い輪郭の中に赤い煙のようなものが漂うキューブ。それがたくさん溢れ出て行く。
「ふ、不覚……」
彼は首を地面に落とし動かなくなった。
「弱いのに前に出てくるからだよ。次は気をつけてね。お兄ちゃん」
キューブの泡となって消えた黒装束の男を見下ろして彼女は言った。
『なに、この子……』
『おい、ドラゴンにも負けなかったパーティメンバーを二人も……』
『何が起こった?』
『わからん』
「久しぶりだね。めいちゃん。その様子だとあげた力を存分に使っているみたいだね。ふふふー! べるべたちは役に立ててうれしーな!」
「話が違うじゃない!」
めいは近づいてくる、べるべに声を荒げ睨みつけた。
「話? なんのことぉ〜?」
べるべと名乗る少女は首を傾げてめいを見る。
「あなたこの力を使えばはなを生き返す願いが叶うって言ったじゃない」
「願い? 願いは叶えてるでしょ。何言ってるの?」
「叶えてるって……どう言うこと」
「ほら、あなたの後ろにいるじゃない。まさか親友なのに気づいていないとか。そんなことないよね」
めいは後ろに立つ黒い巨大な少女を見上げた。
「う……うそ……これが……はな……なの?」
めいの質問に黒い少女はめいのことを静かに見下ろした。
「ぷーくすくすっ、もしかして本当に気づいてなかった? お友達がこんなモンスターになってるのに?」
めいはべるべの言葉が耳に入っていないようで、絶望した表情でその場に立ち尽くす。
「面白い! 私はあなたのそういう顔大好き。でもね。私、こういう遊び。もう飽きちゃった。だからばいばい」
彼女は拾い上げたアックスを振りかぶり、めいへと振り落とす。
「どっせいっーー!!」
俺はめいに体当たりするように押し倒した。めいがいた場所にアックスがのめり込む。
「あれ? やったと思ったのに」
「めい、逃げよう」
俺はめいの手を引いた。しかし、座り込んだ彼女は立ち上がることはなかった。
「……違う、違う。私のせいじゃない。私ははなをこんなふうにするつもりじゃなかった。私は、はなを生き返らせたかっただけなの」
「あれ? 1匹、増えてる。まぁいっか。早く終わりにしてマルコとダスターの元に帰ろう」
「な、なんでこんなことするの?」
「ん?」
俺の言葉に少女はアックスを振りかぶって止まった。
「変なこと言うね。どうしてって、それは生きるためでしょ。あなたたちだって生きるために豚や鶏、他の動物を殺すでしょ。私たちも生きるためにあなたたちを殺すの。だってそうしないとべるべたちは消えちゃうから」
彼女はにっこり俺に笑みを向けて言った。
「だからごめんね。あなたもべるべのために死んで」
振り下ろされたアックスが、前に現れた巨漢のタワーシールドによって防がれる。
「ふんっ!」
「あれ? あれれ? べるべの攻撃防がれちゃった」
少女は何度も振り下ろす、その度にシールドは嫌な音をして潰れて行く。その音が耳に響く。
「に、逃げて!」
このままじゃ、この人が死んじゃう。
「…………」
その人は一度だけ俺の方に振り向くと、また前を向いた。
どうして、この人は俺のことを守ってくれるんだろう。なんの関係もないのに、どうしてそこまでできるんだろう。
「あーもう、こいつ硬くてめんどくさい! べるべこう言うの嫌い!! もうやっちゃって!!」
少女はアックスを地面に突き刺すと、飛び退いた。その瞬間、上空から赤い光線が降り注ぎ首から下のプレートアーマーに包まれた胴体を撃ち消した。
「……ニ、ゲロ」
宙に舞う兜の隙間から覗く黒い目が俺のことを見て言った。
目の前に立っていたその人は、青いキューブの泡に飲まれるように消えていった。
「えっ……」
「もう、最初からこうしてればよかった。ねぇ。はぁースッキリした。ついでにあの二人もやっちゃって」
「えっ?」
何が起こっているんだ。
俺は赤い光線が飛んできた上空を見上げる。
上空には穴が空いてワームホールのような空間ができていた。
あんな穴、見たことない。
そこから白い球体が現れて、エジプトの壁画に描かれている目のようなもので俺たちを見下ろす。
そして輪のようなものが広がり、中心に赤く黒いエネルギーのようなものが集約されて行く。
その矛先は俺たちに向いていた。
あれは、喰らってはいけない。
俺はめいを連れて逃げようとする。しかし彼女は動いてはくれなかった。
一人で逃げることもできた。だけど、俺はめいを見捨てることはできない。
突然めいは立ち上がる。
「ふざけるな……」
「えっ……」
「ふざけるなぁああああ!」
彼女が吠えたと思ったら。
うつむいていた黒い少女の口に青と白が混じったエネルギーを溜め始め、それを上空にいる白い球体に向けて放った。
「まだ、生きてたんだ」
べるべはポツリと呟く。
赤い光線と青い光線がぶつかる。そして、白い光となって。地上に爆風が押し寄せた。
「ゲホッ……」
衝撃が収まり、めいの口から血が溢れ、口元を顎にかけて下っていく。
「めい、逃げよう」
「いや、私は逃げない」
「死んじゃうよ」
「いいの。私はもう長くないから。ごめんね。こんなことに巻き込んで」
「えっ?」
「あなただけでも逃げて」
次の瞬間、黒い少女の口から悲鳴のような声が上がる。
黒い少女の腕がなくなり青いキューブの泡となって消えていった。
「私は自分のした事のけじめをつける」
白い球体は、再び黒い少女を赤い光線を放つ。黒い少女は悲鳴をあげ、めいは両手を地面について倒れ込むように膝をつく。
「めい、大丈夫」
「はぁっ、はぁあっ、はぁっ……」
「あー違う、違う。そっちじゃなくてこっちの人を狙えばすぐだから」
べるべの言葉に白い球体が俺たちの方を向く。
「逃……げて……」
弱々しい声でめいが俺に言った。
ごめん、ほのか。お兄ちゃん約束破る。
俺はめいを庇うように覆い被さる。
「馬鹿……」
めいの弱々しい言葉に俺は笑った。
馬鹿だけど、俺は間違った選択はしてないと思いたい。
白い球体から発射されたエネルギーは真っ直ぐに俺たちの方へと向かってきた。
俺は目を閉じて衝撃が来るのを待った。
リーンっと音が響き、俺は衝撃が来ないことに気づいた。
俺が目を開ける。
前には青い髪の女性が俺たちの前に立ちはだかり、青い障壁を張って守っていた。
ダンジョンで何回か俺を助けてくれ女性だ。
彼女は手を広げて、光線を押し留めている。
しかし、その障壁もヒビが入り、いつ砕け散るかわからない。
「ミィイイイイ!!」
彼女は声をあげて押し返そうとする。
障壁が広がり光線を押し返す。
しかし、赤い光線は障壁の隙間から入り込み散乱した。
その赤い光が彼女の身体を無惨に貫く。
「ミ……ィ?」
彼女は地面に倒れ伏せる。
傷口が青いキューブの泡で溢れてきていき。俺は彼女に近づくが、赤い光が前を遮るように落ちて行く。
「ミィ……」
キューブの泡が消え、青い女の人がいたところにはエメラルド色の癖っ毛をした四つん這いの赤ん坊が姿を現した。おかしなことに赤子の耳はウサギのように長く、額には赤い宝石のようなものが光り輝いていた。
まるで幻獣カーバンクルを人にしたような姿だった
赤子は自分の姿を見て驚いているようだったが、べるべと白い球体に向かうと、手を振り上げ、声を荒げる。
「ミィ! みぃみぃ、ミィ!!」
「誰かと思えば、私たちから逃げ出したザコじゃない。ぷぷぷっそんなに小さくなって、もう力も使えないじゃん」
「ミミミィ! ミィミィ!」
「何言ってんの? 意味わかんないだけど、ちょーうける!」
「ミィミィ!」
「あっもういいや。さっさっとやっちゃって」
「ミィ……!」
白い球体がエネルギーを集め始める。
それは目の前の小さな赤子になった彼女を狙っていた。
俺はまた守られてる。こんな小さな子に。
赤子になっても立ち向かうとする女の子。
俺はその前に立ち手を広げた。
「ミィ?」
「もう大丈夫」
俺は後ろで俺を見るエメラルドの髪の赤子に微笑んだ。
足が震える。今すぐに逃げ出したい。
「……怖い、でもここで逃げたら。おれは一生後悔する」
俺はその足を一本踏み出すように前に出して立ちはだかる。
「なぁに、ザコがしゃしゃり出ちゃって。そんなの壁にもならないよ」
そんなこと言われなくてもわかっていた。
白い球体から赤い光線が発射される。
その時、後ろのエメラルドの髪の女の子の額にある赤い宝石が光、眩しいくらいの輝いた。
「ミィィイイイイイイイイ!!」
自分の胸から出てきた透明な鍵。
その鍵は俺の前で宙に浮いていた。
「な、何これ」
「アクセスキー!? そんなところに隠してたの」
べるべが驚いたように俺と鍵を見る。
「それをよこしなさい!」
彼女はアックスを持って駆け寄ってきた。
俺は鍵を取って、目の前の空間に空いている鍵穴にさした。
ガチャッと音が一体に鳴り響き、空間の扉が開く。そして青いキューブが扉の奥から溢れ出てくる。
キューブの波が止み、目を開けると。
そこは見渡す限り一面に水が張った世界だった。
一本だけ線路がある。
俺はその場所に立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます