第34話 おれ、幼女。目が覚めたら病院生活が始まる。5

 ベットの上でおれは白い天井を見上げていた。

 あれ? おれ何をしてるんだっけ。

「ねぇはな。この花冠素敵だと思わない? はなのためだけに作ったの」

 椅子に座ってこちらを見る女の子。

 その子が差し出す薄紫色のクロバツメクサで編まれた花冠。

「あ゛……」

「ふふっ、気に入ってくれたのね。とっても似合ってる。はな」

 めいはそう言っておれの頭に花冠を乗せた。

 おれ……名前なんだっけ。

 思い出せない。

 はなではない気がした。

 でもはなのような気がする。

 わからない。

 わからない。わからない。

 わからない。わからない。わからない。

 わからない。わからない。わからない。


「あ゛ーーあ゛ーーぁ゛!!」


 どうして、なんで、何も思い出せないの。

 おれは何者。おれは誰? おれ、おれ?

「大丈夫、大丈夫。はな。私がいるよ。ここにいるから安心して。あなたをもう1人にしないから」

 めいはそう言っておれを抱きしめた。

「あ゛ーー……」

 おれは誰? 誰なの? わからない。

 わからないよ。

「め……い?」

 おれがそう呼ぶと目の前の彼女はおれから離れ、目を丸くして見下ろした。

「はな……私がわかるの!」

「はな?」

「そう、あなたの名前よ。成功したのね。はな……あなたの新しい身体。私があなたのためだけに用意したの」

「わたしのため……?」

「うん、そうよ。気に入ってくれた?」

 なんのことだろう。頭がボーとする。

「私、あなたのためならなんだってしてあげる」

 はながおれの手を引いて、ベットから下ろす。そして閉まりきっていたベットカーテンを開く。

「ここはね。はなのためだけに用意したの」

 そこにあるはずに病室の窓はなく、代わりに黄雲に囲まれたクロバツメクサの花が咲き誇る広大な花畑が広がっていた。

「二人だけの場所。ずっとここにいられるの」

「いる……?」

「そう、もう離れなくていいの」

 めいはそう言って、花畑の真ん中座らせたおれの首の後ろを抱き寄せる。

「めいは……いてほしいの?」

「うん」

「わかっ……た」

 おれは頷いた。

 おれの返事に嬉しそうにしているめい。しかし、誰かが二人だけの花畑に足を踏み入ると、めいの表情が変わって険しいものになる。

「なんのよう?」

 めいは侵入してきた白い髪の白衣を着た女性に低い冷たい声できいた。

「侵入者です。おそらくここに向かっていると思われます」

「そう、あなた迎撃しといて、絶対ここに近づけちゃダメだから」

「かしこまりました」

 女性はそう言うとその場を立ち去った。

 報告してきた彼女の目に光はなかった。

「誰かきたの……?」

 おれの言葉にめいは笑みを見せて誤魔化した。

「はなは気にしなくていいの。私たちの邪魔をする奴らは、ここには来させないから」



『おい、久しぶりに配信始まったらと思ったらなんだこれ』

『百合展開ですね。わかります』

『wktk!wktk!』

『ここ病気だよな』

『それ言うなら病院な』

『ダンジョン化してニュースになってるところじゃないか?』

『はぇ〜そんなところになってるところがあるんやね。知らんかった』

『↑知らんかったお兄さんはもっとテレビ見て』

『テレビ離れの波がここまで来たか』

『と言うか平日の昼間にお前ら何やってんの!』

『復帰配信と聞いて、体調不良って言って有給使った』

『学校早退しました』

『サボってます』

『働いていません』

『仕事中に見てます』

『どいつもこいつもしょうもなくて草』

『なんなのこれ?』

『どう言う状況?』

『深淵ダンジョン系か?』

『SAN値チェック入りまーす!』

『それだったらやばいな』

『ここも深淵で沈む』

『と言うかあの女の子の胸になんか埋まってる黒いひし形の宝石やばくない?』

『あれ、ダンジョンコアだろう』

『げっ、人と融合してるやんけ』

『大丈夫なのあれ?』

『大丈夫なわけがない』

『今のところ病院以外に被害ないんだろう?』

『わからんな。今後、範囲が広がるかも検討つかない』

『なぁ今朝突入した攻略部隊帰ってきてないって本当なの?』

『本当だぞ。後続も突入したけど帰ってきてない』

『人類初のダンジョン災害やんけ』

『その歴史的な配信をしてるのが幼女ってどうなの?』

『最高やんけ』

『↑配信者が正気ならな』

『お願いだから女の子2人生きて帰ってきて』

『それなー、片方おっさんやけど』

『!?』

『ひょぇ!?』

『な、なんだってー!!』

『衝撃の事実!!』

『お前らの反応わざとらしくて草』

『それに最強に冒険者入ったんだから大丈夫っしょ』

『まぁ、そうだな。こんな不完全な深淵系ダンジョンに現冒険者ランキング上位のあいつらが負けるわけない』

『勝ったな風呂入ってくる』

『おい、負けフラグ立てるな』

『ねぇこのケモ耳の可愛い女の子誰?』

『初見さん。いらっしゃい。ゆっくりしていってね』

『初見さん見てる?』

『最高の美少女だぞ。とりあえず見ていけ』

『なんで視聴者が配信者の代わりしてるんですかね』

『放置配信スタイル』

『画期的だな』

『実況がセルフ』

『切り抜きまだかー?』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る