第6話 おれ、幼女。警察のお世話になる。2

 大分ようじ、幼女になってから2日目。


 パトカーに乗せられ、幼女誘拐の現行犯として警察署へ向かう。


 どうしてこうなったか。

 俺は警察署の個室に通され婦人警官の人と二人きりになって考えた。


「はーい、お洋服を脱ぎ脱ぎしましょうね」


 警察官の彼女にシャツを脱がされ、俺はバスタオル一枚の女児となる。

 それにしてもこのお姉さんすごく手際がいいな。さすが、普段から街の平和を守っているだけのことをもある。きっと子どもの相手もたくさんしているのだろう。


「これをはいてね」


 ストライプ柄のパンツを渡され、俺は指示に従いはくことにする。右足をあげて、パンツを通し、左足をあげてパンツの穴に足を入れる。そして床に落ちたパンツのゴムの部分を両手で持って引き上げる。うんジャストフィット。まるで俺がはくためだけに用意されたパンツみたいだ。


 あと意識して自分の今の身体を見てみると結構もちもち、ぷにぷにしてるんだなと思った。特にお腹、太ってるわけじゃないけど少しぽっこりしてる。ただ少し肋骨が薄く見えるが気になるけど……ちゃんと飯を食べてるのか俺? 



「ちゃんとはけたね。えらいえらい」



 お姉さんに頭を撫でられた。

 むぅ、なんかこそばゆいな。

 若干、頬が熱くなる。近くで見るお姉さんの破壊力ははすごい……特に胸が。

 まだ女性とお付き合いしたことのない男子なら一瞬で目が奪われ虜にされる。そのせいか俺の視線が釘付けになってお姉さんの胸から離れない。くっ、これもあの宝箱の呪いか。


「さてと」


 立ち上がったお姉さん。部屋の外から衣装ラックをガラガラと部屋に持ってくると、埃よけの布引っ張ってとっぱらう。



「それじゃあ次はこの服の中から1着を選んでね」

「こ、この中から?」



 持ってきた衣装ラックにはぎゅうぎゅうに子どもサイズの服がかけられていた。それもどれもこれもがフリルとか付いて凝った衣装が多い。



「遠慮しないで。さぁどうぞ」



 警察署になんで幼女用の服があるんだ? と思ったが、忘れ物とか、行き場のないものを再利用して保管しているのかもしれない。うーんメイド服まである。こんなのを忘れる人もいるんだな。

 俺は世の中の需要の広さを知った。



「こ、これ……着ていいですか?」



 俺が選んだのは白いワンピース。裾に水色のフリルが付き、胸元には目立つように赤いリボンがついていた。

 ものすごく女の子らしい感じがしたが、今の俺は女の子だ。着用してみても問題ないだろう。あと選ばなかった他の洋服はちょっとマニアックなものが多かった。

 うん、バニーガールの服とか忘れる人いるんだな。

 これは本当に忘れ物なのか? と疑問に思ったが、あえてつっこむのはやめた。世の中にはつつかないほうがいい薮もある。つつかないほうがいい性癖もある。

「うん、うんすごく似合ってるよ。あとこの水色のカチューシャもつけたら可愛いわ」

「そ、そう?」

 お姉さんは手に持っていたカチューシャを俺の頭につける。

「ほーら可愛い! すごくいいよ。素敵なお洋服を着ることができたから。お姉さんと写真撮ろう。ほらピース、ピース。笑って笑って」

 お姉さんはそう言って俺の肩に手を回し、ぎゅっと引き寄せる。

「えっ? あっ、はは?」

 さすが警察のお姉さんだ。子どもの緊張をほぐす手段を色々と持っていて、場慣れしてる感じがすごい。俺も思わずピースした。

 なんか、こんな素直になるなんて幼い身体に意識が持っていかれてるのかな?

 お姉さんは写真を撮り終わったあと、しばらく画面をじっと真剣に見ていた。

 

 どうしたんだろう。ボーとかたまって……



 お姉さんの口からは涎たれていた。



「ごめんなさい。お腹すいちゃって」

 まぁそうだよな。もうお昼の12時回ってるし、お姉さんご飯の写真でも見ていたのかな。

 そういってお姉さんは慌てた様子で口元を拭った。

「それじゃぁ、着替えも終わったし、この椅子に腰掛けて。お姉さんが軽く質問するけど、無理に答えなくていいからゆっくりと話してね」

 俺は足が地面に付かないパイプ椅子に座った。お姉さんは俺の向かいに座ると、タブレットを持って笑顔を見せる。

「それじゃぁ質問するね。あの部屋にはいつからいたか覚えている?」

「えっと、6年くらい前から……」

 ダンジョンでの収入が落ちてからずっとあの部屋にいる。前はもう少し広い部屋に住んでいたが、家賃がダンジョン収入のほとんどを占めるようになり引っ越した。

「6年も前に……次はお名前は言える?」

「大分ようじです」

「大分ようじちゃんと……ところでようじちゃんはメイド服とバニーガールは好きかしら」

「えっ?」


 その質問にどういう意図が含まれているんだ。


 もしかして、誘導尋問か?!


 俺の正体はすでにばれていて、彼女は俺のことを幼女になった変質者の男として疑っているのだろう。



 だからここは、重要な局面だ。慎重に答えを返さなくちゃいけない。そうお姉さんの質問の意味を完全に理解して幼女らしい答えを返さなくては俺は幼女偽造罪で有罪を受け、そのまま牢獄暮らしになってしまうのだ。

  俺は質問の意味を真剣に考えた。


 メイド服、バニー、お帰りなさいませご主人様、ピョンピョン、うさ耳メイド、かわいい、萌え萌えキュン、網タイツ……


 頭の中で『ワード』の方程式が組み合わされていく。


 幼女×メイド服=かわいい+フリフリ=最高、幼女×バニー=貧乳バニー×羞恥赤面顔が最高!!


 ダメだ、ダメだ! わからない!! こんな高度な質問わかるはずがない!!



 俺はなんと答えればいい? 

 この質問になんと答えるのことが正解なんだ!?


 俺はお姉さんの顔色を窺うように、うつむいていた顔の視線を少し上げて彼女の様子を見る。

 お姉さんは笑顔のままずっと俺を見てる。背後から差し込む蛍光灯の明かりで笑みのある彼女の顔が陰で隠れ、2つの瞳だけがしっかりと俺のことを捉えていた。

 まるで、蛇に睨まれたカエル。

 俺は緊張のあまりはぁ、はぁと浅い呼吸を繰り返し、膝を握った手の裏が汗でびっしょりと濡れ、熱くもないのに頬に汗がツゥーとこぼれた。

 判断を間違えれば、それはすなわち俺の人生のバットエンドを意味する。

 俺は口腔内が乾ききった口を開き、ノリでくっつけたような乾燥した唇で答えを述べた。


「好きですけど……」


 答えることを躊躇した俺の答えに、警察のお姉さんはうんうんと腕を組んで頷く。


「メイド服、バニーガール共にOKと……よしそれじゃぁ露出の多い服とかはどう」

「なんの質問ですか」

「真剣に答えて、真面目な話よ」

 お姉さんは俺にグっと顔を近づけじっと見た。すごい気迫だ。これも必要なことなのだろう。俺は指示に従うことにする。

「あ、あんまり好きじゃないです」

 俺が答え終わって、お姉さんの顔を見上げた。お姉さんはじっと見てくる。まるで俺が嘘をついているのを見抜いているように。なんでだ。俺がビキニギャルが好きなことを隠しているムッツリスケベなことを見透かしているようじゃないか。

「ほ、本当は……ちょっと好きです」

 手をもじもじさせて俺は言う。人に言えない自分の趣味を暴露しているようで最後の方の声が小さくなってしまう。

「露出は少なめも可」

 お姉さんは俺の答えに満足そうにタブレットをいじる。

「さて次な質問は年齢を教えてくれるかな」

「…………」

「ん? どうしたの」

 俺は下を向いた。自分の正体がバレるからだ。

 どうする? この見た目通りの年齢を言って誤魔化せばなんとかなるか? いけるかもしれないけど、妹のほのかは俺のことを知っているし、同じ警察署にいるのだから嘘をついてもいずれはバレるんじゃないか。

 そう考えると本当のことを言うしか残されていない。チーン、とトーストが鳴る音が頭に響いた。俺の人生はもう真っ黒コゲの食パンになるしかないようだ。

「……34歳です」

「ごめんなさい。声が小さくて聞こえなかったわ、もう一度教えてくれる」

「34歳です」

「…………聞き間違えかしら? 34歳って聞こえたんだけど」

「はい、34歳です」

「…………うーん?」

 お姉さんは俺のほっぺを両手で持ち上げるようにぷにぷにした。そして身体をペタペタと触る。

「肌の柔らかさは完全に10代ごろのもちもちすべすべな手触りの肌。どうしてあなたが嘘をつくかその理由がわからないわ」

 肌を触って年齢とかわかるんだ。やっぱり警察ってプロだ。

「う、嘘じゃないです。おれダンジョンの宝箱のトラップに引っかかってこんな身体になっちゃったんです」

「こんな身体……つまりあなたの元の身体は……」

「男です……34歳の」

 俺は全身が沸騰するように熱くなった。どうして美人な警察のお姉さんに自分が34歳の男性であることを暴露しなくちゃいけないんだ。知り合いに言うのも恥ずかしいのに、なんだこの羞恥プレイは。ゾクゾクする。

「信じられないわ」

 俺もまだ信じられてません。

「こんな絵画から出てきたような女の子が男だなんて、ちょっと待って確認したいことがあるの」

 お姉さんは顔を急接近したと思ったお股を撫でるように触る。

「なんですか……ひゃっ、うぅん!」

 思わず口から変な甘い声が出た。背中がビリリっと意味のわからない電流が走ったせいだ。

「下はついてないわね。目視でも確認したから間違えないと思うけど。不思議だわ。ちょっとDNAを採取したいから身体の一部をいただいていい? 結果はすぐに出るから」

「おれの話、信じてくれますか?」

「それは……半分かしら、どちらにしろ結果が出てみないとわかんない」

 お姉さんは爪切りでぱちっと俺の爪を切ると、プラスチックの試験管みたいなものに入れて液に浸す。

 俺は見ていただけだったが。あんなのでDNAの測定ができるのか半信半疑だった。

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